第19話 お詫びの錠前
午後の授業は全く手につかなかった。先輩にどう格好のいいところを見せるか。そればかりを考えていた気がする。
私の格好のいいところと言えば、やはり戦闘だろうか。斬殺には自信があります。
問題は多分、それが求められていないことだ。どうしよう。
それにしても先輩は、紋章のせいか戦いに向いていない柔和な性格のようだ。でも騎士にはならないといけないらしい。大小がどうとか言っていたが、あれはなんだろう? 調べてみたい気もする。
ああそうだ。貸しを作ったていで取り立てというか、相談をすべきだった。でも鍵を壊したからな。錠前を持っていって、それから相談しよう。それまで紋章が暴走したりしないといいけれど。
放課後、金で装飾された錠前が届いたので、ずっしり重いそれを持って部室に行く。ちょうど先輩がドアを開けて損傷を確認していた。
恥ずかしくなって何も言わず、錠前を両手にもって差し出す。先輩が黙っているので、顔を上げて、その表情を確認した。
「どうしたんだい?」
「代わりの鍵を持ってきました」
「なるほど。いや、大丈夫だよ」
先輩はそう言うが、向こう側が見えるくらいに、擦り切れそうな上着を着ている先輩の財力で錠前が修理できるとは思わない。
どう言って錠前を受け取って貰おうかと考えていると、先輩は短く呪文を唱えて切断された錠前をくっつけてしまった。
「接着……じゃない。これは溶接の呪文ですね」
「良く違いが分かるね」
「魔法使いを斬るのは楽しそうだったので、良く魔法使いの塔に遊びに行っていました」
先輩が黙ったので私は慌てた。錠前を一度置いて慌てた。
「実際には斬ってません!」
「ああうん。大丈夫。そこは誤解なんかしないよ」
本当に良かった。しかしまた格好の悪いところを見られた気がする。美の女神もさぞかしお嘆きに違いない。どうしようと思いつつ、つい疑問が口に出た。
「でも。電気系呪文はドワーフしか使えないのでは、先輩ドワーフの縁者なのですか?」
「僕はドワーフに拾われたんだよ」
「なるほど」
ドワーフが子供を拾うことはそれなりに耳にする話だ。でも彼らの優位性の理由でもある電気系呪文を教えるなんて話は聞いたことがない。私が聞いたことがない、ということは、多分前人未到のはずだ。実家に連絡すべきか迷う。貴族の本能では実家に即座に連絡なのだが、先輩は私の数少ない手札だ。そもそも先輩の不利益になるようなことはやめたい。
「よし、これで元通り」
先輩はドアに鍵がかかることを確認して私に向かって微笑んだ。心配しないでいいよと言外に言っている気がする。
「この錠前は賠償の足しにしてください」
「大丈夫だよ。むしろそんな立派な錠前があったら、みんなこぞって忍び込みそうだ」
そういうものだろうか。私は盗賊の気持ちが分からないのでなんとも言えないが、確かに私が斬る相手を無意識に探すように破る錠前を探してしまうのかもしれない。
「あとで弁済金を持ってこさせます」
「大丈夫大丈夫。そうだ」
先輩は私に鍵をくれた。飾りもなにもない鍵。
「これは?」
「この部室の鍵だよ。次からは壊さないでそれを使ってくれ」
全く恥ずかしいことこの上ない。結局鍵を受け取った後、走って転進してしまった。
寮に戻って寝台に飛び込み、やはり先輩は私のことを好きなのでは、とばたばたした。ドワーフに育てられたというのであれば、人間の常識、いや貴族の常識に疎いのもわかる。
寝台の上、仰向けになって貰った鍵を見る。真鍮製なのだが、金の鍵に見えてしまった。これは戦利品というわけだ。私の美しさに、先輩は戦わずして差し出した。
いやいや。単に鍵を壊されてたくないから、渡しただけかも。急にこの鍵がつまんないものに見えてきてしまった。一度寝台に沈めた後で、拾い上げて胸の上に置く。やっぱりこれは戦利品ということにしよう。斬殺もいいが戦わずして略奪もいい。冒険者という仕事がなくならないわけだ。たしかハックアンドスラッシュというのだとか。
夕食ができましたと、身の回りの世話をする幼年学校の生徒が言いに来た。鍵を隠して、いや、部屋の中は掃除されるからわからない。鍵を隠しポケットに入れて、夕食用の食堂へ向かった。今日は夕食用の食堂の中でも星の部屋というちょっと薄暗い部屋での食事という。
ということは、おそらくは魚かなにかがメインになるのだろう。魚を食べるときは小さな作業が増えるので、せわしない印象を与えてしまうので食堂は落ち着いた部屋が選ばれることが多い。
それにしてもこの学校、食堂の数が少ない。侯爵としては慎ましい私の実家でも夕食用の食堂だけでも五種類あるのに、三種類しかない。下級貴族とはいえ、これでは部屋に合わせた装いを学べないのではないかと心配になる。
やっぱり魚だった。我が国では貴重品なのだが、やはり食べ慣れている肉のほうが美味しい気がする。もっというと先輩の作っている煮詰めすぎの感もあるスープをいただきたい気もする。
それよりも先輩とおしゃべりしたい気もする。先輩、今頃何を食べているのだろう。
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