第94話 森の粗大ごみ
__うーん
【卵ハウス】の玄関で、ちょっと悩んだ。
__どこがいいかな?
玄関の壁には、地図が映し出されている。
前にいた『アイラン大陸』の地図だ。
これには、【転移ポイント】が表示されている。
いつでもどこでも、【帰還】を発動すれば【卵ハウス】に戻れる。
これは、【卵ハウス】の機能だ。
そして、【帰還】を発動した場所は、【転移ポイント】として記録される。
こんどは、【卵ハウス】から、いつでもそこに転移できる。
たとえば、ドワーフの里とか。
帝都にある辺境伯の屋敷の、アネットの部屋とか。
とにかく、【帰還】を発動した場所は、すべて【転移ポイント】になるんだ。
__森に墜落したんだよな
森にある、転移ポイントがいいか。
でも、どこから、上陸したのか。それがわからない。
たぶん、王国の港あたりからだと思うけど。
__もちろん
あの戦艦の目的地は、はっきりしている。
ぼくが、最初にいた場所。
あのクレーターだ。
【邪神竜】たちの魔石を探すつもりだったらしいからね。
__でもなあ
森に入って、まもなく音信不通になったんだよね。
だから、こんな奥まで、行けたはずはないし……。
大蜘蛛の地下洞窟に行くってのもアリだね。
でも、いまは、急いでいるからな。
あんまり慌ただしいのも、気が引けるよね。
__よし!
あそこにしよう。
ソフィアを初めて、【卵ハウス】に招いた場所。
『今夜は、オレの家でいっしょに寝よう』
そういって、誤解されて、焼かれそうになった。
あの、懐かしい場所だ。
__うーん
転移してみたけどさ。
ぜんぜん、懐かしくないよね。
しょせん、ただの森だね。
『ここ、どこ?』って感じだよ。
__ひっ!
ぼんやりしていたら、周囲が、虫でいっぱいに……。
__そうだった!
ここは、虫の巣窟。
恐怖の森だった。
__え?
なんで、いつも間違えるんだって?
ぼくの周囲で、妖精たちが、ぷんぷん怒ってる。
__ごめんごめん
悪気はないんだよ。
悪気のない迷惑行為って、最悪だと思うけど。
__え?
なになに?
知り合いを、探しに来たんだろうって?
__へえ
どうして、そんなふうに思ったの?
お菓子やジュースを、くれるひとがいるからだって?
それも、ぼくのお菓子とジュースを?
__ふうん
いいように、使ちゃってくれてるんだ。
ぼくの【卵ハウスの倉庫】を。
まあ、妖精たちにも配ってくれてるなら、文句はないけどさ。
__なになに?
ついでに、あのでっかいゴミも、なんとかしてくれるんだろうって?
森のみんなが、困ってるって?
__ふうん
でっかいゴミねえ……
まあ、なんなくわかった気がするけど。
__あった!
たしかに、超大型の粗大ゴミだね。
帝国の最新鋭戦艦は。
ぼくは、焼け焦げて真っ黒になった、巨大戦艦を見上げた。
もともと、黒いっちゃ黒いけどさ。
__それにしても
ここに来るまで、ぜんぜん、魔物に襲われなかったな。
__え?
うちらと一緒なんだから、当たり前だって?
そうだったんだね。
たしかに、考えてみれば……
以前、大蜘蛛の地下洞窟に案内してもらった時も、そうだったね。
__え?
でも、【邪神の森】の魔物は、別だって?
あいつらは、いっちゃってるから?
__うーん
たしかに、そうかもしれないね。
あの森のエンカウント率って、異常だったもんな。
__なになに
でも、最近、ちょっと変わったって?
近頃は、あの森の連中も、丸くなったって?
__そっかあ
まあ、いっちゃってるより、いいんじゃないかな。
__それはそうとして
こんなデカい船を、【収納】できるのかなあ?
それに、船内は、死体がいっぱいじゃないの?
そんなの【収納】したくないよね。
__え?
もう、死体なんてないって?
レイスちゃんが、連れてったから?
お友達がたくさんできたって、よろこんでいたって?
__そ、そうか
それは、よかった…………かな?
思うところはあるけど、まあ、いいんじゃないかな。
お友達にしてもらったんなら……。
むしろ、レイスちゃん、ぐっじょぶ?
__あれ?
ひとつだけ、明るい窓があるぞ。
__なになに
あそこに、ぼくの知り合いがいるって?
いま、案内してやるって?
__うん。ありがとう
すごく助かるよ。
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