第111話 第二皇子が来た
なぜか。みんな、馬車に泊まることになった。
宿舎に泊まるのを、イヤがったからだ。
担任のお姉さんは、侯爵令嬢に配慮したんだと思うけど。
一階には、簡易だけど、トイレとシャワー室?がある。
まだ、使ったことがない。
【卵ハウス】を、往復してるからね。
「ねえねえ。あのトイレ。どうなってんのー!」
エルフ妹が、トイレから飛び出してきた。
おしり丸出しとか。
そういう、ラッキーすけべはないよ。
簡易トイレが、お尻を洗うトイレになっていた。
__これって
【卵ハウス】のトイレだった。
簡易シャワー室も、【卵ハウス】の広いお風呂になっている。
もちろん、脱衣所も洗面所もある。
「【コア本体】が、空間をいじったのです。
クラスのみなさんが泊まるなら、この方がいいだろうって。
もしかして、マズかったのです?」
心配そうに、ルリが、ぼくを見上げた。
「いや、よくやったぞ」
ルリの頭を撫でた。
「えへへー」
たちまち、嬉しそうな顔に。ほんとに、かわいいな。
__コアもありがとう
「ドウイタシマシテ」
__なるほど
【卵ハウス】も【ゴーレム馬車】も、『ダンジョン化』していたのか。
今までは、それを見せなかったんだ。
見せる場面がなかったからかな。
ぜんいん、お風呂もすませて、冷たいものを飲んでいた。
女の子たちは、スパークリングワイン。
ドワーフ兄は、ラガー・ビール。
ぼくは、アイスコーヒーだ。
女性陣七人は、一階で寝ることに。
七人が、枕を並べても、狭い感じはしなかった。
ぼくとドワーフ兄は、二階に寝ることになった。
まもなく、カラスから、連絡が入った。
「男子学生ガ三名。コチラニ向カッテイマス」
__なんだろう
いま、ゴーレム馬車は、宿舎前の広場に停めてある。
馬車専用の駐車スペースもあったし、厩舎もあった。
ただ、ウチの馬車は特殊なので、敢えて、目立つ場所に停めた。
イタズラされるかもしれないからだ。
馬車に紋章がないので、すぐに、平民の馬車だとわかるからね。
じつは、侯爵家の紋章をつけてもいいとは、言われた。
でも、あとあとが、面倒そうなので、遠慮した。
おそらく、侯爵家に、問い合わせがいくと思ったからだ。
それくらい、この馬車は、特殊だからね。
ちなみに、ゴーレムは、リュックに入ってもらっている。
「殿下。これ、平民の馬車だそうですよ。
生意気ですよ。平民のくせに」
「平民などが、乗っていい
陛下に献上するよう、殿下から、命じてください」
そんな声が、聞こえてきた。
「うむ。たしかに、そうだな。
これほどの馬車なら、父上に献上するのが当然だ。
むしろ、平民の
「シュウ。どうしますか?」
ソフィアの声がした。
もちろん、ソフィアたちにも聞こえているからね。
「バカは、無視でいい」
「そうだよね。結界があるから、近寄れないもんね」
「騒ぎを起こせば、衛兵や先生たちが、駆けつけると思いますわ」
「みんな、気の毒ね。アレに振り回されるなんて。
でも、たしかに、こちらから相手にしないほうがいいわ」
「いいのかよ。殿下とか言ってたぞ」
「別にかまわん。オレは、冒険者で、旅行者だぞ。
献上しろなんて言われても、従う理由がない」
「まあ、そりゃそうだな。
むしろ、ほかの冒険者に聞かれたら、まずいことになるかもな」
ということで、無視することにした。
「でも、なんで、こんなところに停めているんだ」
「衛兵の話では、宿舎ではなく、馬車に泊まってるそうですよ。
ちゃんと許可も取ってあるとのことです」
「なるほどな。これほどの馬車なら、宿舎よりもいいかもしれん。
ますますもって、けしからんな」
「おい、平民っ! 今すぐ、馬車から出てこい!」
殿下とやらが、偉そうに、わめいた。
広場は、かなり広いとはいえ、宿舎の真ん前だ。
他人の迷惑とか、考えないんだろうか?
しーーーーーーーーーーーーーん。
宿舎前は、静まり返っていた。
ダンジョン街から、けっこう離れている。
だから、夜の街の喧騒も、届かないようだ。
「聞こえんのか! 今すぐ、出てこい!
わたしは、この国の皇子だぞ。
さっさと出てこないと、ただではおかんぞ!」
「うわー。夜中に騒いでるのにー。
自分で、皇子とか言ってるよー」
エルフ妹が、
「ほんとうに、バカなのですよ。
あの第二皇子は……」
侯爵令嬢が、大きなため息をついた。
重いため息だった。
なにか、しがらみでもあるんだろうか。
「平民の分際で、殿下を無視するとは!
まったく、許しがたいヤツですよ。
殿下。魔法でも撃ち込んでやりましょう」
「でも、いずれ、献上させるのでしょう。
馬車に傷をつけるは、マズイですよ」
「それもそうだな。よし、風魔法で、車体を揺らしてやろう!
びっくりして、飛び出してくるに違いない」
「さすが、殿下です。それなら、たしかに、車体に傷もつきません。
二階建ての上に、かなり大型の馬車です。
三人で、いっせいにやりましょう」
「「「せーの!ウィンド!」」」
ごうっ!
キィーーーーーン!
ごうっ!
「「「うわあーーーっ!」」」
「三人で、転がっていったのです。
とっても、面白いひとたちなのです」
ルリの、うれしそうな声が聞こえてきた。
窓際に陣取って、見物しているらしい。
「バカだね」
「ぶざまですね」
「いやいや。しかたがねえだろうよ。
【反射】なんて、誰も知らねえんだから」
「そうなのか?」
誰でも、知ってるものかと思ってた。
「まあ、知らないでしょうね。
知っていたとしても、馬車に使われてるなんて、誰も思わないわね」
担任のお姉さんが教えてくれた。
女神が、馬車用にくれたものだけど。
ニンゲンからみれば、そうなのかもしれない。
「くっ!まさか、反撃してくるとは!
平民の分際で、なめたマネを!
馬車の陰に隠れているのだな。卑怯なやつめ!」
__なるほど
たしかに、わかってないようだ。
「同じ、風魔法で押し返してくるなんて!
で、殿下。完全にナメられてますよ!
少々、手加減しすぎたのではありませんか」
「くそっ!馬車を傷つけられないと思って、調子に乗ってるのだな。
あんな馬車程度で、ナメおって!
もう、我慢ならん。焼きはらってやる!」
「いいのですか?殿下」
「馬車が、燃えてしまったら、献上できませんよ」
「ええい。かまうものか!世の中には、馬車よりも大切なものがあるのだ!
わたしは、ソレを守らねばならんのだ!」
「ううっ。殿下、さすがです!」
「感動しました。一生、殿下について行きます!」
「聞くに耐えないほどのバカですね。
ほんとうに、アレで皇子なのですか?」
ソフィアが淡々とたずねた。
「ええ。間違いありませんわ。
何しろ、わたくしの元婚約者なのですから」
「「「「ええっ!」」」」
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