序章:運命の足音 シーン⑥:手帳の謎に向き合う陽向

シーン⑥:手帳の謎に向き合う陽向

民宿に戻った陽向は、手帳をそっと机の上に置き、そのまましばらくじっと見つめていた。薄暗い部屋の中、手帳の革の表紙は鈍い光を反射し、時間の流れを感じさせるような風化した質感が、手帳そのものに特別な何かを示唆しているかのようだった。その模様は、ただの装飾ではなく、何か重要な意味が込められているのではないかと陽向の心に引っかかる。手帳はどうしても普通のものには思えなかった。

陽向は深く息を吸い込むと、椅子に腰を下ろして手帳を開く。古びたページが微かな音を立ててめくられると、そこには奇妙な文字と記号がびっしりと記されていた。ページをめくるたびに、何かを引き寄せられるような気配が感じられ、陽向の手が止まることはなかった。その文字は、鋭い線と曲線が交じり合っており、明らかに人間が書いたものとは思えない独特の雰囲気を漂わせていた。見れば見るほど、陽向はその内容に吸い込まれていきそうな感覚に襲われる。

「これ、なんなんだ…?」

陽向の声が、部屋の静けさの中で小さく反響した。彼は何度もページをめくりながら、目で追っていったが、なかなかその意味をつかむことができない。手帳に記されているものが、ただの言葉や記号ではなく、何かもっと深い意味があるのだと感じずにはいられなかった。すぐにスマートフォンを取り出し、手帳の内容を写真に撮って保存し、後で調べることを決めた。彼は一枚一枚、慎重にページをめくり、目を凝らしてその内容を確認していった。

途中で現れたのは、まるで詩のような言葉だった。しかし、その言葉を目で追うごとに、陽向の胸の奥で何かがざわめくような感覚が広がっていった。何かに呼ばれているような、強く引き寄せられる感覚だ。指先が汗ばんで、ページをめくる手が少し震える。

その時、窓ガラスが「きぃっ」と音を立てて鳴った。陽向は驚いて振り返ったが、外には何も見当たらない。ただ、空気がどこか冷たく、重くなったように感じられた。彼は短く息を吐き、再び手帳に視線を戻す。

「風、じゃないよな…」

小さく呟きながら、陽向は気のせいだと自分に言い聞かせるように再度ページをめくった。次に開かれたページには、大きな円形の模様が描かれていた。その模様は幾何学的で、複雑な線が絡み合いながら、中心に向かって収束していくように見えた。それをじっと見つめるうちに、陽向はどこかで見たことがあるような気がしたが、思い出せない。それでもその模様を見続けていると、目が吸い込まれそうになる感覚に襲われた。まるでその模様が動いているかのような錯覚を覚え、陽向は慌てて目をそらした。

その瞬間、手帳の一部が風もないのにゆっくりとめくれた。紙が擦れる音が静かな部屋に響き、陽向は思わず息を呑む。その動きに一瞬凍りついたが、何も起こらないことを確認してから、意を決してそのページを確認した。そこにはかすれた文字で、こう記されていた。

「闇に触れるな。光の剣を手にせよ。」

陽向の心臓が強く脈打った。その一文は、明らかに何か重要な警告のように感じられた。それはただの言葉ではなく、強い意味が込められていると直感的に感じた。陽向はその文字に、無意識に身が引き締まるような感覚を覚えた。

「光の剣…?」

その言葉が何を指しているのかはわからないが、確実にこの手帳はただのものではないと陽向は確信した。次の瞬間、部屋の窓が再び音を立てて震えた。陽向は立ち上がり、窓の外を確認したが、やはり異常は見当たらない。ただの風だと思いたかったが、彼の中で何かが確実に変わり始めていた。

「気のせいじゃない…」

陽向はそう呟きながら、手帳を閉じた。その瞬間、手帳の表紙がわずかに暖かく感じられるのを覚えた。何かが確かに変わった、そしてそれが何を意味するのかを考える余裕はなかった。

「一旦休もう…」

陽向はそう呟き、手帳を机に置いたままベッドに腰を下ろした。心の中には、謎への興味と得体の知れない恐怖がせめぎ合っていた。手帳が示すものが何なのか、そして「光の剣」とは何なのか、それを知るためにはもっと多くの手がかりが必要だと感じながら、陽向はベッドに横たわり、深い思索にふけることとなった。

シーン⑥終

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