第81話 帝国の魔女

後始末は、ぜんぶ、オネエ商会長が引き受けてくれた。



ていうか商会長じゃないよね。


どうみても、国の関係者。


それでも、かなり高い地位だよ。


砦から、飛空艇で、たくさんの兵を連れてきたんだから。


まあ、どっちを、本職にしてるのかは、わからないけれどさ。




魔道士もたくさん来ていたから、街道の穴ボコもすぐに埋めてくれた。



「まもなく、日が暮れるわよ。野営したほうがいいんじゃないの?」


馬車を走らせようとしたら、引き止められた。



「暗くなるまでは走るさ」


そういって、馬車を出した。



もう、結界のこともバレてる。


でも、なにもかも、バラす必要はないよね。


むこうの大陸とは違って、最初から、いろいろ知られてるわけじゃないから。



しばらくの間は、地道に街道を走った。






大きな月が、空にかかった頃。


ぼくたちは、森の上空をけていた。



月明かりは、明るく森を照らしている。


でも、下から見上げるかぎり、シルエット程度しかわからないはず。


だから、【聖域】まで、上空を直進した。



今回は、いろいろあったからね。


さっさと帰って、のんびり、お風呂にでも入りたい。



本当は、【帰還】したかったんだけど、みんなに反対された。


【帰還】ていうのは、【卵ハウス】に転移で戻ること。


いつでも、どこからでも、いっしゅんで戻れるんだ。



みんな、そんなに、夜間飛行を楽しみたいのかな?



ホントに、タフだよね。


主に、精神的に。









(Side ???)



「行ったようじゃの」


大賢者じじいが、飛空艇から降りてきたわ。



今の今まで、隠れていたのね。


いずれ、バレるに決まってるのに、バカバカしい。


まあ、面白がって、やってるんでしょうけど。




「それにしても、派手にやったもんじゃな」


周囲の惨状を見て、呆れたようにつぶやいた。


「ええ。まったくだわ」



小型飛空艇二機は、大破。


どうみても、使い物にならないわね。



一機は、地面に突き刺さり。


もう一機は、森の木々をなぎ倒して、転がっていたわ。


それも、半分に折れた状態で。



何をどうやったら、こんなふうになるのかしらね。


捕縛した帝国の連中から聞けば、わかることだけど。





「ちょっと待ってくれんかの?」



何を思ったのか。


大賢者じじいが、担架を担いている女性兵を引き留めた。



そして、担架に横たわっている美人に、杖を振り上げた。



「いつまで、気を失ったふりをしとるつもりじゃ!」



軽く杖を振り下ろすと、ぱしっと、美女が杖をつかんだ。


ほんとうに、気を失ったふりをしていたのね。



「師匠。いくらなんでも、ケガ人にする仕打ちとは思えませんが」


「何が、ケガ人じゃ! どこにも、ケガなどしておらんじゃろうが」



「目を回した上に、甲板から投げ出されのですよ。


あやうく、大ケガをするところだったのは、本当です。


無傷なのは、あ、あの少年が、受け止めてくれたからです」



『帝国の魔女』が、口を尖らせて、文句を言っていた。



でも、ちょっと、頬が赤いのは、なぜかしらね?


シュウくんが、気絶してる女性に、いたずらするとは思えないけど。


だいたい、そんなこと。ソフィアちゃんたちが、許すわけないし。




「だからどうした?


気を失ったふりを続けた理由には、ならんではないか。


目が覚めておるのなら、自分で歩け!」



大賢者じじいに叱られて、『帝国の魔女』は、しぶしぶ担架から降りた。



「しかたがないのですよ。


もし、目が覚めてると知られたら、きっと、ああなってましたから」



そういって、『帝国の魔女』が指差した先には、土まみれのクソガキがいた。


『弓の名手』を自称する、小生意気なガキだ。



あちこち傷だらけの上に、両足から血を流している。


もちろん、意識はない……というか。ちょっとした重傷ね。




「ふむ。そういうことか。


たしか、夜中に、襲撃した帝国の兵も、肩をやられておったそうじゃな」


確かめるように、アタシに尋ねた。


「ええ。そうよ。両肩、撃ち抜かれていたわ」



「ほら、師匠。聞いたでしょう、今のセリフ。


両肩なんて、もってまわったことを言って。


要するに、いくらでも、頭を撃ち抜けたってことじゃありませんか!」


『帝国の魔女』が、いっそう、口をとがらせた。



__なんなのかしら、この態度?



『帝国の魔女』って、こんなに子供っぽい女だった?



やはり、育ての親でもある大賢者じじいには、甘えたくなるのかしらね。


その恩人と決別して、『帝国の魔女』なんて、呼ばれているくせに。




その後も、ふたりは、ぶちぶちと言い争いながら、飛空艇に戻っていった。


血がつながっていなくても、親子は親子。


どっちも、話がしたかったのでしょうね。


きっと、久しぶりに会えたのだから。



__まあ、いいわ



シュウくんに、後始末を頼まれたのは、アタシなのだから。






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