第27話
そんなある日、通っていた塾の講師に梓のお兄さんが勤め始めた。
あの頃は野球をしていたから丸刈りで、今とは似ても似つかないから前にお兄さんと飲んだ時には気付かれなかったのだろう……
けれど、その時梓のお兄さんが、梓も東京へやってくるという話をしていて、それを追いかける決心をした。
あまりに現実味のない告白に半ば驚き、あきれていると、それを見透かしたように奥村くんはクスリと笑った
――梓は何も理解しなくたって構わない、そう言いたげだった。
私の名前を呼びながら、彼が抱き着いた。
その時、異常に軽い彼の身体に驚き、引き離す。
私がちゃんと食べているかどうか訊ねると、彼は視線をそらした。
彼に無理やり部屋に誘導された恐怖よりも、私は彼が倒れてしまうのではないかという心配で心が苦しくなった。
数か月前までは一緒にご飯を作って食べ、少し親心のようなものが芽生えてしまったかもしれない。
私はいてもたってもいられず、まず冷蔵庫やその周辺を確認しようと考え、部屋を改めて見回した。
たった二月しか踏み入れなかった場所が、身の毛もよだつほどまっさらな状態で、彼がどう暮らしているか一ミリも想像できなかった。
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