喧騒そののち


 戦いの余韻が街の空気にじわりと溶けていく。倒れた盗賊たちのうめき声が微かに響き、火の粉がまだ舞っている。戦いに駆けつけた冒険者たちが剣を収め、瓦礫を片付けながら互いの無事を確かめていた。


 そんな中、ヤジュンはふてくされたように腕を組んでいた。その目の前にはトリマ。表情こそ穏やかだが、その視線には明確な叱責の色がある。

 ヤジュンは目を逸らし、斧を乱暴に肩に担ぐ。トリマはため息をつき、短く何かを告げた。ヤジュンはわずかに口を尖らせながらも、渋々頷く。


 「では、一度教会に戻りましょう。」


 トリマが静かに提案する。その言葉にネメシアが頷こうとした、その時だった。


 「おい、そこのお前さんたち。」


 低く、よく通る声が背後から響いた。ネメシアは足を止め、振り返る。


 そこに立っていたのは、一際大柄な男だった。肩幅は広く、鍛え抜かれた体躯は街の荒くれ者たちとは別種の風格を持っている。右目には深い傷跡が走り、眼帯をつけている。隻眼ではあるが、その視線は鋭く、隠しきれない威圧感があった。


 ネメシアは一歩前に出る。男はゆっくりと近づきながら、口元をゆるめた。


 「このたびの応援、助かった。お前さんたちがいなかったら、正門は突破されていたかもしれねぇ。」


 礼を言うと同時に、男の視線はネメシア、チロクミ、そしてヤジュンを順番に見やる。最後にトリマへと目を移し、短く息を吐いた。


 「……で、事情を聞かせてもらえるか?」


 その声は、ただの恩人に向けるものではなかった。街を治める者として、この混乱の真相を把握しようとする意志がそこにあった。


 周囲の冒険者たちがちらりとこちらを伺いながらも、黙って後処理に取り掛かっている。男の存在が、それだけこの街では特別なのだろう。


 低く、若干威圧感のある声での問いに対し、ネメシアは一拍置いてから、小さく息をついた。


 「私たちは、偶然この街を訪れました。その途中で、追われているキャラバンと遭遇し、彼らを助ける形で戦いに巻き込まれました。」


 淡々と説明する彼女の言葉に、ギルドマスターは動じることなく頷く。


 「ふむ、なるほどな……。それで、盗賊どもを撃退して街までたどり着いたってわけか。」


 ネメシアは視線を逸らさずに言葉を継ぐ。


 「正確には、追っ手を振り切ろうとしましたが、増援を引き連れて街への侵攻を試みた……というのが経緯です。」


 ギルドマスターは静かに顎を撫でた。彼の目はネメシアの後方――ヤジュンへと移る。小柄な体格ながら、肩に担がれた巨大な大斧は、彼女がただの旅人ではないことを如実に物語っていた。


 「嬢ちゃん。ヤジュンだっけか?」


 「途中で合流しました。彼女がいなければ防衛戦は崩壊してたでしょうね。」


 ネメシアがそう答えると、ギルドマスターは低く唸った。ヤジュンは腕を組んだまま、誇らしげに胸を張る。


 「そうでちょ!あたち、がんばった!」


 だが、その言葉にギルドマスターの口元が緩んだ。表情を読んだトリマが、一歩前に出る。


 「マスター、もういいでしょう?私が保証します」


一瞬の沈黙が流れる。



 「……お前が言うなら、そういうことにしておく。」



 短くそう言うと、ギルドマスターは肩をすくめた。


 「とにかくありがとな、助かったぜ。また落ち着いたら話を聞かせてくれ。」


 そう言って、彼は背を向け立ち去った。ネメシアたちは、彼の後に続きながら、燃え残る街の風景を振り返った。


「なんで、みんな争うんだろう?」


ネメシアの呟きが夕闇に溶けていく。

チロクミは黙ってその顔を見上げていた。

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閃光と漆黒のシンフォニー 吹田珈琲創作部 @shachikurobo

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