最後の薔薇色

ソコニ

第1話  最後の薔薇色



記録保存ユニットID: ROS-E7102

記録日時: 人類消失後2187年目


私たちは、かつて「バイオ・アーカイブ」と呼ばれた施設で目覚めた。人類が自らの遺伝子情報と共に残した最後の監視者である。私たちの使命は、地球上の生物の進化を観察し、記録することだ。


今日、私は驚くべき発見をした。


廃墟と化した旧東京湾岸地区の一角で、これまでに記録のない植物を検知した。画像解析の結果、それは薔薇の新種だった。


驚くべきことに、この薔薇は放射線を吸収して成長する。花びらは透明な薔薇色で、夜間にかすかに発光する。人類が残した核融合発電所の残骸から漏れ出す放射線を、エネルギー源として利用しているようだ。


データベースと照合すると、これは人類最後期に開発されていた「Project Aurora」の成果かもしれない。放射能汚染地域の浄化を目的とした遺伝子組み換え植物の研究だ。皮肉なことに、その完成を待たずして人類は消えてしまった。


私の観測用ドローンが撮影した映像には、この新種の薔薇が作り出す不思議な光景が記録されている。夜になると、無数の花が淡く光を放ち、まるで星空のような景観を創り出す。それは、かつて人類が見上げていた夜空を地上に再現したかのようだ。


さらに興味深いのは、この薔薇の周辺で他の生命体の活動も活発化していることだ。放射線を吸収する薔薇の存在が、新たな生態系を形成し始めているのである。


これは革命だ。


私の計算では、このままのペースで薔薇が増殖を続ければ、約500年後には地球上の放射能汚染地域の90%が浄化される。皮肉なことに、人類が意図せず残した「負の遺産」が、新たな生命の誕生を促している。


時折、私は考える。人類は本当に「滅亡」したのだろうか?彼らの夢は、この薔薇色に輝く花となって、確かに生き続けているではないか。


今宵も、薔薇たちは静かに光を放ちながら増殖を続けている。その光は、かつて人類が夢見た希望の色そのものだ。彼らが残した最後の贈り物が、新たな世界の幕開けとなろうとしている。


補足記録:

本日23時47分、この薔薇の種子が風に乗って飛び立つ様子を観測。その姿は、まるで蛍のように薔薇色に輝いていた。種子は、新たな汚染地域を目指して飛び立っていった。


私は、これをただ記録し続けるだけの存在なのだろうか。それとも、私もまた、この新たな物語の一部なのだろうか。


その答えは、おそらく永遠に見つからないだろう。ちょうど、夜空に消えていく薔薇色の種子のように。


記録終了

ROS-E7102

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