第39話 動かない馬車
翌朝。
いよいよ帝都へ向けて出発することになった。
三人と二匹の旅だ。
もちろん、護衛はなし。
いや。 ソフィアがいる以上、護衛はつけられない。
つければ、その護衛も、ソフィアが守らなければならなくなる。
要するに、足手まといだ。
ハイ・エルフと、ヒューマンには、そのくらいの戦力差がある。
まして、ソフィアは、皇女であり、元戦姫。
足手まといの護衛など、つけることは許されない。
ぼくたちは、城門の前で、一台の馬車を見上げていた。
「そうですか。 お祖父さまが、これを送ってきましたか」
ソフィアが、馬車を見て
「今朝、見たら、【収納】されていたんだ。
説明書も、ついていたぞ」
「そうですか…」
馬車は、なんと二階建て。
だから、上にも下にも、ガラス窓がある。
そのうえ、二階は、てっぺんが
開けられるので、いわゆるオープントップだ。
色は、黒。
かなり大きな馬車だ。
マイクロバスくらいはあると思う。
「こんな大きくて重そうな馬車。 馬が引けるのかなあ」
アネットが不安そうに言った。
「もちろん、引けませんよ」
あっさりと、ソフィアが答えた。
「じゃあ、どうするの?」
「シュウ。 説明書どおりにやってみてください」
「いいぞ」
正直、やりたくはないけど、しかたがない。
「
いきなり、大きな魔法陣が、地面に描かれた。
ぎらぎらと輝いている。
そして、その光の中から、ゴーレム馬がでてきた。
「これが、ゴーレムなの?」
アネットが言いたくなるのもわかる。
ちっともゴーレムに見えないからだ。
たくましい四本の脚。
ふさふさと風にながれる
つぶらな瞳。
まるで、生きているようだった。
「でも、どうして動かないの?」
そうなんだ。
ゴーレム馬は、ぴくりとも動かない。
「じつは、馬車もゴーレム馬も、性能を追求しすぎたのです。
それで、あまりに膨大な魔力が必要になりました」
ソフィアは、淡々と語った。
「その結果、お祖父さまですら動かせなくなってしまいました。
ドワーフの族長とふたりで試したこともあります。
もともと、ふたりの合作ですから。
それでも、やはり、必要な魔力に届きませんでした」
「もしかして、今まで、お蔵入りになってたの?」
「そうですよ。アネットのいうとおりです」
__なるほど。
いわゆる、
それはそれで、素晴らしいと思う。
__でも、コレをいったいどうしろと?
「でも、今は、シュウがいます。
きっと、シュウの魔力なら、動かせると思ったのでしょう」
「ソレ。 オレでも動かないんじゃないか?」
族長ふたりでも、無理だったんだから。
「いいえ。 たぶん、動くと思います。
試しに、ゴーレム馬に触れてみてください」
「まあ、試すくらいならいいぞ」
ペタリと、ゴーレム馬に触れてみた。
__あれ?
たしかに、魔力が吸い取られている。
でも、毎朝、ちび二匹に吸われている魔力量とは、比較にもならない。
次の瞬間。
ゴーレム馬が、激しく輝いた。
_____________________________
ゴーレム馬が【眷属】となりました。
専用馬車との接続を要求しています。
専用馬車への接続を許可しますか?
はい いいえ
_______________________________
もちろん、【はい】だ。
馬車と繋がってくれないと、使いようがない。
ゴーレム馬の背中が、パカリと開いた。
そこから、ベルトが、しゅるしゅると出てきた。
ハーネスとかいうやつだろうか。
ベルトは、馬に巻き付いた。
それから、次に、しゅるしゅると馬車へと伸びた。
そして、所定の位置で、かちんと
_____________________________
専用馬車より、必要魔力の供給を要求されました。
ゴーレム馬経由で、魔力を充填します。
ゴーレム馬に触れてください。
_______________________________
言われるままに、馬に触れる。
また、魔力が流れていった。
_____________________________
ゴーレム馬及び馬車全体に、魔力が行き渡りました。
いつでも、稼働可能です。
稼働する際は、ゴーレム馬に指示を与えてください。
_______________________________
なるほど。
使えるようになったらしい。
「なんだか、ふつうに動いちゃったね」
アネットが、
「そうですね。 シュウの魔力は、異常ですから」
「やっぱり、異常なんだ」
「ええ。 異常な魔力量としか言いようがありません。
ハイ・エルフとエルダー・ドワーフの族長を超えてるんですから。
それも、ふたり合わせた総量を」
なんか。 異常、異常って、言われてるけど。
魔力量が多いって、悪いことじゃないよな。
自分に、そう言い聞かせていた時だった。
ぴこん!
いつもの画面が、とつぜん、ポップアップした。
___なになに?
【女神からのお急ぎ便タブ】だって?
こんなタブ、作った覚えがない。
女神が、勝手に作ったんだな。
もう、何でもアリだな。
そこには、【馬車用結界装置】が入っていた。
取り出すと、メッセージが表示された。
『【馬車用結界装置】なのじゃ。
その小箱を、馬車の隅にでも設置しておくのじゃ。
馬車もゴーレム馬も、きっちりガードされるであろう。
あと、許可のない者は、近づくことさえできぬのじゃ』
ちょっと、タイミングが良すぎるな。
やっぱり、いまも、面白半分に、ぼくを監視してるんだろうか。
でも、まあ、ありがたいことに、かわりはない。
ぼくは、心で、女神たちに感謝した。
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