第28話 外伝:姉妹喧嘩
謎を解くべく、しばらく先輩と日本について情報交換をしていたら、お姉ちゃんがやってきました。
「ごめんねー。課題が終わんなくて。はいこれ、書字板」
「遅いよお姉ちゃん!!」
「悪いと思ったからアリマに頼んだのよ」
先輩の名前がアリマというのが分かりました。わぁ。日本語名字。堂々としていて大丈夫だったんだろうか。
私が言う転生、アリマ先輩がいう前世の記憶は、こちらでは無気力病として知られています。そこはもう通ったとか、今更幼児の真似なんか無理、学校なんか嫌だー。周囲の子供と意見があわないとかで、まあやる気がない。
こっちの世界は無気力病は治療できない病気の一つとされていて、だいたい生まれてこなかったことにされるんで大変です。つまり殺処分ですね。私の場合は姉がごねて生き残りました。ええまあ、ひどい姉ではあるんですが、この点だけは感謝しているんです。えらい、お姉ちゃん。
「ちゃんと面倒見てくれたでしょ」
「まあそれはそうだけど……」
「そうそう。ありがと、アリマ」
「いやかまわんよ。長時間気を失っているということで、気にしていた側面もある。それではフォンテーヌ嬢、失礼する」
「はあい」
おねえちゃんはひらひらと手を振っている。中身を知らず、あの大先輩をちょろく扱ってるあたりはさすがお姉ちゃん。ちなみに褒めてません。
「ありがとうございました。先輩!」
声を掛けると先輩はにこっと笑って医務室を出ていきました。お姉ちゃんが踊っています。
「なんでお姉ちゃん踊っているの? 頭大丈夫?」
「踊ってんじゃなくておどけてるのよ! あと姉に対してなによその態度!」
「奇行するからに決まってるでしょ。あと助けてくれたんだからほんとその態度はないよ!」
「いいのよ。アリマは。全然気にしてないから」
「お姉ちゃん、人の心とかないんか」
「私ほど人間らしいやつはいないわよ」
「それ悪い意味だよね?」
お姉ちゃんは私に殴りかかってきました。本気のぐーでした。私は書字板で防御しました。こんなんでも私の紋章効果で防御力二倍ですよ。
激しい音が医務室に響きます。両者微動だにせず。
「やるじゃない」
「小さい頃から姉の癇癪で鍛えられているんで」
私が言うと、お姉ちゃんは長い髪を揺らしました。
「え。剣聖さんにじゃなく?」
「やめてよ、鬱になるから。私あの人と同クラなんだよ?」
「まあそれについてはちょっと、いやかなり同情するけど」
お姉ちゃんはしばらく虚空を見ました。話題を忘れたんだと思います。
「まあいいや。そう。それでアリマをいいとか思った? 思った?」
「まあ尊敬はできるというか」
「でもあいつ駄目よ。人の心とかないから。死ぬときだって飄々としてそう」
「素敵じゃない。達観してそうで」
「駄目にきまってんでしょ。見苦しく泣きわめいて内臓が、内臓がとか言いながら死ぬような人間じゃないと」
「お姉ちゃんほんとに頭大丈夫?」
「うっさい。とにかく人間は土壇場で人間性がでるものなのよ。あいつはそれがないから駄目。全然駄目。人間しか私愛せない」
「妹見捨てて課題優先するとか……」
「人聞きの悪いこというな。だからアリマ派遣したじゃん!」
「さっきアリマ先輩は人の心とかないとか言ったじゃん!」
「言った言った。だから選んだのよ」
「はぁ?」
「いい? 男ってのは狼なのよ。寝ている女いたらまあいたずらの一つや二つはしてくるの。人間ならね」
姉の言いたいことは分かりました。アリマ先輩は人間じゃないので大丈夫という理屈。
「普通人間じゃないって、けだものみたいなこと意味しない?」
「獣のほうがより人間に近いわね。アリマよりは」
「へぇぇ。ちなみにどのへんが?」
「あいつは恐怖心がないの。怒りもない。多分性欲もない。金銭欲も名誉欲もない。いや、どれもあるかもしれないけれど、信じられない位そのへんを自己制御してるのよ」
「格好いい」
「どこが。ほとんどホラーだからね」
そうかなあと私は思いましたが、お姉ちゃんは信じ込んだらもう最後です。私は肩をすくめました。
「私にはそんな感じじゃなかったよ。優しかったと思うけど」
「それであいつを送ったのよ。あいつ、優しさだけはちょっとだけ残ってるの」
「本当なのそれ。いや、話が全部本当だとしてよくお姉ちゃんはそんな人を私のところに送ったね」
「まあ、ハスコならなんとかなるかなと」
私は怒りました。おうこら一年先に生まれたくらいで傍若無人が許されると思うなよ。
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