第2話 カフェ・リフレインとおじいさん

「いらっしゃいませ。」

常連客のエレナとアリスがやってくる。


「あれ?砂時計あるね? 新しく買ったの?」

「あと猫もいますね~。」

「そうなんです。先日、斯々然々ありまして、どうやら猫が懐いちゃったみたいで。」


今回あった出来事をエレナとアリスに話していると、新しい客がやってきた。

「こんにちは。」

その客はゆっくりとした口調でしゃべる。


「いらっしゃいませ、、、って、あの時の!」

「あの夜出会ったおじい様ですよね!」

おじいさんは少し悩んだ後、ひらめいたかのように口を開く。

「ああ、あの時の! どうだったかの? 子どもは見つかったかい?」

「おかげさまで!」

「おお、それは良かったのお。」


おじいさんはこのお店の定番を、と言い、コーヒーを頼んだ。


ルイが体調を崩し休んでいるので、ミレイが忙しくコーヒーを注いでいると、エレナとアリスの雑談が聞こえてくる。

「最近読んだ本でね、パラレルワールドのことについて書いてあったんだよ。」

エレナが続けて話す。

「それが興味深くてさ、パラレルワールドってどの世界にもあるんだって!」

「てことは、この世界にもあるのかな!」


「え、、、あ、うん、あると思うよ!、、、」


「私も聞いたことありますね。何でもパラレルワールドは、一つ違うだけで無数に結末が変わるらしいですね。」

ミレイが話に加わる。


「そうそう、それも本に書いてあったぞ!」

エレナが言う。

「私がこの猫に出会っていなければ、今ここにこの子はいないですしね。」


そんな話をしていると、聞き耳を立てていたのか、おじいさんが近づいてきた。

「パラレルワールドの話をしておるのか?」

「はい、そうですけど、、、」

ミレイが答える。


「パラレルワールドは実際にあるぞ。」

「「「!?」」」

一同が強い確信を含む急な発言に驚く。


構わずおじいさんが続けて喋る。

「わしは昔、冒険者だった。正しくは未来と言ったほうがいいかのう。」

「そこでわしは、仲間を裏切ってしまったのじゃ。」

「わしは金遣いが荒く、何度も仲間からお金を借りていた。しかし、いくら経っても返さないわしに仲間の一人がしびれを切らした。わしらは口論になった。その結末として、わしはそいつを殺してしまった。強い憎悪を抱いていただろう。」

「当然ながら、わしは残りの仲間に殺されかけた。手足は切り落とされ、最後に首がはねられそうになった。その後の記憶はなく、わしは死んだと思っていた。」

「じゃが、わしは再び目が覚めた。窓の外をみると、まだ冒険者になる前に見ていた風景があった。」

「そこで確信したんじゃ。過去に戻されていると。」


少女たちは目を丸くして聞いていた。

それが本当かは言葉ではわからないが、妙にリアリティーがある言葉遣いと真に迫るその語り口。

この二つが少女たちを話に惹きつけた。


「じゃから、この世界を探せば、若かりしわしに出会うかもしれんのう。」


「え、じゃあおじいさんは未来人ってこと!?」

エレナが質問する。

「君らから見れば、そういうことになるかのう。」

「未来からこの世界にやってきた。じゃから、実際には君等のほうが年上なんじゃぞ。」


さらにエレナが質問する。

「けど、どうして過去に戻されているとわかったんだ? ここが死後の世界の可能性だってあるじゃないか。」


「わしも出会ったことがあるんじゃよ、未来からやってきたというやつに。」

「その時は信用していなかったが、いざ自分が体感すると信じ難いことも信じてしまう。」


「なるほどなあ、他にもいるんだな。」


「パラレルワールドは互いに干渉しあい、そしてまた新たな時間軸が生まれる。」

「じゃから、わしがいた未来はもう来ないかもしれん。」


「未来から来た人も未来は分からないんですね、、、」

ミレイが反応する。


「まあ、ここまでずらずらと話してきたが、これらはあくまでそれらしいことが起きたからそう思っているだけじゃ。実際はお前さんの言う通り、死後の世界かもしれん。」

そうエレナに目をやりながら話す。


「まあ、この世の仕組みなんて誰も知り得ないもんな。」

と、少女たちがうなづいていると、おじいさんに異変が起こる。

「ッ!、、、」

急におじいさんは心臓辺りに手を当て始めた。


「おじいさん?、、、」「おじい様?、、、」

ミレイとエレナが心配する。


「あははは、、、失礼。ちょっと長く喋りすぎたかのう。わしは疲れたんで帰らせてもらう。」

おじいさんは何かを隠すかのように急いで店を出ていった。


「大丈夫ですかね?、、、」


と、ここでエレナが気づく。

「アリス? アリスもどこか具合が悪いのか?」

アリスはずっと俯き、震えていた。

隙間から見える表情には冷や汗を浮かべていた。


「、、、え、、、あぁ、わたしも、、、少し体調が悪いので、、、帰らせてもらおうかしら、、、」

そう言い、アリスは震える足を抑えながら店を後にした。


「なんだか体調崩す人が多いな、、、心配だ。」

「ですね、なにか病気でも流行っているのでしょうか、、、」


「ボクもアリスのことが心配だ。お暇させてもらう。」

「分かりました。またのお越しをお待ちしていますよ。」

エレナは急いで店を後にした。

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