第18話 風邪を引くと、みんな頭がおかしくなる。
元カレ、つまり今は違う、ということか。
「他に、何か情報は?」
「あるけど、そこから先は本人から聞いた方がいいと思うよ?」
「
「だったら尚更じゃない、ああ見えて繊細な子なんだからね? アンタが傷つけちゃダメでしょうに」
猫屋敷さん、本当に
それと同時に、彼女がここまでしてくれることに、若干の疑問もあったりする。
「不合格、だったんだよね?」
「何が? ……ああ、有馬の評価ね。それは変わってないわよ? むしろ悪くなってる」
「そうなの?」
「当然でしょ?」
猫屋敷さんは人差し指を僕の胸にぐっと押し付けた。
「男の影が見えたら諦めるとか、どんだけ物分かりがいいのよ。いい? 最近は略奪婚が当たり前なんだからね? 男の一人や二人、彼女の評価が高ければ高いほど当然のように湧いて出てくるのよ。アンタが狙ってるのは
何度も胸を突つかれ、めちゃくちゃに言われてしまった。
これは確かに、評価が下がるのも納得だ。
「それでも、私の中では合格だけどね」
「……それって、気休めで言ってくれているの?」
「どうだと思う? 意外と本気かもよ?」
猫屋敷さん、天邪鬼だからな。
この人の本心だけは、全然わからないや。
「さてと、そろそろ私も寝ようかな」
「寝るって、どこで?」
「ここにベッドがあるじゃない」
「いやいや、風邪が
「大丈夫よ、この距離なんだもん、
「そういう問題じゃ……あ、もう、勝手に布団の中に入る」
「おやすみ。私、三食昼寝付きの専業主婦が夢だから、頑張って稼いでね」
専業主婦が夢って、今の時代じゃ相当に難しいだろうに。
というか、本気で寝るつもり? 僕のベッドシングルサイズなのに?
「寝て起きて、叫んだりしないでね」
「……zzz」
「本当に寝たのかよ」
しょうがない、僕も薬飲んで寝るか。
寝る前に体温測定。
三十七度か、次の学校からは普通に通えそうだな。
隣に猫屋敷さんがいるけど……ダメだ、眠い。寝よう。
「……」
普通なら、隣に異性がいる状態で寝るなんてこと、不可能に近かったと思う。
相手が猫屋敷さんだったからかな、なぜだか逆に、安心して寝入ることが出来た。
何かのサービスに〝添い寝〟があるらしいけど、これは確かに需要があるのかもしれない。
一人で寝る時よりも断然眠りが違う、それこそ、もう一人が隣にいても気づかないぐらいに。
「……」
……。
……ん?
なんだか、密着されている気がする。
僕の右側にいたはずの猫屋敷さんが、左側に来ているのか?
まぶたをうっすらと開けると、猫屋敷さんのツインテールが右側にあった。
彼女も本当に寝ているらしい。人の家に来て寝るとか、どんだけ寝不足なんだか。
もしかして僕が心配で夜も眠れなかった、なんてことがあるはずないか。
「……」
ん? となると、左から感じる人肌は、一体誰のものだ?
パジャマ越しに女性特有の柔らかさを感じることが出来る。
主に肘辺りと、手の甲がやたらと温かいし柔らかい。
右に向けていた顔を、くるりと左側に向けてみた。
「おはよう」
浴内さんがいた。
頭の中がパニックを通り越して、逆に冷静になった。
浴内さんが、なぜ僕と一緒の布団で横になっているのだろうか。
小難しいことを考えようと思ったが、まぁ、浴内さんならありえることかと、一人納得した。
「おはようございます」
「どうして、なんていう疑問は不要よ、有馬君」
凛とした瞳のまま、浴内さんは語る。
「私は有馬君の友達だから。風邪を引いた有馬君と同じ風邪を引きたくて、ひとつの布団に入るなんて行為はとても自然なことなの。こうして可能な限り有馬君が吐いた息を全て吸い込んで、貴方の風邪が私に感染るようにすることだって、とても自然な行為なのよ」
「まさか浴内さん、僕が寝てる間にキスとかした?」
「それはしてないわ、許可されていないもの」
「そうか、それならいいんだけど」
許可制なのかよ、いや、許可したらどうなるの?
