第110話 スライムのせい?

夕食の時間になった。



「また、めずらしいのが食べたーい!」



エルフ妹のリクエストで、ラーメンにした。



海の幸をふんだんに使っていて、塩味だからね。


海鮮塩ラーメン? 


いや、タンメンかな?




エルフの女性もドワーフのおばさんも、ラーメンはお手の物だ。


ほとんど、日本のラーメンと変わらない逸品を作ってくれる。



これは、もちろん、カップ麺のお陰だ。


カップ麺は、異世界で暮らし始めた時、女神が大量にくれた。


【自給自足】では、食糧らしきものを、まだ作れなかったからだ。



まもなく、ドワーフたちと出会ったので、カップ麺に頼らなくてもよくなった。


それで、カップ麺が、たくさん余っている。


エルフやドワーフたちが、ラーメンを研究したくらいでは、底をついたりしない。




ずずずずずずずずずずずずーーーーーーーーーっ


ずずずずずずずずずずずずーーーーーーーーーっ


ずずずずずずずずずずずずーーーーーーーーーっ


ずずずずずずずずずずずずーーーーーーーーーっ(以下省略)




「なかなか、豪快な作法なのですわ」


「そうだよね。わたしも、さいしょは、ちょっと戸惑ったよ」


困り顔の侯爵令嬢に、アネットが相槌あいづちを打った。




「でもよお……」


ラーメンをすすりながら、ドワーフ男子が言った。


「ダンジョンが、異常になったのは、そのスライムのせいじゃねえかな?」



いきなり、ダンジョンの話になった。



「どういうことですの?」



「このスライムを連れ出したから、ダンジョンがおかしくなった。


そう言いたいのですか?」


ソフィアが、聞き返した。



「ま、まあ、そうだな」



ラーメンを食べていたスライムの、はしが止まった。



ぼく以外は、フォークとスプーンで器用に食べている。


でも、スライムだけは、じっとぼくの食べるを見ていた。


その後、箸を使い出したんだ。


それも、見事に、使いこなしていた。



「じゃあ、そのスライムを、ダンジョンに戻したらー。


ダンジョンも元に戻るってことー?」



「そうとは限らねえけど。試す価値はあると思う」



ビアンカとヴァイスが、ささっと移動した。


そして、スライムの両脇を、がっちりガードした。


守っているつもりだろうか?



「もし、試してみて、ダンジョンが元に戻ったら、どうすんの?」



今度は、ルリとヒスイまで、ささっと移動した。


ふたりと二匹で、スライムの両脇を、ガードしている。


みんなで、守ろうとしているらしい。



「そ、それは……」


ドワーフ男子が、言葉に詰まった。



「兄さんは、いつも、こうなんだよー。


思いつきを、つい、口に出しちゃうけど。


先のことまでは、考えてないのー」


エルフ妹が、責めた?


もしかしたら、かばったのかもしれないけど。




「いいんじゃないか。別に。


思ったことを口にするくらい。


それに、実際、オレも、そう思うからな」



ぷるぷると、スライムが震えだした。


ふたりと二匹は、いっそう、スライムに密着した。



「ふふふ。でも、シュウは、スライムを戻す気なんてないのでしょう?」


すっかり団結している、ビアンカたちを見て、ソフィアが微笑った。



「とうぜんだ。戻すくらいなら、最初から連れてこない」



それは、瀕死のヴァイスを助ける時に、ソフィアに言われたことでもある。



スライムも、ふたりと二匹も、ほっとしたのか。


ふたたび、ラーメンを食べ始めた。




「でもさー。王国に、スライム寄越せって言われたどうすんのー」



ラーメンを食べていたスライムの箸が、また、止まった。



「どうするって。オレのペットだぞ。渡すわけがない」


「でもでも、力ずくで、奪いに来たらー?」


「力ずくで、追い返すだけだ。とうぜんだろう?」



スライムが、また、うまそうにラーメンを食べ始めた。


一見、ラーメン通に見えるから、不思議だ。



「そんなことしたら、学校にいられなくなるよー?」


「その時は、また、別の国にでも行くさ。


みんなで、学校に入れることは、わかったからな。


だったら、別に、この国に、こだわる理由はない」



「そうだよね。そもそも、わたしたちって、旅の途中だもんね」


「ええ。また、旅を続けましょう。


そして、わたしたちを、受け入れてくれる学校があれば、入ればいい」



「そう話を急がないでくださいませ。あくまでも仮定の話ですわ」


侯爵令嬢が、慌てて言った。


「ええ。それに、ダンジョンだって、難易度が上がっただけ。


学生用としては厳しいけれど、高難易度のほうが、むしろ、需要はあるわ」


担任のお姉さんもフォローしてた。



「わたしたちも、今すぐ、この国を出るつもりはありませんよ。


ただ、そういう考えでいることを、お伝えしただけです」


「そうだよね」




「お前も、すぐに、思いつきを、口にするじゃねえか。


ちょっとは、先のことを考えろよ」


ドワーフ兄が、妹を責めた?


もしかしたら、かばったのかもしれないけど。



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