第149話 魔導王国を出た
二日後の朝。
いよいよ、帰国することになった。
王妃が、完治した以上、いつまでもここにはいられない。
留学は、見舞いの口実だったんだし。
皇女は、ほんとうに、幸せそうだった。
もとは、母親を見舞いに来たはずだった。
ところが、元気すぎる母親と一緒に帰国できるんだからね。
とうぜんだよ。
「ありがとう。君のお陰で、これからは、親子三人。
いっしょに暮らせるよ」
皇子も、嬉しそうだった。
__親子三人か
王妃は、公国の女王になった。
だから、
皇女も皇子も、
きっと、あまり接点がなかったんだろうね。
たとえ、血のつながりがなくても、家族になれる。
でも、血のつながりだけじゃ、家族にはなれない。
__どっちにしても
『ひとりでお留守番』は、終わったんだ。
皇女も、ようやく、家族団らんを
まあ、三人とも、忙しくなるとは思うけど。
__思えば
あの、ワイルド第一王妃は、犠牲者だったのかもしれない。
『南』と『北』をつなぎ続けるための、政略結婚の。
今、ようやく。『南』の貴族主義者と、決別することができた。
それは、第一王妃にとっても、喜ばしいことだった…とは思う。
あの性格で、貴族主義者と仲良くできるとは、とうてい思えないからね。
だからといって、あっさり割り切れることでもないだろう。
__でも
犠牲者というなら、もう一人いたはずだ。
それは、もちろん、
第一王妃が、魔導王国で治療を受けはじめてからは、別居中だったけど。
それまでは、たぶん。『DV(
だって、あの王妃。王国の『剣聖』なんだよ。
ちょっとでも、気に食わないことがあると。
デコピン一発で、吹っ飛ばされていたんじゃないんだろうか?
きっと、いつも第二王妃に、泣きついていたんだろうね。
第二皇子や皇女に甘くなったのも、わかる気がするよ。
その第二王妃も、権力欲の塊だって言うし。
なんか、いっしょう救われない気がしてきたよ。国王陛下は。
いるよね。そういう、不幸な星のもとに生まれてきたひとって。
__ちなみにだけど
第一皇子は、『
弟子であり、そして、母親の暴走を食い止める防波堤だったらしい。
マザコンって決めつけて、悪かったよ。
もちろん、本人には言えないけどさ。
*
「これを渡しておく」
魔導王国を出国する時。
女王が、ぼくに、メダルを差し出した。
「図書館の永久会員証だ。
これがあれば、いつでも、図書館の本を閲覧できる。
お前たちは、娘たちの命の恩人だからな」
「ありがたくもらっておく」
全員分、受け取って、みんなにまわした。
皇女たちや、クラスメートたちには、すでに渡してあるらしい。
彼女たちは、王妃を迎えに来た飛空艇に同乗して、先に帰国したからね。
__でも
ちゃんと、覚えていたんだね。
娘を助けたことなんて、もう、忘れてると思ってたけど。
さすがに、それはないか。
ぼくらにとっての魔導王国は、あの図書館だ。
けっして、魔導学院じゃない。
名目上は、留学生だったけど。
短期間だったし、講義も受けていないけど、けっこう勉強にはなった。
『銃』の減衰術式を理解できたし。
『召喚魔法』と『転移魔法』は、そこそこ使えるようになった。
すべて、図書館の本のお陰だ。
だから、『図書館の永久会員証』は、素直にありがたいと思った。
きっと、みんなも同じ気持ちだと思う。
うれしそうにメダルを見てるから。
魔導王国を訪れた、記念品にもなるしね。
かわいいちび皇女たちの姿は、なかった。
無断外泊未遂で、また『謹慎中』らしい。
「お前を見送れないのは、一番の罰になるからな」
「そうか?そんなことはないと思うぞ」
「何を言っている。すっかり、娘たちを餌付けしたくせに。
お陰で、お前と再婚しろと、毎日、うるさいのだぞ。
まあ、女王とは何なのか。
あらためて、みっちり、教えてやったがな……。
……そうだ。娘たちが、着替えに借りた服を忘れてしまった。
返そうと用意しておいたのだが……」
あの子たち、森の中を逃げ回っていたからね。
服もひどいことになっていた。
お風呂に入れたあと、ルリたちの下着や服を着せたんだ。
もちろん、新品だよ。
エルフたちが、次々と作ってくれるからね。
ウチの女の子たちは、かなりの衣装持ちなんだ。
「返す必要はない。
よければ、そのままもらってくれ。
要らないなら、処分すればいい」
「ま、まさか。シルクの下着や服だぞ。
とんでもない高級品ではないか。
そ、そういうことなら、ありがたくもらっておこう。
……娘たちも、きっと、よろこぶだろう」
「短い間だったが、世話になった。
図書館は、遠慮なく利用させてもらう。
その時は、土産くらいはもってくるつもりだ。
まあ、よろしく頼む」
「そ、そうか!お前にしては、気の利いたことをいうじゃないか。
……そうだな。その土産とやらを、楽しみに待っていよう!」
女王との挨拶をすませたあと。
ぼくたちは、馬車に乗った。
再婚とか言ってた気もするけど。
たぶん、聞き違いだよね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます