第60話 辺境伯邸
翌朝。
帝都の辺境伯邸へ行った。
アネットに、隣の大陸に行くことを伝えるためだ。
屋敷には、あの野蛮なおっさんも来ていた。
グリフォンを、陛下に献上するためらしい。
もちろん、アネットの母親もいた。
ソフィアが言っていた通り、アネットとは、親同士が知り合いだ。
だから、急ぎの時には、【空間転移魔法陣】を使わせて貰えるらしい。
「どうやって行くのかは、敢えて聞かねえ。
だが、アネットも連れていってくれ」
「そうね。 娘もいっしょに連れて行ってもらえないかしら」
なぜか、そういう話になった。
「ええっ! で、でも、学院はどうするの?」
本人が、驚いていた。
そうだよな。 そのために帝都に戻ったんだから。
「そんなもん、休学でいい」
「そうよ。 学院なんて、いつでも行けるわ。
でも、海を渡る機会なんて、めったにあるもんじゃないのよ」
__いいのか? そんなんで?
「アネットも、行きてえんだろう?」
にやにやしながら、野蛮人がたずねた。
「そ、それは、そうだけど……」
「なら、連れて行ってもらいなさい。
せっかくのチャンスを逃してはダメよ」
母親まで、にやにやしていた。
という具合に、なし崩し的に話は決まった。
ソフィアにとって、アネットは唯一のお友達。
また、いっしょに旅ができると聞いて、すごく嬉しそうだった。
ぼくも、アネットならいいかなと思う。
それに、アネットがいれば、心強いのはたしか。
たしかに、ポンコツではあるけど、受付嬢の経験もある。
ぼくたち三人のなかでは、いちばんの常識人だ。
アネットは、荷物をまとめに、自分の部屋へ行った。
もちろん、ソフィアも一緒だ。
ソフィアの【収納】を使えば、何でも持っていける。
「すまねえが、娘を頼むぜ」
アネットが部屋を出るなり、野蛮人が言った。
「娘から、シュウくんの話は聞いているわ。
シュウくんになら、安心して、娘を任せられる。
もちろん、そのまま貰ってくれていいのよ。
実は、毎日のように縁談が来ていてね。
正直、うんざりしていたのよ。 あの子もわたしも。
でも、これで、縁談から解放されるわ」
そのまま貰う?
縁談から解放される?
__どういうこと?
「何言ってやがる! アネットは誰にもやらねえぞ!」
ベタなセリフで、野蛮人が、いきり立った。
「あなたは、黙ってなさい」
「だ、だけどよぉ……」
妻のひとことで、あっさり撃沈した。
__ふうん
コレが、辺境伯家の
「ほっほっほっ。 領主さまと奥様は幼馴染でしてな。
幼い頃から、あんな感じなのでございますよ」
__哀れな
昔から、頭が上がらないのか。 奥さんには。
もしかして、その反動で野蛮になったとか?
ぼくは、
めちゃくちゃ睨み返されたけど。
「アネットさまは、わたくしにとっても孫のような存在。
なにとぞ、アネットさまをよろしくお願いいたします」
今度は、執事のじいさんが、頭を下げた。
みんなに大事にされてるんだな。 アネットは。
「でも、この大陸を離れるのは、名案だったわね。
たぶん、ソフィアちゃんのために、決断したことなんでしょうけど。
むしろ、シュウくんにとって好都合だったわ」
「なんでだ?」
「うふふ。 やっぱり、気づいていないのね」
アネットの母親が、また、にやにや微笑った。
微笑うと、アネットとそっくりになる。
いや。 アネット以上かな。
なんで、こんなに美しい女性が、野蛮人の奥さんなんだろう。
幼い頃からいっしょだと、どんな人格でも、気にならなくなるのかな?
慣れって怖いな……と思って、野蛮人を見たら。
めちゃくちゃ、こっちを睨んでた。
「これからは、お前が、狙われるってことだよ」
「狙われる? オレが?」
まあ、返り討ちにしてやるけどさ。
「うふふ。 返り討ちにすればいいと思ってるのでしょう。
ほんと、男の子ねえ。 でも、それは、無理よ。
だって、結婚相手として、注目されるって意味だもの」
__なんだって?
「ヒューマンは、ハイ・エルフから縁を切られた。
ところが、未だに、ハイ・エルフの力をあてにしている。
彼らとの
お前に娘を嫁がせるのが、いちばん手っ取り早く、確実だろう?
ソフィアは、複数の夫を持てねえが。
お前は、何人でも妻を持てるんだからよ」
「今、この大陸の有力者たちは、必死で集めようとしてるわよ。
ハイ・エルフの姫の婚約者。 つまり、シュウくんの情報を。
だから、いずれは、いろいろと知られることになるわね」
「だがよ。 白竜と白狼の主だの。
妖精どころか。 火竜や水竜とまでお友達だの。
こんなのは、おとぎ話と変わらねえ。
まあ、知ったところで、すぐには信じられねえだろう。
だから、今なら、まだ時間的な余裕がある」
「その間に、姿をくらますのでしょう。
本人が見つからなければ、情報の真偽も判定できないわ」
「そうなったら、諦めるしかねえだろうよ。
流れてくる情報は、耳を疑う話ばかり。
確かめるにも、本人は見つからねえ。
これで、どうやって結婚させるんだ?」
「だから、シュウくんにとって、好都合なのよ。
もちろん。 お嫁さんがたくさん欲しいなら、話は別よ」
「いや。 いらんな」
ぼくは、即答した。
ぼくには、ハーレム願望なんてないし。
権力にも、まったく興味がない。
つまり、政略結婚で得られるものは、何もないってことだ。
たしかに、今は、この大陸を離れていたほうがいいな。
【空間転移】があるから、行ったり来たりできるんだし。
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