ぬりかべの、お正月!

崔 梨遙(再)

1話完結:900字

 ぬりかべは新婚さんだ。嫁は渚。渚は大工で壁が好き。ぬりかべは渚のストライクゾーンのど真ん中だった。出会いは妖怪と人間を結ぶ出会い系サイトだった。


 ぬりかべは働き者だった。壁の必要な所に呼ばれた。例えば、応接室のセパレーターになったり、土木作業で隣家を汚したくないときに壁となって隣家を守った。


 渚は大工。共働きだったので裕福な家庭を築くことが出来た。


 そんなぬりかべも渚も、年末年始は休んだ。一緒に正月を祝った。夫婦として迎える初めての正月だった。普通に大晦日に蕎麦を食べて、普通に雑煮やおせち料理を食べる、普通の正月だった。


「渚、すまない。俺が壁だから初詣に行けなくて」

「壁が人混みに現れたら、流石にみんな驚くでしょうから、いいのよ」

「まあ、通勤で出歩いているんだけどな」

「ゆっくりしましょうよ、お正月くらい」

「渚がそう言うなら、俺はそれでいいけど」

「ベッドに行きましょうよ、今年初めての“営み”よ」

「ああ、それはいいな」


 営みが終わり、寝物語。


「でも、渚の両親が俺との結婚を許してくれたのは嬉しかったなぁ」

「ウチは、自分の意見を尊重する親だから。私が“惚れた”って言えば反対されないわよ。あなたと結婚して良かったと思ってるし」

「ありがとう、渚。あ、渚にお年玉を渡そうと思っていたんだ」

「何? お年玉って」

「え! 気持ちだけだけどお金」

「お金のお年玉なんていらないわよ。それに、私達はお年玉をもらってるのよ」

「俺達にお年玉? それってなんだい?」

「赤ちゃんができたの!」

「マジか? それは嬉しいなぁ」

「でしょう? 子供の名前、一緒に考えようね」

「うん、考えよう。子供の名前を考えるのは楽しそうだ」

「あ! 重大なことに気付いてしまったわ」

「何? 重大なことって?」

「壁が産まれて来たらどうしよう? 壁の赤ちゃんって想像出来ない。壁の赤ちゃん、私達、上手く育てられるかな? すごく不安」

「大丈夫、壁と人間のハーフだから、半分壁で半分人間の子が産まれるよ」



「半分壁で半分人間って何? もっと不安なんだけどー!」







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ぬりかべの、お正月! 崔 梨遙(再) @sairiyousai

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