0158 超長距離転移の陣
「ほら、着いたよ」
「ここが……?」
「ああ。少なくともボクはここで待たされていたし、アンタを連れたラキイラリック公爵はここからでてきた。気をつけな。中の様子までは知らない。じゃ、これで失礼す」
「あ。あの、ありがとうっ」
「……ボクの台詞さ、お嬢さん。じゃあね」
空を旅すること二日。途中このコは私の食事を確保するのに民家を襲撃して潰した家屋からでてきた魔族たちを追いまわしてくれ、その隙に私は数日分のパンを頂戴した。
それを空に舞い戻ってから浄化をかけて千切って食べることでまずまず快適な旅路だった。……ひもじい、というか淋しい食事でより一層学食の食事が恋しくなったけど。
それももうすぐ、と思えば溢れてくる感情を抑えられる。到着したのは、鬱蒼と茂った山の中腹にある開けた場所。その場所自体にはなにもなさそうだけど、奥には……。
ぽっかりと口を開けた洞穴のようなものがある。そこについても運んでくれた魔獣は詳しくは知らないから気をつけろ、と言って羽ばたいた。私のお礼に照れながら一気に飛翔して上空を舞って遠く小さな点になって飛び去っていった。私は大きく手を振った。
さようなら、は届かない。だからせめて、と。お別れをした私は一瞬躊躇したが洞穴の中に閃光魔法を投げ込んだ。――バァアアン! 閃光が弾けて小動物が逃げる物音。
しばらく耳をそばだててみたが他の物音は聞こえないので深呼吸を入れて勇気をだして一歩踏み込んですぐ
「……」
あのコはユーリ公爵が私をここから連れてきた、と言っていたがこんな洞窟に超長距離移動用の転移魔法陣が本当にあるか、なんて半分以上博打だわ。なかったら困るが。
あの城にいても困ったが現状の比でなく襲いかかったでしょうし、これで、こうした方がよほど精神衛生的によろしい。私は一本藁に縋る思いで歩を進めた。そうして鼠や、ここをねぐらにしている動物たちが逃げていく中を歩いていってふと、足が止まった。
視線の先には変わった色の地底湖。白い鬼火の灯りで青く光った、と思ったら緑色に移ろって橙色に変わったと思ったら赤く変色していく。胸が妙に騒ぐままそっと寄る。
ビンゴ。地底湖、そこまで広くないその底に輝く儀式陣は魔界の言語で綴られているが部分的に読み解く限り「転移」だとか「
ここだ。どうやって起動するんだろう。悩ましく思ってとりあえず水に
あ、あれ? もしかしてだけど魔力がある者なら手を入れるだけで起動できるの?
だったら。私は服を脱ぐのも鞄を置いておくのも証拠を残すから、と鞄をしっかり抱いて息をすう、と吸い込んで思い切って湖に飛び込んだ。そして、浅い底に足がつき。
視界が、まわる。地底湖だったそこがぐるぐるんと回転していき、ややあって止まったので私は底を蹴って腕で水を搔き、水面を目指す。遠い……っ、息、苦しい。でも!
苦しさを紛らわせる正しき苦し紛れで最後の一搔きをしたら、顔が水面からでた。
「げほっ、こほっ、はあ、は……?」
そこは、湖、だったけど地底にある感じじゃなくて、どちらかというと森林にあるといった雰囲気で、でもその森はしーん、と静まり返っていてちょっとだけ気味が悪い。
私はあまり水につかっているのもなんなのであがって服や髪を乾かした。周囲を見渡してもひたすら木々や岩などといった自然界の構成物が配置されているだけみたいだ。
どこだろう、ここ。鞄も乾かして(濡れたままは重いわ)歩きだす。幸い獣の気配はない。なさそう。と、思ったら視界の
「?」
そこにいたのはうっすら黄金に輝く体毛の
私はこれまで魔獣を追い払ったりはしてきたけど聖獣のそれも赤ちゃんなんてはじめて見た。はわわわ、可愛いなあ。でも、触ったら親が怒るでしょうし、だったらまあ。
「ね、私はアリア。ここはどこか教えて?」
「お姉さん、聖女? 魔力のにおいが違う」
「ええと、多分?」
「? ここはね、セルカディカ学園の敷地内にある森だよ。学生たちはみんなここのことは「漆黒の樹林」って呼んでいる。……お姉さんひとりで入ってきてよかったの?」
「聖女の誘拐事件について知っている?」
少し迷った。もしかしたらこのコを巻き込むかもしれない。そう思ったが、でも思い切って訊いてみた。すると、ひとつ頷かれたので私はわかりうる事情を話しておいた。
失礼かもしれないなあ、とは思ったが保険に、と思って。もし万が一があってもこのコが、と淡いながらに期待して。そのコは黙って聞いていたがひとつ、頷いてくれた。
私が話した意図を汲んでくれたみたい。赤ちゃんと思えないくらい知能が高い理由は一角獣だから? それとも魔獣たちみな、
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