第1章:古城で見つけた「誰かの手帳」 シーン①:心咲の仕事風景と奇妙な現象
シーン①:心咲の仕事風景と奇妙な現象
朝の陽光が診療所の窓を通して部屋に差し込み、心地よい温もりをもたらしていた。窓を開け放つと、新鮮な空気が部屋中に満ち、外からは牧場の牛たちの鳴き声と、どこか遠くから聞こえる鳥たちのさえずりが心地よく響いていた。この村にある唯一の診療所であるため、朝の時間はとても大切だ。心咲(みさき)はまだ少し眠そうな目をこすりながらも、気持ちを引き締めて机に散らばるカルテを整理し始めた。目の前に広がる書類の山をひとつひとつ片付けながら、彼女は小さな溜息を漏らした。
「最近、本当におかしい…。こんなに急に体調を崩す動物が増えるなんて」
その言葉には疲れがにじんでいた。彼女が扱うカルテには、牧場で飼われている牛や羊、さらに家で飼っている犬たちの診察記録がぎっしりと書かれていた。それらのほとんどが共通して「食欲不振」「倦怠感」「体温の低下」といった症状を訴えていた。心咲は思わず眉をひそめ、目の前に広がる書類の山を見つめながら考え込んだ。
「何か伝染病でも広がっているのかな…」
心咲は何度もその可能性を考えた。しかし、どうしてもそれだけでは説明がつかない。動物たちが見せる異常な行動も、ただの病気の症状として片付けるにはあまりにも不自然だった。机の上に置かれたカルテの一部を手に取り、再びその内容に目を通す。何かの手がかりが見つかるかもしれないと思いながら、心咲はページをめくり続けた。その時、膝の上で丸くなっている猫が小さく喉を鳴らしながら心咲の手にすり寄ってきた。心咲はその猫の頭を撫でながら、視線を外に向けた。
昨夜、近隣の農家から相談を受けた際、牧場の奥にある森で動物たちが異常な行動を見せ、恐怖に震えているという話を聞いた。その話が頭の中を何度も巡り、心咲の胸の中に小さな不安が膨らんでいった。何かがこの村の周りで起こり始めているのではないか、そう感じていた。
「まずは目の前の診察をきちんとこなさないと」
心咲は深呼吸をして気を取り直し、次の患者である大型犬を診察台に乗せた。犬はおとなしく伏せているが、その目はどこか元気をなくしているように見える。耳が垂れ、いつもならばもっと活発に動くはずの犬が、まるでその場にうずくまっているようだった。心咲は聴診器を耳に当て、犬の胸にその先端を触れさせた。心拍数を感じ取りながら、彼女の眉がわずかにひそめられる。
「心拍数が遅い…体温も下がっている。やっぱり同じ症状ね」
治療法がわからないまま、心咲は焦りを感じることがあった。飼い主に適切な指示を出し、診察を終えると、思わず一息つく。体調が不安定な動物たちを診察する度に、心の中に不安が募る。症状は似ていても、原因は一向に見当がつかない。心咲はそれをどうにか解明しなければならないという責任感を感じながらも、少し胸の中に重いものを感じていた。
診察が一段落し、ふと窓の外に視線を移すと、森の奥の方で何かが揺れているのを見つけた。風で揺れる木々の様子とは少し違う。あの動きは、まるで誰かが意図的に動かしているかのように感じられた。心咲は首をかしげて、その揺れが気になってじっと見つめたが、すぐにそれ以上の追及をしないことに決めた。見間違いだろうと思い直すものの、あの一瞬の光景がどこか不安を呼び起こしていた。
「…何だろう?」
心咲は立ち上がり、窓の外をさらに見つめた。木々の間から見える光は、ほんの一瞬だったが、何か異様なものを感じさせた。その光景を見て、胸の奥に浮かんだ不安を振り払おうとするものの、心の中に妙な違和感が残るのを感じていた。目を細め、もう一度その方向を見つめたが、もう光は見えない。ただ、風の音が耳に響くのみだった。再び深呼吸をし、心咲は自分に言い聞かせるようにして机に戻った。
「今は仕事に集中しないと…」
それでも、心咲の胸の中に広がる違和感は消えることはなく、診療所の静けさが逆にその不安を際立たせているように感じられた。
シーン①終
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