第80話 しつこいんだねー

まだ、日は落ちていないので、街を出た。



辺境の街が、見えなくなったあたりだろうか。


さっきの衛兵が、忠告してくれたとおり、お客さんが来た。



「ほんとに、しつこいんだねー」


アネットが、感心していた。




「前方ト後方ニ、小型飛空艇ガ飛来。


マモナク、上空ヲ通過シマス」


カラスの声が、頭に響いた。



「撃墜しますか?」


すでに、ゴーレム馬の背中には、『魔導砲』が見えている。


ゴーレム馬は、いつも撃ちたくて仕方がないようだ。


気持ちはわかるけど。




「今度は、ヒスイたちに任せてなの!」


ルリとヒスイが、決意のこもった目で、ぼくを見上げた。



昨夜、熟睡してたのが、よほど残念だったらしい。


【ダンジョン・コア本体】が気をきかせて、寝かせておいたんだと思うけど。



「わかった。少し、様子を見て、それから攻撃しろ」



「わかったのです」


「わかったの!」



馬車をそのまま走らせて、相手の出方を待った。


二階の幌は、すでに開けてある。



「魔導砲、来マス」



轟音とともに、馬車の前方と後方で、大きな土柱が立った。


土埃が広がり、視界が失われた。



「ウインド」


「ウインド」


アネットとソフィアの魔法が、あっという間に、前後の土埃を払う。



視界が開けると、前にも後ろにも、大きな穴が空いていた。


道をふさいだつもりらしい。


未だに、拉致らちできると思ってるんだろうか。




「止まれ」


ぼくは、停止を命じた。



もちろん、こんな穴くらい、いくらでも飛び越えられる。



でも、ルリたちは、やる気まんまん。


だから、馬車を止めた。



ルリとヒスイは、たちまち馬車から飛び降りた。


いっしゅん、抱きとめそうになった手を、あわててひっこめた。



ふたりは、ちっちゃくてかわいい。



でも、【ダンジョン・コア】と【世界樹】の、分身だ。


むしろ、気をつけるべきは、オーバーキルだろう。



魔導砲を打ち込んだあと。


二機の小型飛空艇は、ぼくたちの頭上で、すれ違った。



小型とは言っても、日本の路線バスよりはずっと大きい。


戦艦と比べれば、小さいというだけだ。



飛空艇は、船底は平らだけど、クルーザーっぽい外見をしていた。



「『剣聖』のやつ、あんな弱っちいガキに、やられたのかよ。


なさけねえヤツだな!」



飛空艇の甲板で、少年が、偉そうに腕を組んでいた。


ぼくと同じ、高校生くらいの少年だ。



「見かけで判断するな!油断してるとやられるぞ!」


もう一隻の甲板で、ポニーテールのお姉さんが怒鳴った。


なかなかの美人だ。




まず、ヒスイが、少年に反応した。



「主っ! あいつ、ウザいから叩き落として!


主の悪口を言うなんて、許せないの!」



ヒスイの気にさわったらしい。


たしかに、ぼくから見ても、お友達にしたいタイプじゃない。



ヒスイが、両手でぱんっと地面を叩くと、太い木の根っこが飛び出した。


電信柱の倍くらいありそうな、太い根っこだ。



それが、少年の乗る小型飛空艇を追いかけた。



そのまま、少年ごと、叩き落とせばいいんじゃないの?


正直、そう思うんだけどね。


ヒスイは、ぼくに、やっつけて欲しいみたいだ。




__まあ、いいか



根っこに飛び乗って、飛空艇に向かって走った。


結界があるからね。


たとえ、落ちても痛くはない。



あっという間に、飛空艇に到着。


そして、甲板の上に飛び乗った。



「ふんっ!叩き落としてやる!」



いきなり、少年がなぐりかかってきた。


でも、近接戦闘は、あまり得意じゃないみたい。


軽くかわして、足をひっかけたら、船外に飛んでいった。



「バカなやつなの!」



ぼくの心の声を、ヒスイが代弁した。



「ちっ、これで勝ったと思うなよ!」



少年は、空中で、ひらりと体をひねった。


意外と運動神経はいいらしい。



そして、見事に着地……しそうだったので。



バシュバシュ



両足を、拳銃で、撃ち抜いた。



「ぎゃああああああーーーーーっ!」



足が、ぐにゃっとして、着地失敗。



悲鳴を上げながら、少年は、地面を転がっていった。


そして、木の幹に激突。


お団子のように丸まって、停止した。



そのまま、動かないから、気絶したんだと思う。



「主っ!ジャンプして、なの!」



再び、ヒスイの声。


あわてて、ジャンプすると。



ドオンッ!



飛空艇の側面に、根っこがクリーンヒット。


いっしゅんで、飛空艇が消えた。



バキバキバキッ!



見ると、飛空艇が、何本もの木をなぎ倒していく。


そして、止まった頃には、半分に折れていた。




「退けっ! とにかく、この場から離れろ!」


ふたたび、美人の叫ぶ声。


たしかに、いい判断だと思う。



「手遅れなのです」


今度は、ルリが、両手で地面を叩いた。



ザザザーーッ!



巨大な土の手が、地面から飛び出した。



__もしかして、ゴーレム?



離脱しようとして、急加速したのだ。


とうぜん、避けられるはずがない。



巨大な手のひらに、バシンと弾き返された。


そして、くるくると縦回転しながら、跳ね返ってきた。



すでに、制御不能なのだろう。


そのまま、地面に、突き刺さった。



ひゅーーん



そのあと、空から、美人が降ってきた。


ぼんきゅっぼんのお姉さんだ。



落下地点に戸惑いながらも、なんとかキャッチ。



__うぷっ



ボリュームのある胸に、顔がうずまってしまった。



わざとじゃないよ。


フライをキャッチするのって、難しいんだよ。


ライナーとかなら、カンタンだけど。



甲板にいたから、投げ出されたんだね。


目を回したのか。すでに、気絶していた。




「三機目ガ、接近中デス」



__またなの?



今までよりもデカい飛空艇だった。


砦の方角から、ぐんぐん接近してくる。



__しょうがないなあ



美人は、肩にかついだ。


地面に置くのも、どうかと思ったから。



そして、落とさないように、左手で押さえた。


お尻に触っちゃったけど、これは、しかたがないよね。



それから、右手で、銃を構えた。



標的は、飛空艇。


かなりデカいけど、なんとかなるだろう。



この銃は、魔力を『減衰』させないで、撃つこともできる。


まず、二メートルくらいの氷礫を、何発か撃ち込んでやろう。



さっきは、銃で、少年の足を撃っただけ。


せっかくだもの。飛空艇とか、撃ってみたいよね。



そう思って、引き金に指をかけた時だった。



「待ってちょうだい! シュウくん、アタシよ、アタシ!」


飛空艇の甲板で、見覚えのある巨体が手を振っていた。


紛れもなく、オネエ商会長だった。



__ちっ



気づかないふりをして、撃っちゃおうかな……と思ったけど。



「シュウ。だめですよ」


「そうだよ、シュウくん。それ、冗談じゃすまないよ」



ふたりに止められた。


ちょっと、残念。



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