0005 大災禍の年。学食へ
そんな生活だった。そんな十六年だった。そんな惨めな暮らししかなかった。だけどもう、家を追いだされたのだから。この大都会で学生を終えたら、どこかで就職して。
そして、いつまでも笑われて、嗤われて、失笑と嘲笑と陰口と差別に耐えていかねばならないんだ。ふう、とため息を吐いた私は新入学生の為の
ずらーり、と書かれた多くの掟。中でも要注意事項は赤字で書かれていた。町を魔物から守る退魔の結界から外にでてはならない。学園の敷地にある森に入る時は許可をえてから必ず複数名で。ふたつの掟の理由は魔獣がでるから、だ。が、森に関しては、と。
追記を読む。森に棲む魔獣たちは基本的におとなしい。
大災禍の年。千年に一度、波を
するとどうなるか。植物は枯れ、動物は凶暴化し、人々は病に罹る可能性が実に一・八六倍にまで跳ねあがる。本当に、どうしようもないこの世界の自然現象のひとつだ。
鎮める方法。これはお
そういう手の逸話だ。大昔、今から千年以上前の話だからいまひとつピンとこないのだけどひとつだけ確実なことがある。私には、関係ない。だって、私はこの……――。
やめよ。無関係な話で自分を虐める必要はない。暇だったので他の掟についてと学生証にある学徒の心得、というものを読んで時間を潰し、お昼に食べたサンドウィッチが胃から消えたのか。ぐう、と音。夕暮れで真っ赤に焼けた空を一瞥して学食に向かった。
そして、早速上級生たちのひそめる気皆無な好奇の目と話し声に包まれた。私は努めて気にしないようにして厨房にいるおば様にA定食を注文し、温かい紅茶をポットでお願いして待った。ざわざわ、ひそひそとうるさいわね。食事くらい静かにとったらどう?
待つこと一〇分ほど。温かい食事と紅茶のポットがトレーに乗ってでてきた。お礼を言って離れる。空いているテーブルを見つけたのでそこにトレーを置いて御祈りする。
いつもの癖で。いつも、存命の家族は歯牙にもかけなかった私だけど。五歳の時に亡くなったお婆様だけは生まれた時からずっと私の味方だった。お亡くなりになる直前にお会いした時だって「アリア、あなたはとっても特別な存在よ」と言い残して逝かれた。
そのお婆様がそうしていた、というのもあるがなによりお婆様に日々の糧を、命をいただくことに感謝する心を忘れてはひとも
すると、なにか種類の違うざわつきが起こったので視線をあげるとニアリスのに負けず劣らぬ大きな核石を胸に輝かせる女生徒の集団が現れ、あがる黄色い声がうるさい。
静かに食事させて。せめて家を追われた今くらい多少の自由はあっていいでしょ?
などと思っていたらその女生徒たちの取り巻きと思しきこちらも見せつけるように核石を際立たせるドレスを纏った女の子たちが、なぜか私の座るテーブルにやってきた。
「あなた、新入生ね。ここはリーシェトン様方の座るテーブルなの。早く移動して」
「御覧になって理解できないなら説明しますが空きがないのでこちらに座りました」
「はあ? 詰めて入れてもらいなさいよ」
「ちょっと待って。見て、そのコの核石」
あ。きた。もうそのネタがくるのかー。いい加減飽きてきた。十六年しか生きていないけど飽きるくらいずっと、四六時中笑われていたから、わかる。この先の展開など。
「ぷ、くく……なにそれ、削れたのっ?」
「ちょっと、笑っちゃ悪いわあ。ご本人は自慢に思っておいでかもしれませんもの」
ええっと、いいお
自分たちの顔に気づかないのか。誰も指摘してやらないのか。ひどいお顔だこと。
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