2番目のプライド。

蓮水エヌ./N.

2番目のプライド。


高校1年の夏休み、私の家で二人きりで夏休みの宿題をやっていたあの日が─…

悲劇の始まりだった。



「お前、好きなやつとか…いる?」


きっかけは陽稀はるきのその一言だった。


「…いる、よ」


長年募らせた恋心を遂に彼に伝えるチャンスがやってきたのだと、心が踊った。と同時に…味わったことの無い緊張感が胸の奥の奥からジワジワと全身に広がってくる。


家が斜め前で、幼い頃から同じ学校に通い当たり前のように毎日顔を合わせてきた工藤陽稀くどうはるきと私、深山郁美みやまいくみは所謂”幼なじみ”というやつで。


──私たちはいつか結ばれる運命なんだ


っと、心のどこかでそんなふうに思っている自分がいた。それほどまでに私たちは、長い年月を共に過ごしてきたのだ。


陽稀を思う気持ちは誰にも負けない自信があった。そしてそれは…きっと陽稀も同じだと、そう信じて疑わなかったのに─…



「……は?っえ、いつから…?ってか誰?俺の知ってるやつ?!」


なんだか思っていた反応と違ったので少し戸惑ったが、この勢いに任せて告白してやろうと思った。


「えっと…あのね、実は、」


「─…いやぁ、良かった。郁美にも好きなやつがいるなら相談しやすいわ。実は俺も最近、気になる子が出来たんだけどさ?こんなこと話せるの、郁美しかいないし……助かった。」



──まるで、絶望の淵に突き落とされたような気分だった。


陽稀の好きな人は…私じゃなかったんだ。



気を緩めると涙が出てしまいそうなので、必死に目に力を込めて泣かないよう努力する。もちろん、顔面に笑顔を貼り付けることも忘れない。



「私でよかったら、相談に乗るよ」


ボロボロのメンタルを保ちながら、この気持ちを陽稀に気付かれないように…感情を隠すのに必死で、つい心にも無いことを言ってしまった。


好きな人の恋愛相談に乗るなんて、地獄でしかない。


「…いいのか?いや、お前…絶対に言うなよ?実はさ、気になる相手っていうのが、、郁美と仲のいい友達の…美月ちゃんで、、」



その言葉に、ギリギリ保っていた理性が遂に崩壊した。壊れかけていた心が、粉々に砕け散ったみたいに…視界がボヤけ始めて、溢れ出た涙が頬を伝う。



(よりによって…どうして私の友達なのっ…?)



しかし…照れくさそうに好きな人の話しを私に語る陽稀は、手元にある宿題に視線を落としているので、私の身に起きている異常に気付かない。



「美月ちゃんって…彼氏とかいんのかな?どんな男がタイプとか知ってる?何でもいいからさ…少しでも情報くれたら郁美の好きなチョコレート、箱買いして届けてやる…よ」



ふいに顔を上げた陽稀と視線が交わり…私と目が合った陽稀が驚いたように一瞬、目を見開いたのが見えて…慌てて顔を背けて頬を伝う涙を手で拭った。



──最悪だ。泣き顔を見られたっ。


いま泣き顔を晒せば…いくら鈍感な陽稀でもきっと気付いてしまうだろう。私の好きな人が誰なのか─…嫌でも、分かってしまうだろうから、、だからっ、、



「えっと…美月だっけ?そーだなぁ、美月の好きなタイプってどんなだったかな…夜にでも電話して、聞いてみるね!」



わざとらしく明るい声を出し、泣いていたという事実を無かったことにした。



──私にだって、プライドはある。


長年の恋の終わりを自分自身が悲しむよりも前に、想い人から同情されるなんて…そんな惨めな終わりを迎えるのだけは避けたかったのだ。



「……あー、やっぱいいわ。」


「…え……?」


「さっき俺が言ったこと、忘れて。」



先程までのテンションは何処へやら。急に宿題を片付け始めた陽稀。黙ってその様子を見つめていた私に、帰り支度を終えた陽稀が衝撃の一言を放った。



「泣いたってことは、期待していいよな…?」


「期待って…なにを、」


「俺は2番目じゃないんだ、って。」



聞けば…私の口から自分以外の人の名前が出ることを恐れた陽稀は、咄嗟に”美月が好きだ”と嘘をついてしまったらしい。



気持ちを隠そうと平気なフリをした私と、振られる前に自分を偽り嘘をついた陽稀。


プライドとやらは、時に人を素直にしてくれるらしい。



似たもの同士の私たちの不器用な恋は─…

そんな悲劇の物語の上に、誕生したのである。




2番目のプライド。


【完】



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2番目のプライド。 蓮水エヌ./N. @enu_mahou

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