第61話 瑠璃
「要するに、お前も、【空間転移】が使えるわけか?」
「まあ、そうだな」
アネットの旅支度も終わり。
【卵ハウス】に戻ることになった。
ぼくたちは、アネットの部屋に向かっていた。
アネットの部屋から、【帰還】するためだ。
【帰還】を発動した場所には、いつでも【転移】できる。
つまり、アネットは、自分の部屋に、いつでも戻ってこられるわけだ。
「ありがとう。 それを聞いて安心したわ。
何年も、離れ離れになるのは、ちょっと不安だもの」
アネット母が、ほっとしていた。
「毎日でも帰ってこれるぞ。 まあ、アネット次第だが」
「ふふふ。 それはそれで、別の意味で心配になるわね」
アネットの部屋は、広々としていた。
子供部屋などというイメージは、まったくない。
日本人なら、四人家族で暮らしても大丈夫そうな広さだった。
「じゃあ。 お父さま、お母さま。 行ってくるね」
「ああ……、そ、そうか。
い、いつでも、戻ってきていいんだからな」
野蛮人が、未練がましく言った。
「うん。 時々、顔を見せにくるね」
苦笑しながら、愛娘が答えた。
「ええ。 それがいいわね。
早く、向こうの大陸の話が、聞きたいわ」
アネット母は、目を輝かせていた。
「では。 おじさま、おばさま。
わたしたちも、これでお
「ええ。 ソフィアちゃんも、また、来てちょうだいね。
向こうの大陸で、ゆっくりと過ごせるといいわね。
誰も目も気にせずに、のびのびと暮らせるなんて、きっと最高よ」
「ええ、そうですね。 そう思います」
「じゃあ。 すまねえが、娘たちをよろしく頼む」
野蛮人が、手を差し出した。
「ああ。 任せてくれ」
ぼくは、野蛮人の手を握った。 しかたがないので。
「お前。 剣も使えたのか?」
ぎょっとした顔で、言われた。
「
小学校に入った頃だったろうか?
刀の稽古が加わった。
ぼくは、『NO』と言えない孫だった。
『児童保護法』も、ぼくを守ってくれたことはなかった。
母さんは……
時々、
体術の稽古は、『楽しい』と思ったこともあった。
じっさい、けっこう『好き』だったと思う。
でも、刀の稽古では、『ぜったい死ぬ!』としか思えなかった。
毎日毎日、『きょう死ぬ!きっと死ぬ!』と
たまに、『
まだ、小学生だったのに……。
__ああ、そうだった
どうして、今の今まで、忘れていたのか。
あの頃の、ぼくの願いを。
切ないほどの、ぼくの祈りを。
『ふつうの男のコになりたい』
そんな、ささやかな夢を。
「まったく。 底の知れねえ野郎だぜ。
まあ。 その方が、娘たちを安心して任せられるがな」
野蛮人の声が、ぼくを、現実に引き戻した。
でも、ほんとうに驚いたのは、ぼくのほうだった。
__なぜって
野蛮人は、じいちゃんのような手をしていたから。
アネット父は、おそらく、高い戦闘力を持つ野蛮人だった。
いいんだろうか?
こんなのを、野放しにしておいて。
まあ、アネット母の支配下にいるから、大丈夫か……。
三人で、【卵ハウス】に【帰還】した。
でも、ここからが、今までと違うんだ。
玄関に転移するなり、女の子が駆け寄ってきた。
「おかえりなさいなのです」
青く長い髪。
碧い宝石のような瞳。
【ダンジョン・コア】の分身。 『ルリ』だ。
目も髪も
身体は、小学校の低学年くらい。
もちろん、ぼくの趣味じゃないよ。
ダメージを受けて、コア本体が、小さくなったらしい。
それで、分身も、ちびっこの姿をしているとか。
何でダメージを受けたのかは、覚えていないそうだ。
昨日、チュートリアルを見た後、作業をした。
もちろん、チュートリアルで習った作業だ。
まず、地下一階の階段の裏に回る。
いや、地下にあるわけじゃないんだけど。
玄関のある階を、一階にしたからね。
一階の下だから、地下一階って呼ぶことにしたんだ。
__あった
スイッチだ。
押すと、パカンと床が落ちた。
さらに、地下二階があった。
部屋の中央には、画面が浮かんでいた。
【卵ハウスの倉庫】の【管理画面】だ。
__これか
【資材用タブ】に、格納されている物資一覧。
その上から二番目。
【ダンジョン・コア】だ。
ちなみに、一番と三番は、『空き』になっている。
ここにあったモノは、すでに、天使が引き取ってくれた。
【倉庫】のアクセス許可書にサインした時だ。
たしか。 『下界にあってはならないモノ』って言っていた。
なんで、そんなものが、【倉庫】のあったのかは、わからないけれど。
ぼくは、【ダンジョン・コア】を取り出した。
サッカーボールくらいの、碧い宝石だ。
超巨大ラピス・ラズリって感じかな。
何だか、色がくすんでるけど。
あとは、手をあてて……
__うおっ!
久しぶりだね。 この感覚。
そう。 卵に、触ってしまった時みたいな感覚だ。
ごっそりと、何かが持っていかれる感じ。
ぼくは、その場にあぐらをかいた。
しばらく、手を離せないからね。
…………
ラピスラズリ?が、だんだんとキレイな色になっていく。
そして、碧い光を帯びて……。
__うわっ!
強烈な光を放った。
すると、そこには、小さな女の子が立っていた。
「はじめまして、マスター。
魔力供給。 ありがとうなのです」
「お前に、【卵ハウス】を管理させろと言われた」
「了解なのです。……………掌握したのです」
「ず、ずいぶん、速いな」
「こんなちっちゃな構造物なら、いっしゅんなのです。
本来、大陸最大のダンジョン用コアとして、設計されたのですから」
女の子は、そう言って、その場に正座した。
そして、そのままじっとしている。
「なにをしている、瞑想か?」
「瞑想? いえ、この部屋は、『制御室』なのです。
だから、ここにいるのです」
「ここから、出られないのか?」
「まさか、こんなちっちゃなダンジョン。
たとえ外に出ようと、管理は、可能なのです」
いや、ダンジョンじゃないんだけど。
「なら、ついてこい」
「よいのですか?」
「当たり前だ。 お前を置物にするつもりはない」
「ありがとうなのです! うれしいのです!」
『ルリ』は、ぴょんと飛び上がって、ぼくに抱きついた。
おお……。 感情表現もばっちりなんだ。
すごく、かわいい。
リビングに上がったら、アネットたちが駆け寄ってきた。
チュートリアルの内容は、すでに伝えてある。
「その子なの? かわいいね!」
「たしかに、かわいい子ですね」
ルリは、そのまま、三階に連れ去られた。
マスターは、ぼくなんだけど。
まあ、そんなわけで、新たな仲間が加わったんだ。
【卵ハウス】は、動けるというか、飛べるようになった。
お
ルリには、まず、その制御を任せることになってる。
空には、道がない。
もちろん、地図もなければ、コンパスもない。
適当に飛べば、何とかなる……とも思えない。
なんで、【ダンジョン・コア】なのか?
それは、よくわからないけど。
【卵ハウス】を、目的地まで飛ばしてくれるんだ。
ほんとうに、ありがたい仲間だった。
ぼくは、いつものように、かわいい女神たちに感謝した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます