第42話 国交交渉

 結局グリプニス王国とエルダーミスト連合による2度の戦さは、ともにエルダーミスト連合の大勝利に終わった。

 

 フィオレンにとって最大の誤算は進軍した貴族が5人共捕虜になってしまったことだった。

 エルダーミスト連合から捕虜の扱いを盾に交渉を持ちかけられては断る訳にはいかない。

 ここで捕虜になった貴族たちを見捨てては自分に付いてくる貴族は誰もいなくなってしまう。

 役に立たない者たちばかりであったが、救うしか選択肢はなかった。


 フィオレンは父王から全権委任を受けると宮廷をすぐにまとめた。

 ごく短期間で2度も魔の森に行くことになったフィオレンは、道中の間にこの間の魔の森との出来事を冷静になって分析したのであった。


 フィオレンは魔の森を武力で制圧しようと試みたが、それは甘かったとしか言いようがない。

 魔の森は広大で、多くのモンスターが生息していると言われていた。

 事実今回、イビルベアーやグレートブルといった強大なモンスターの襲撃を受けている。

 武力での制圧は難しいと言わざるを得ないだろう。

 

 次にエルダーミスト連合の存在だが、制圧を諦めた以上話し合いに応じるしかないが、こちらに関してはいくらでもやり方があるように思われた。

 エルダーミスト連合の代表はエリーとかいう妖精とのことだが、こちらとの窓口はアトラ村のゲッターという、リスモンズ王国の伯爵家を出奔した若者で間違いない。


 フィオレンからするとゲッターは若いだけで怖くもなんともない相手だった。

 会談相手の3人だったら、1番怖いのは表情が読めないオークが一番難しい相手だった。

 こちらの挑発に乗りやすい単細胞に見えたが、それが当たっているのか間違っているのか、今だにフィオレンには判断がつかない。

 ワーウルフと名乗った男も人間の姿をしているが考え方がわからない。

 務めて無表情を装っていたが、動揺は手に取るように伝わってきた。しかし、やはりそれが当たっているのか間違っているのか、フィオレンには判断がつかなかった。

 だが人間であるゲッターに関しては、ほぼ自分の思惑通りに動かす自信があった。


 これでもフィオレンは欲望渦巻くグリプニス王国の王宮を、長年生き抜いてきて、自らの立場を守ってきた自負がある。

 会談の時もゲッターは平静を装っていたが、フィオレンの挑発に乗って内心はらわたが煮えくりかえっていたのは伝わってきていた。

 ゲッターが帰り際に「後悔なさいますよ」と余計な一言を残したのがいい証拠だった。

 結果的に負けたのはフィオレンたちだが、会談の場で帰り際にあんなことを言っても得をすることは何もない。

 ゲッターが若さ故に黙っていられなかったことを表している一言だとフィオレンは察していた。

 

 フィオレンはどうすれば最大限の実益が得られるか側近たちと打ち合わせを繰り返したのであった。


 前回と同じエルダーミストの森の東側の平原で交渉は行われた。

 今回エルダーミスト連合はゲッターとグルド、そしてヴェルデリオンの3人で交渉に臨んでいた。

 なぜヴェルデリオンが参加しているかというとエルダーミスト連合の代表であるエリーの代理としてであった。

 今回交流を正式に結ぶのなら条約などに署名をする必要が考えられた。

 しかしエルダーミストの樹の世話役であるエリーは森から出られない。そのため代理人としてヴェルデリオンが参加することになったのだ。

 ヴェルデリオンならエリーに似た服も持っているし、容姿も似ていてドライアドに雰囲気も似ている。

 実質、エルダーミストの樹の守り人の筆頭であるし、適任とのことになった。

 ヴェルデリオンはあまり乗り気ではなかったが、正体は明かさなくていいし、署名だけしてくれればいいとゲッターが頼むと渋々承諾してくれた。


 平原に建てられた天幕へ今回も徒歩で行ったが、今回は特に何も言われなかった。

 今回も入り口で武器を預かると言われて、ゲッターとグルドは武器を渡した。

 ヴェルデリオンは持ってきていないのか何も渡さなかった。


 今回は天幕の中にはテーブルが置かれていて3人ずつ座れるようになっていた。今回は付き人も同席を許されていたので、ゲッターはレイクを、グルドもいつもの付き人を連れてきていた。

 ゲッターたちが天幕に入ると反対側からフィオレン王子たちも入ってきた。

 お互いに席に座ると初老の姿勢の良い男が「グリプニス王国で大臣をしているノクタリス伯爵だ。今回の進行を務めさせていただく」と宣言をした。

 こちらが勝ったのに相手主導で進めさせていいのかゲッターは悩んだが、ヴェルデリオンはあっさり「いいよ」と応じてしまった。

 これにはフィオレン王子たちも驚いていた。

 ヴェルデリオンは「時間がもったいないから早く始めよう。面白い話になるかどうかはこれからなんだしさ」と明るく言った。

 ゲッターが「彼はヴェルデリオンという。エルダーミスト連合の代表のエリーの代理で今回出席している。」と紹介するとヴェルデリオンは「よろしくお願いします」と元気よく挨拶した。

 ノクタリス伯爵はなんとも言えない表情をしたが、特に何も言わずに書状を出すと内容の説明をした。

 戦争の賠償金、それ以外にも捕虜の身代金、あとお互い関税なしに対等に貿易を行うことが書かれていた。

 捕虜の身代金は一括で払われるが、賠償金については額が大きいため10年間の分割払いとなっていた。

 その10年間は対等の同盟を組んで、また10年後に同盟の見直しを行うことになっていた。


 予想よりはるかに好条件のものが出てきてゲッターは驚いた。

 グリプニス王国がここまで譲歩してくるとは思っていなかった。


 賠償金と身代金の額を合わせると下手をすると小国くらいなら買える額だ。賠償金が分割になるのも仕方ないし、逆にその期間同盟が組めるのなら文句なかった。


「ダスクレイヴ男爵たち捕虜は無事なんだろうな?」とノクタリス伯爵が尋ねたのでヴェルデリオンは「何なら彼らの耳だけでも持ってこようか?それとも指がいいかな?大丈夫だよ、ちゃんと回復魔法で治してあげるから」と答えた。

 この発言にノクタリス伯爵は青くなり、それまで表情を変えず黙っていたフィオレン王子も冷や汗を流したようだった。

 ゲッターがヴェルデリオンのあまりの物言いに注意しようとしたが「ダメだよ。こんな舐められたことされて気づかないなんて」と逆にヴェルデリオンに注意された。

 ヴェルデリオンは「どうせ身代金は後から自分たちで払わせるんだろ?だから国の懐は痛まないよね。賠償金だけの分割払いならそれほどの負担にならないし。それよりも同盟だよ。これだとグリプニス王国が戦争する時、エルダーミスト連合がいいように使われるよ。リスモンズ王国との矢面に立たせようとしているのが見え見えじゃないか」と怒って言った。

 ヴェルデリオンは少し考えると「まずは人質かな。フィオレン王子の娘でなくていいから王族の姫をゲッターにお嫁にちょうだい。あとお互いの防衛には戦費を負担してくれるなら協力するけど、侵攻に協力するかはその時の条件次第だ。そのことをしっかり明文化してくれ」と言った。

「あと」とヴェルデリオンが言うとフィオレン王子とノクタリス伯爵はビクッとした。まだあるのかと思ったのだろう。

 その様子を見てヴェルデリオンはおかしかったのか笑顔になると「サルバトールから取り上げた品は返してあげてよ。これからアトラ村に投資すれば何倍にもなって戻ってくるから、奪ったものは返して一から始めてね」と言うとフィオレンはガッカリしていた。


 結局フィオレンはヴェルデリオンの出した条件を全部飲むことにした。

 人質の姫についても心当たりがあるので「すぐに送ると」返事をした。

 お互いにサインして誓約書を読み上げると交渉は終わった。


 フィオレンにはヴェルデリオンが化け物である確信があった。正直に言うと一目見た時から只者ではない何かを感じていた。

 ノクタリス伯爵に交渉を任せて様子見に徹していたのだが、相手はそうせずに交渉の場の主導権を握り続けた。

 自分もそうだがノクタリス伯爵があれだけ相手に振り回されるのは初めてだろう。

 

 国交は開かれて、これからはエルダーミスト連合との交流が持たれる。

 フィオレンはヴェルデリオンと言う名の妖精の情報を集めることを心に誓ったのであった。


 ゲッターはアトラ村への帰り道、ヴェルデリオンからひたすら説教をされていた。

「相手が大国っていうことから、自分たちを下に見過ぎだよ。もっとエルダーミスト全体の利益を見ないとね」とヴェルデリオンに言われてゲッターは「面目ありません」と下を向いてしまう。

 ヴェルデリオンはニヤっと笑うと「お嫁さんが来るまでにぼくがゲッターに帝王学を教えるよ」と言った。

「本当に結婚しないといけないのか?」とゲッターが言うので「さっきまでその話をしていたでしょ!今さら何を言ってるの?」とヴェルデリオンは言った。

 それからポンっと手を打つと「ゲッター大丈夫だよ!アイナは側室にすればいいから。みんなを大事にする方法も帝王学でぼくが教えてあげるから安心してね」とヴェルデリオンは笑った。

 もうなるようにしかならないとゲッターは覚悟を決めたのであった。

           ⭐️⭐️⭐️


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貴族の四男に生まれて居場所がないのでゴブリンの村に移住して村長をします アクアくん3号 @gundamMk2RX178

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