第25話

「奥村くん、私は先輩だよ」


平生を繕って答える。


「下の名前で呼ばないでよ」


「いやだ」彼は即答した。


「なんで?

昔は互いに下の名前で呼び合っていたのに、なんで?

俺のこと忘れちゃったの?」


首に生暖かい何かが落ちた感触があった。


少し緩んだすきに彼を思い切り引き離すと、奥村くんの顔には暮れていく夕日に照らされてキラキラと光る涙が流れていた。


「なんで……泣いて……」


男の人が泣くのは見たことがなかったので私は動揺した。


よく見ると、彼の顔は夕日でできた陰影以上に、影が落ちている部分がいくつもあった。


眠れていないのか、できてしまった目の下のそれを人差し指でなぞると、彼はその手を取ってほほに擦り付けるようにした。

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