第38話 火竜
「ふはははっ! さすが、【古代竜】殿たちの
ワレを見た途端に、撃ち落とそうとするとは!
それにしても、とんでもない魔力であったぞ。
思わず、ブレスを撃ちそうになってしもうたわ!」
この街に、旅客機、いや戦略爆撃機?が、降りられる空港はない。
だから、辺境伯の城に戻った。
アネットのおうちだ。
そして、グランドのような庭を借りた。
広いグランドが、今は、狭く見える。
「それにしても、美味い酒であるな……」
ドラム缶のようなマイカップで『日本酒』を飲みながら、火竜が唸った。
竜のイラスト入りのカップだ。 ドワーフ製らしい。
ドワーフと仲がいいのかな?
「きゅっ。 きゅーーっ、きゅっ……」
雛竜は、しきりに謝っている。
『日本酒』を出してあげてと言ったのも、雛竜だ。
「いやいや。 気にせんでくれ。
グリフォンの奴がこちらへ向かったのは、知っていた。
赤子のうちに、【古代竜】殿たちを、始末しようと思ったんじゃろう。
赤子とはいえ、【古代竜】に【フェンリル】。
食えば、それなりの見返りを得られるからのう。
だが、結局、間に合わなかった。 申し訳ない。
謝るのは、こちらのほうじゃよ。 それにしても……」
火竜は、雛竜とちび狼を見下ろして、しみじみと言った。
「……これほど早く、【古代竜】殿たちが、復活するとはの。
女神たちの
よき主にめぐり逢えて、ほんとうによかったのう」
「きゅっきゅっ!」
「がうっ、がう!」
雛竜たちが、なぜか抗議してる。
ぼくに、不満でもあるの?
「なにしろ、二体同時に【眷属】とするほどの魔力持ち。
さらには、敵と思えば容赦なく殺しにかかる、冷酷さ。
この主ならば、かつての魔王のような悲劇は起こるまいよ。
……おおっと。
つい、口が
そう言いながら、ぼくを見て、ニヤリと笑った。
__なんだろう。
おかわりでも欲しいんだろうか?
超巨大な爬虫類だからね。
笑顔が、すごく怖い。
でも。
__復活したってどういうこと?
【輪廻転生】なら、日本人だからわかる。
仏教の考え方だからね。
でも、【復活】って何?
イエスキリストか?
もちろん、言葉の意味はわかるよ。
でも、ぜんぜん、イメージが湧いてこない。
ちびたちが、復活したなんて聞いても、ピンとこない。
アニメやゲームなら、定番だけどさ。
それに、ぼくは、冷酷なんかじゃないぞ。
誰だよ。 かつての魔王って?
なんか、いい人っぽいニュアンスだったけど。
そんなひとと、比べるなよ。
まったく、わからないことばっかりだな。
あらためて、しみじみ思ったよ。
ここって、異世界なんだなって。
まあ、今更だけどさ。
そのあと、火竜は、雛竜たちと話しこんでいた。
自動翻訳の
なにやら、しんみり話しているから、放っておいた。
「【邪神竜】との、二千年にわたる戦いの間。
火竜さまは、中立の立場を貫いてこられたそうだ。
まあ、要するに、ニンゲンの味方をしてくれたようなもんさ。
ニンゲンといっても、ドワーフたちのことだがな」
城の中から、火竜を見ながら、辺境伯のおっさんが教えてくれた。
おっさんは、庭に出てこなかった。
『オレなんぞの出る幕じゃねえ』とか言っていたけど。
ほんとは、ビビってたんじゃないかと思う。
やたらと威勢のいいひとって、ビビリが多いから。
おっさんに続いて、ソフィアも教えてくれた。
「火竜は、火を
だから、ドワーフの守り神のような存在なのですよ。
他にも、ドワーフと仲の良かった竜が、いたそうですけれど……」
__なるほど。
『ドワーフと仲の良かった竜』……ね。
なんとなく、心当たりがあるような気がするけど。
決めつけるのは、やめておこう。
こっちはこっちで、また、復活みたいな話になりかねない。
でも、まあ、攻撃しなくて、ほんとによかったよ。
ドワーフたちの守り神なら、ぼくも、仲良くしたいからな。
しばらくして、空が赤みががってきた頃。
火竜が、ぼくを呼んだ。
「今日は、ずいぶんと馳走になったの。
じつに見事な酒じゃった。
【邪神竜】殿たちとも、ほんとうに久しぶりに、じっくり話ができた。
心から、礼を言わせてもらう。
ときに……。 ニンゲンどもは、コレを喜ぶと聞いておるが」
そういって、魔法陣を展開した。
【空間収納】の魔法陣だ。
ドッシャン!
ガラガラ!
ガチャンガチャン!
眼の前に、大きな鱗が、山積みされた。
「……家の掃除がてら持ってきたのじゃ。
こんなもので、ほんとうに、よかったかの?」
ゴミだったらしい。
駆けつけるのが遅くなったって、言ってたけどさ。
掃除しながら、コレを集めていたせいじゃないのか?
「オレには使いようがないが。
ドワーフとエルフの族長たちが喜びそうだ。
ありがたく、もらっておく」
「ふふふ……、そうかそうか。
ドワーフとエルフとはの。
ヌシは、元ヒューマンであろうに……。 まあ、よいことじゃ。
【古代竜】殿と【フェンリル】殿のこと。くれぐれも、よろしく頼むぞ。
では、また、会おう」
そういって、城の庭から飛び立っていった。
また、来るのか……。
お酒の補充がたいへんになりそうだな。
でも、せっかくの竜のお友達だ。
ちびたちと仲良くしてやって欲しいと思う。
それにしても。
『ほんとうに久しぶりに、じっくり話ができた』だって?
雛竜たちは、まだ、赤ちゃんだぞ。
何だよ。 『久しぶり』って。
まあ……。
ぼくが考えてもわかることじゃないか。
とにかく、雛竜たちと仲良しなら、それでいい。
いま、それだけでじゅうぶんだ。
『どっちみち、ドワーフとエルフにしか扱えねえ。
族長のじいさんに渡す時に、ひとこと付け加えておいてくれ』
要するに、場所を借りたことを伝えればいいのか。
おっさんも、ドワーフの族長とは知り合いらしい。
だから、コレで、話が通じるんだと思う。
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