0006 無恥な残念先輩
ま、どうでもいい。私がどく必要もない。指定席ならそう書いておかないのが悪いのとそんな決まりは寮のところにも学校のところにも記載がなかった。知ったことじゃ。
――バシャ。ポタタ、ポタ……。知らないし、くだらない瑣事、と食事に戻った私の髪から滴る水滴。冷たい、水。振り向くと別の取り巻きがコップを逆さに立っていた。
「いいわねえ、水も滴るミニ核石ちゃん♪」
「……ふっ」
さすがに家のやつらもこんな真似はしてこなかったから新鮮な嫌がらせと罵声だ。
ガキっぽすぎる。呆れと相手の頭の残念さに失笑してしまい、鼻が鳴った。で、構わず定食の続きを食べ、ようとしたが今度は髪を掴まれて顔を無理矢理あげさせられた。
「今、笑った? そんな矮小核石のクセに」
「ひととしての作法すら知らない名ばかりお貴族様に横暴働かれて、こどもすぎる言い分でどけと言われて笑わないなんて我慢強いのね。残念でもないけど私は違うみたい」
私の言で相手の女は持っている
なにその顔。遠い異国で交通ルールの周知に使われているって本で読んだ標識、というものを顔で表してくれているの? 顔芸まで残念だなんて
私は赤くなってぷるぷる震えている先輩女子の手を払って食事に戻った。周囲がざわつく。どうも有名どころ、とされる家の御令嬢だったらしいが、そんなの私が知るか。
そうしてさっさと食事を済ませてトレーをさげた私が立ち去ろうとした背で靴音が聞こえてきて突きだされたフォークを持つ手を叩く。カランっ。食器が床を叩く音が静まり返った学食に響く。ついでに、お行儀の悪い阿呆に仕置きしよう。青が燃えあがった。
「え、ひ、き、きゃああああああっっ!?」
「食器でひとを刺すな。こんなこと言われなくてもわかると思ったけど頭が膿んでいるのね、あなた。それともなあに。私が美味しそうな
「いや、いやあ、誰か、誰か助けてえええ」
……このひと、本格的に頭の病気じゃないか。魔法を習う身でこんな
それにしても、キンキン声で騒ぎ立てて恥ずかしくないの、このひと。本当に魔法を学んでいるひとが見れば相当にあなたが
ちなみに、鬼火の魔法というのは
さっきから必死に水をこれでもかと浴びせかけている。無駄に濡れるだけなんですけどひょっとしてわざとか。恨みがあってこれ幸いと水をぶっかけまくっている、とか?
暗い夜道が晴れだけ、だなんて誰が定義したというの。雨の日だって、雪の日だってあるんだから水なんかかけても無意味。鬼火の魔法を消すのは消灯の魔法。これ一択。
鬼火は火だけど、分類上は灯りになる。魔術に慣れる必要がある家なら自室の灯りは鬼火の魔法でつけるものだ。仮に燭台が倒れて蠟燭が紙や机に接触しても鬼火なら安全だし、第一に燃え広がる、という現象が起こらない。でも、どうやら時間が無駄みたい。
「――《消灯なさい》」
「いやああああああ、あ、ああ、あ、あ?」
「いろいろ残念な先輩、よかったら学び直してはいかが。幼児が習う魔法辺りから。あとついでにひととしての礼儀や作法、当然の常識をわきまえることをおすすめするわ」
あの家。十六年、私を監禁していたも同然の家を追いだされて私は少し気分がよかったので親切をして、進言も添えてお
……どうせ、魔法の種類を適切に見分けられるひとがいたとしても、そんなひとがいたって悪いのは必ず私になる。先輩に舐めた真似をした、とお呼びがかかるかしらね?
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