第40話 激走する馬車
馬車も動くようになったので、いよいよ出発だ。
みんなで、馬車に乗り込んだ。
出入り口は、後ろにある。
出入り口の手前は、デッキになっていた。
ういーーーん。
まさかの自動ドア。
魔力の無駄遣いとしか思えない。
中に入ると、やはり、自動で照明がついた。
内部は、靴を脱いではいる。
【卵ハウス】に似せて、急遽、改造してくれたらしい。
室内は、【卵ハウス】の三階と同じ。
床が、マットレスになっている。
壁も、背もたれくらいの高さまでは、マットレス。
まるで、ベッドか、ソファの感覚だ。
「どこにでも寝転がれるからいいね」
アネットが、うれしそうに寝そべった。
ソフィアは、背筋を伸ばして正座していた。
その時、馬車の中に、声が響いた。
「マスター。 出発してもよろしいですか?」
ゴーレム馬だ。
「【魔導頭脳】を搭載しています。
二人の族長が、長い時間を掛けて開発したものです」
「何十年もかけたわけか」
どうりで、すごいはずだ。
「いいえ。 たしか…、300年ほどかかったと言ってました」
いったい、何年生きてるの? あのふたり。
ハイ・エルフとエルダー・ドワーフって、人間なの?
「と、とにかく、出発するか」
「了解しました」
馬車が、ゆっくりと動きだした。
「駆動系のチェックのために、すこしずつ速度をあげます。
最高速の七割程度を予定しています」
「わかった」
窓の外の光景が、どんどん流れてゆく。
かなりのスピードになってゆくのがわかる。
でも、人間って、すぐ速度になれちゃうんだよな。
「なんで、こんなにゆれないの?」
アネットが、不思議そうにたずねた。
「もともと揺れない設計です。
でも、ここまで揺れないのは、女神さまのお陰だと思います」
【馬車用結界装置】の効果か。
装置は、一番前の隅に置いてある。
たしかに、街道だから、舗装はされている。
でも、お世辞にも、平らとは言い難い。
かなり
「こんなに速度を出して、車輪とか車軸とか、大丈夫なのか?」
ゴーレム馬に、きいてみた。
「問題ありません。すでに、重力制御の魔法が発動しています。
車輪と、地面との接触は、ごくわずかです」
__それって、ほぼ飛んでるってことだよね?
ほんとに、馬車なの、コレ?
「この重力制御のために、消費魔力が、20倍ほどになったそうです」
ソフィアが、淡々と説明した。
「最初から『飛空艇』にすればよかったんじゃないのか?」
『飛空艇』が、じっさいに、存在するのかどうかは知らんけど。
「そんなのダメだよ」
「ぜったいにありえません」
たちまち、ふたりに否定された。
「どうしてだ?」
「空は、魔物の領域だもの。 当然だよ」
「そうですね。 たちどころに、撃墜されます」
「なるほどな」
だから、馬車なんだ。
マジで怖いな、この世界。
「前方に、馬車の集団を発見。
道幅が狭く、追い越しは不可能ですから……」
「そうか。 それは、しかたがない。 ゆっくり……」
「……重力をさらに軽減。 上空を通過します。
【姿勢制御魔法】、発動。…………成功しました」
「すごーーい。 空を飛んでるよ」
アネットがうれしそうだ。
なんで、怖くないの?
「お祖父さまと、ドワーフの族長の合作です。
低空であれば、飛ぶくらいなんでもありません」
__いや、ぜったいおかしいだろ。
「まもなく、馬車の集団上空を通過します。
着地の衝撃緩和のため、【重力魔法】と【風魔法】を併用します。
……3・2・1。 着地しました」
見事なソフトランディングだった。
車輪は、もちろんゴムなんかじゃない。
それでも、ほとんど衝撃がなかった。
魔法のちからを、見せつけられた気がした。
馬車は、ふたたび加速。 地面を激走した。
「まもなく、予定の最高速度七割に達します………達しました。
駆動系に異常はありません。 車体の
ここから先は、最高速度五割程度で巡航します」
どのくらいの速度なんだろう?
速度計がないから、わからない。
「前方に歩行者発見。………ゴブリンです。
【結界】の強度は、【神級】と判定。
このまま、跳ね飛ばすことを推奨します」
「それがいいですね。
ゴブリンなど、相手にする価値がありません」
「わかった。そうしてくれ」
こつーーん。
こつーーん。
こつーーん。(以下省略)
まもなく、窓外の景色に、飛んでいくゴブリンの姿が加わった。
「なんか、ちょっとかわいそうかも」
アネットは、ゴブリンに優しいようだ。
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