第109話 ダンジョン研修が終わった?

「ケガはないようですね」


女性講師が、ぼくたちのようすを見に来た。



男性講師は、首なしミノタウルスに駆け寄った。


でも、途中で、ミノタウロスは消えてしまった。



【収集の加護】じゃないよ。



ダンジョンでは、これが、デフォルトらしい。


魔物を倒しても、死体は残らないんだ。



__なるほど



これは、『SDGs(エスディージーズ)』だな。


死体をリサイクルすることで、持続可能性を生み出しているのだ。


さすが、異世界のダンジョン。無駄がない。


ぼくは、ひとりで納得していた。




「どうやって、ミノタウロスを倒したんだ?」


男性講師が尋ねた。



「「「「「「「「「………………」」」」」」」」」



誰も、何も答えようとしなかった。


きっと、面倒くさいんだろう。



「公爵領の学生には、冒険者もいるって聞いてるわ。


さすがに、手の内は、明かしたくないのでしょう」



『善意』にしてくれた。



さすが、美人魔道士は違う。


きっと、小さい頃から、かわいがられて育ったんだね。


かわいい子は、トクだな。



「まあ、それもそうか……」


男性講師も、すなおに、納得してくれた。


このひとも、かわいがられて育ったのかな? イケメンだし。




「たしか、公爵領の学校に、テイマーが編入したと聞いてるけど。


もしかして、君がそうかい?」


「……だと思うが」



「白竜と白狼と聞いていたけど、白スライムの間違いだったの?」


ぼくの頭の上を見ながら、尋ねてきた。


「いや、間違ってないぞ。今は、スライムしかいないだけだ」



「そのスライムは、戦闘に使えるのかい?」


「さあ、どうだろうな? 試したことがないからわからない」



「テイムした時は、どうしたの?


戦って屈服させたんじゃないの?」


お姉さん講師が、首をかしげた。ちょっと、かわいい。



「いろいろ食わせたら、ついてきたんだ。


それ以来、オレから離れようとしない」


「たぶん、シュウの魔力を吸収してるからだと思いますよ」


解説のソフィアさんが、仕事をした。



「ずっと、魔力を食われてるってことかい?


大丈夫なのかい。君?」



「ああ、ぜんぜん、問題ないぞ。


他にも、魔力を吸ってるのがいるけど、とくに、困ってはいない」





ビアンカやヴァイスは、当然だけど。


ルリやヒスイだって、たぶん、ぼくから吸収してる気もする。


あと、【ダンジョン・コア本体】と【世界樹】もかな?



__あれ?



もしかして、ぼくって、みんなの食糧なの?





「スライムを使わないなら、どうやって戦ってるんだい?」


「いや、ふつうに……だが」



「こいつ。かなりの魔法の使い手なんだ。


だから、従魔になんて、ぜんぜん頼らないんだ」


「そうよねー。ビアンカちゃんたちを戦わせるの、見たことないよねー」



「じゃあ、なんで、テイマーなの?」


女性講師が、ふたたび、首をかしげた。



「なんでって。かわいいからに決まってる」


「ええっ? それだけなの?」



「まあ、ちびたちも、気が向けば戦うと思うぞ。


そうだ。一回だけ、戦ったことがあったな」


たしか、アネットの友達を助けた時だ。



「それって、従魔じゃなくて、ただのペットじゃないのかい?」


男性講師が、笑った。



「うん? 従魔とペットって違うのか?」


「そこから、なのかよ……」


ドワーフ男子が、頭をかかえた。



「でも、逆に言えば、シュウくんが飼ってあげてなかったら。


あの子たちは、そもそも、生きられなかったんだよね?」


アネットが、いいこと言った。


打率は、キープされてるようだ。



「ええ。たしかに、そうですよ。


あの子たちを生かすために、飼ったようなものですから。


そのスライムことは、わたしもわかりませんけれど……」


「ちょっと大袈裟じゃないか?


かわいいから、飼ってる。それでいいじゃないか」



「たしかに、みんな、かわいいですわ」


「うん。ちっちゃくて、まっしろで、ほんとかわいいー。


シュウくんには、よく、噛み付いてるけどー」



「そうだよな。オレだって、飼えるもんなら、飼ってみてえよ」


「わたしたちの魔力量じゃ、ぜんぜんムリに決まってるよ」


「わかってるさ、そんなこと。ただ、言ってみただけだ」




ドワーフ&エルフ兄妹の話を聞いて、女性講師が言った。


「白竜と白狼を飼うなんて、たしかに、夢のような話よね。


もし、機会があったら、ぜひ、わたしにも見せてちょうだい」


「そうか? そんなたいそうなもんじゃないけどな。


まあ、機会があったら、いくらでも見てくれ」




「あれっ? 今、思い出したんだけど。


君って、昨日、姫様を最下層から救出してくれた学生よね?」


「ええっ! あの転移罠に、自分から飛び込んだっていう学生かい?」



「そうよ。その学生って、頭に、スライムを載せてたって聞いたもの。


赤いベストを着た、真っ白なスライムよ」


「別人ってことは……ないな。


そもそも、赤いベストのスライムが、ほかにもいるとは思えない」



「まあ、そうだが、別に大したことはしてないぞ。


ちょっと行って、女子学生とスライムを拾って、帰ってきただけだし」



「まったく、聞いていたとおりの学生ね。


褒美の話も聞かないで、さっさと帰っちゃったんでしょう?」


女性講師が、あきれていた。



「へえ。褒美なんてもらえたのか。それは、知らなかった。


まあ、別に、たいして期待してないけどな」


「おいおい。我々の皇女様の命を救ってくれたんだぞ。


せめて、少しくらい、期待してくれよ」





そんな話をしていたら、また、ミノタウロスが現れた。


さっきのミノタウロスに、そっくりだ。


ダンジョンの魔物って、クローンなんだろうか。


あとで、ルリたちに、聞いてみよう。



いまは、お話し中だ。


話の腰を折られるのも、迷惑。



バシュ



眉間に穴が空いて、ミノタウロスは、ヘソ天で倒れた。



「……ええと。褒美って、こっちから出向かないともらえないのか?」



話を続けようとしたんだけど。


講師も騎士も、あんぐり口を開けて、ミノタウロスが消えるのを見ている。



「……はあ。わかったよ。


たしかに、君は、従魔に頼る必要はないな」


我に返った男性講師が、ぼくに言った。



「第一層に、ミノタウロスが、二体。それも、立て続けにか?


これでは、研修どころじゃないな。


ダンジョンを、一時的に閉鎖しなきゃダメだ。


わたしは、まず、冒険者ギルドに行って、話をつけてくる。


君たちは、学生が入り込まないように、見張ってくれ」


騎士は、そう言って、戻っていった。


仕事のできる騎士なんだね。



「たしかに、一階層にしては、『魔圧』が高すぎる。


ぼんやりしていると、魔力酔いを起こしかねないな。


ぼくらは、慣れているから平気だけれど、君たちは、大丈夫なのかい?」


男性講師が、心配そうに尋ねた。




「大丈夫だよね?」


アネットが、確かめるように言った。


みんなも、うなずいている。



「ふうん。みんな、魔力耐性が高いんだな」


男性講師が、感心していた。



__まあ、ほんとは



『結界』で守られてるからなんだけどね。



「たしか、君たちが、一番乗りよね。


よかったわ、君たちで。


ほかの学生だったら、今頃、犠牲者が出ていたもの」






しばらく、見張っていたけど、学生どころか誰も来なかった。


たぶん、すでに、騎士団が入口を封鎖したんだろうね。




結局、ダンジョン研修は、無期限で延期となった。



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