第27話 外伝:文官候補生の災難

 どうも、文官候補生のハスコ(9)です。また会いましたね! ()はあの剣聖さん他の攻撃で心の中で死んだ回数です。

 そもそも、5回目の死が良くなかったんですよね。後ろに立っているなら安心だと思ってたらあの剣聖さん真後ろでも攻撃してくるんですよ。首貫かれて上に下への泣き別れですよ。あとレベルあがりました。戦闘レベル。なんで文官科の学生やってるのに騎士科のおねえちゃんよりレベル高くなっているかな?


 罵っていいでしょうか……。もう泣きたい。なんで学校で勉強するのがデンジャラスなのよ。実際は死んでないと言うけどあんな高濃度の殺気受けていたら心が擦り切れるわ! もう完全にラスボスじゃないですかやーだー。

 おっと失礼。レベルとかラスボスとか良くわからないですよね。実は私、転生者なんです!! まあ転生したってだけで無双もなんもできてないんですが。大体平和ですもんね。学校で毎日斬殺の危機に陥るとは思ってもいませんでしたが。


 気を取り直し。それでまあ、あの剣聖さんに近いとろくなことはないと一層気を付けていたんですが、あの人が来ないはずの晴れの日に 騎士科にいる姉に教材を借りにいったらこのザマですよ。にわか雨が振ってやっべ、と渡り廊下から茂みに飛び込もうとしたところで首に短剣が刺さって致命傷。倒れてしびれて防御全開してたら剣聖さん出てきて邪魔だったのか2回ぶっ殺されました。縦に8分割というもう想像しただけで嫌すぎる最後でした。

 なんでこんなめに……と目を回しながら身を固くしていたら、助けられました。騎士科の先輩でした。

 剣聖に気を付けてと言おうとしたところでもう一回死にました。あの人近くにいたんですね。一日に何回死ぬんだろ。私。ラスボスさんが強すぎる。


 それで、医務室で目を覚ましました。姉がいるかと思いきや、あの薄情者はいないわけですよ。8歳の頃に親戚から貰ったケーキを食べつくした恨みをまだもってるんだ。絶対。

 代わりにいたのが私を助けてくれた騎士科の先輩ですよ。しかも男です。これだっ、て思いましたね。あ。私成績が良くないので在学中に旦那様見つけて結婚退学狙ってます。見るからにカモ! しかも上着はすごい立派。これだ。これだ。

 あ。でも私、斬殺死体だっかからなあ。ダメか。ここでも剣聖さん余裕の妨害ですよ。どんな話やねん。

「大丈夫かい?」

「いえ、まったく」

 しまった猫かぶるつもりが真顔で返事してしもうた。ヒロイン練習をしていなかったつけがこんなところに! 

 ところが先輩は、まったく気にしてない様子。眉一つ動いてないあたりがまあなんだ。この人はこの人でやべえのかも。

「災難だったな」

「ええ。まあ。死神から逃げたつもりが追いかけてきたという話なんですが」

「ミヤモト嬢か」

「あ、はい。虐殺姫です」

「騎士科では特別講師みたいな扱いだが、文官科ではただの災難だな」

「そうなんですよ。よくお分かりで。え? なんで私が文官科って知ってるんです?」

 急にベッドがきしみました。紋章効果です。しまった、ベッド折れちゃうと思ったら、ベッドが元に戻りました。先輩が眼の前に小さな絵を出したからです。水墨画ぽいっ。え、お仲間!?

「ミレーヌの妹だろう? あいつがよく自慢していたからな」

「え”?」

 先輩は少しだけ微笑みました。あら、笑うと幼いのね。ふーん。いや、そういう話ではなく。

「お姉ちゃんが言っていることは全部嘘ですから。私は食いしん坊とかじゃないですから」

「ミレーヌは、妹がこういう絵を好んでいたと言っていたが」

「いや、ええと、それについては当たらざるとも遠からずでして……」

 お姉ちゃんは私についてどんな話をしているんだろう。1歳上の姉ほど信用ならんものはないと私のこれまでの人生が全力で主張している。なんならおもちゃ壊したのを私のせいにするくらい普通にする。実際、5歳の時にそれはもうひどい目にあったものだ。あとで謝りにきたけど許すわけない。その日は夕飯抜きだったのだ。姉が自分の夕食を半分持ってきたとはいえ、半分で足りるか! 食い物の恨みは恐ろしいこと、忘れてはならぬ。

「水墨画は故郷の絵でして。あ、魂の故郷というか」

「日本、だな」

「そうです! もしかして、転生者さんですか」

「その言い方からすると平成半ば以降から?」

「あ。はい。そうです。先輩は違うのですか」

「私はそちらの表現に合わせると江戸時代の人になるな」

「わーご先祖様!」

 私が頭を下げると、先輩は楽しそうに笑っている。随分と朗らかな笑いだった。誰かを恨んだり羨んだりしないような、そんな飄々とした感じだ。江戸時代の人にもこんな人がいるんだと、ちょっとびっくりした。

「まあ直接の先祖ではないが」

「そうですね。でも、先輩みたいな人が頑張って、今も日本があるんだと思います。あ、私が死ぬまではあったんですけど。今はどうかな……」

「そうか。そう言われると悪い気はしないな。良く生きてくれたと、私の方こそいいたいが」

「先輩って、最大でも私より2歳上なんですよね」

「一歳上だよ」

「んー。どういう仕組みで転生しているんだろう……」

 これまで深く考えたことがなかったことが、急に気になった。あと自分は年上というかおじいちゃんというか江戸時代の人好きかもしれない。

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