第93話 いますぐ、読むのじゃ!

「どういうことだ?」


思わず、たずねた。


「『聖女』とは、神託で選ばれた存在なのです」


「そして、『聖女』に限っては、不在はありえないの」



__なるほど



そういうことか。



「つまり、新たな『聖女』の神託は、まだ、下されていないんだな?」



「そういうことだね。だから、間違いなく、娘は生きている。


どうやって生きているのか。さっぱり、わからないがね」


「そうね。例の船とは、もう、連絡がつかないらしいわ。


だから、ふつうに考えれば、全滅した可能性は高いわね」



「それに、食料の問題もある。


いったい、どうやって、食べ物を得ているのか。


船の食料庫が健在で、そこから手に入れることができるのか。


まあ、ちょっと、考えにくいことだがね」



「でも、このままだと、餓死する可能性もあるわ。


だから、なんとかして、船を探し出して、連れ戻したいのだけれど」



「不可能ですね」


「そうだね」



ふたりは、きっぱりと言った。



「捜索隊を出しても、犠牲者を増やすだけです」


「それに、向こうの大陸の人は、ぜったいに、引き受けないよ。


行けば、死ぬだけってわかってるもん」



そういいながら、ふたりは、ぼくをちらりと見た。



__え、ぼく?



どういうこと?



ルリとヒスイも、ぼくを見ている。



__なんだろう?



『できない』って、断った方がいいってこと?


それとも、引き受けてやれってこと?


まあ、やってできないことじゃないけど……。




そんなふうに戸惑っていた時だった。




【卵ハウスの倉庫】のタブが、ポップアップした。


もちろん、これは、ぼくたちにしか見えない。



ふたたび、みんなの視線が集まった。



__【女神からのお急ぎ便タブ】?



今、取り込み中なんだけど



__手紙?



『いますぐ、読むのじゃ!』って、どういうこと?



手紙を開いて読んでみた。


パソコンみたいに、画面上で開くこともできるからね。


公爵たちには、見えないはず。



みんなも、自分で画面を開いて、読み始めた。





『すまのう。忘れておったのじゃ。


少し前に、『聖女』がさらわれたんじゃが。


『聖女』の神託を下して、まだ、そんなに経っておらんのでの。


こんなに早く死なれると、女神のメンツが丸つぶれなのじゃ。


そこで、お主たちと同じ【偽装アイテム】を、渡しておいたのじゃ。


すまんが、そろそろ【偽装アイテム】を回収してきてくれんかの?


あと、ついでと言っては、なんじゃが。


『聖女』も回収してくれると、とっても助かるのじゃ。


【偽装アイテム】を回収したら、あっという間に死んでしまうからの。


ということで、よろしく頼むのじゃ!』




__なんだと



それで、まだ、生きてるのか。



【偽装アイテム】は、【眷属化】のオマケ付き。


【加護】が適応され、『結界』が使えるからね。



それに、【卵ハウス倉庫】にもアクセスできる。


いくらでも食べ放題だ。



これじゃあ、老衰でもしないかぎり、死なないじゃないか。



「これは、しかたがありませんね」


「うん。シュウくん。がんばってね」


「さすが、兄さまなのです。頼られてるのです」


「まったく。あいつら、いいようにコキ使うの!」




「な、何の話かね?」


「どうしたのかしら? 何か、見ていたみたいだけど」


公爵と商会長が、戸惑っていた。



「ちょっと、野暮用ができた。


で、みんなは、どうする?」



「女の子だからね。いっしょに行った方がいいとは思うけど……」


「しかし、シュウひとりのほうが、ぜったいに速いと思いますからね」


「案内は、カラスに頼むといいのです!」


「面倒だから、待ってる!」



みんな、要するに、行きたくないんだね。


正直なのは、ヒスイだけってこと?



あっけにとられる公爵たちに、帰る挨拶をして。


さっさと、公爵邸から出て、【帰還】した。



もう、さっさと終わらせるしかないよ。





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