最近浴内さんの思考回路が、ある意味良くない方向に傾いていっている気がする。
何にしても映画館の再来、だからかな、この状況に慣れてきている自分がいた。
「喉が渇いたから、飲み物飲もうかな」
窓の外は既に夕焼けだ。
浴内さんは文化祭を終えてから家に来た感じかな。
部屋の電気を点けて、そろそろ猫屋敷さんにも帰って頂かないと。
よいしょと身体を起こして、左手に絡まる浴内さんを見た。
布団をめくると、やたらと肌色めいた肢体が目に飛び込んできた。
浴内さんは裸だった。
とても宜しくない裸体を、僕の真横で見せつけてきている。
「……」
下着の一枚すら着用せずに、浴内さんは僕の横で寝ていたというのか。
左手が彼女の股に挟まれていて、抜け出せそうにない。
柔らかいのに硬い、というか、手の場所がいろいろと不味い気がする。
「聞いてもいい?」
「どうぞ?」
「なんで、裸なのかな?」
「寒い時には裸になって、身体を密着させるのが一番でしょ?」
それは雪山遭難の時、限定かな。
今は自宅、更には布団の中だ。
裸である必要はない。
「それにしても、綺麗に残ったもんだね」
横たわった浴内さんの、たわわに育ったおっぱいをひともみ。
とても柔らかくて、手がどこまでも沈んでいく。
手のひらに乗せることも出来る。
ふよふよで気持ちいい。
「何カップなの、これ」
「有馬君、人のおっぱいをコレ呼ばわりするのはどうかと思う。まぁ確かに、私の場合もともとあった脂肪がそのまま残っただけだから、他の女の子よりもおっぱいの価値は低いのかもしれないけれど。ちなみにDよ。残念なことにダイエット前と比べてもほとんど差異がないわ」
「Dカップか、凄いね」
「ありがとう、有馬君以外の人には触らせないから、安心してね」
数多の人が女性のおっぱいに夢中になるのが分かる気がする。
これは一生揉んでいたい。柔らかくて、何に例えていいのかすら迷うぐらいに、柔らかい。
もみもみ、ふよふよ、もみもみ、ふよふよ。
浴内さんのおっぱいを揉んでいると、ふと、背後から視線を感じた。
「有馬」
「あ、猫屋敷さん、おはよう」
「うん、おはよう。とりあえず一回殴ってもいい?」
握りこぶしを僕の頬に叩き込んだ後、彼女は笑顔でそういった。
「殴った後に許可を取る、ある意味基本に忠実な行動ね」
「どうもありがとう。ていうか、アンタもいい加減服着たら?」
「せっかく有馬君が私のおっぱいを揉んでくれているのに? 着る訳ないじゃない」
「どうしてそんな正論染みた感じに物事が喋れるのか理解出来ないけど、一般常識的におっぱいを揉ませるって異常行為だからね? しかも勝手に布団に入って眠るとか、不法侵入もいいところじゃない」
思いっきりブーメランな気がするが、とりあえず僕は浴内さんのおっぱいを揉んでおこう。
「それに、おっぱいを揉ませて喜ぶとか、変態極まりないわね」
「そう? じゃあ聞くけど、猫屋敷さん、有馬君の布団で横になって、わぁ、有馬君の匂いでいっぱいだ、幸せだって思わなかった? 身体全体が彼の匂いに包まれて、隣に有馬君を感じて、そのまま一人で楽しいことを
「そ、そんなはずないでしょ!? 大体なによそのクイズ!」
「じゃあ見せてみてよ。下が洪水じゃない証拠に、猫屋敷さんが穿いてる可愛い黄色いショーツを実際に見せてみなさいよ。それが濡れて無かったら貴女の言うことが正しいって認めてあげる。可愛いリボンがついた黄色くて動物の柄が入ったZOOって書かれた下着を見せてみなさいよ」
「ア、アンタ、寝てる私の下着を勝手に覗き見したわね!?」
「覗き見した? ええ、私が部屋に入るなり寝返りを打って、右足をあろうことか有馬君に乗せていたから、それをどかすタイミングでマジマジと観察させて貰ったわよ? 色合いから匂いに関してまで、一センチという至近距離でじっくりと観察させて貰ったわよ? 当然じゃない? 私の親愛なる友達である有馬君の部屋に上がらせて貰ったら、見知った女が有馬君と一つの布団で寝ているんですもの、貞操の確認をするのは当然の行為だとは思わないの?」
「それは、そうかもしれないけど!」
「まぁそれで、二人の間に既成事実は無かったと判断し、こっそり私と有馬君とで既成事実を作ろうとしていたのだけど。さすがに彼の判断なしに処女童貞喪失はどうかと思ってね。それで裸になって布団に入り、彼の肉体を甘受していたということなのだけれど。どうしたの有馬君?」
なんとなしに挙手。
「あの、さっきの問題の答えは?」
「アンタは知らなくていいの! 寝てなさい!」
ゴッ! て、猫屋敷さんに思いっきり後頭部を殴られた。
相手の後頭部を殴る行為を、ボクシングではラビットパンチというらしい。
ラビットパンチは可愛らしい名前だけど、ボクシングにおける反則行為だ。
意識を失う前に、聞いておきたかった。
猫屋敷さん、僕の横でアンタ一体、何をしていたのさ。
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