魔王に拐われた姫は自力で帰る

小春凪なな

それはプリンの為に


「んん?………ここは何処かしら?」


 ロズンド王国の姫に産まれ、蝶よ花よと育てられた私はオヤツの前にお昼寝をしていた。………筈だったのだが。


 目覚めると暗くてジメジメしていてなんかカビ臭い部屋の固いベッドに寝ていた。


「誰か!誰かいないの?」


 幼い時から一緒にいた侍女を呼ぶが、来ない。そもそも誰も来ない。

 城であったらあり得ないことだ。そもそも姫である私をこんな所に寝かす者はいない。それで状況を理解した。


「…拐われた。ということね」


 だとすると、今それをする勢力はただ1つ。そこまで考えたところで大きな音が響いた。


「ヒメはオキタかなぁ?」

「マダかなぁ?」


 ペタペタと歩いて来た双子の魔族が姫を入れた牢屋を見る。


「スー、スー」


 そこには穏やかに寝息をたてて寝ている姫がいた。


「マダだねぇ」

「オキテないねぇ」


 双子の魔族は顔を見合わせると頷いて帰ろうと踵を返す。


「…んんっ、むぅー」


 その瞬間、姫が身動ぎした。双子の魔族は足を止めて暫し顔を見合わせる。


「オキソウだねぇ」

「オコソウかぁ」


 双子の魔族は姫が起きた時に自分達を見た反応を想像してクスクス笑いながら牢屋の錠を解いた。

 ギギィと錆び付いた扉が開かれる。


「ッツ!!」


 それを待っていた姫はカッと目を開くと俊敏な動きで僅かに開いた扉の隙間からスルリと出た。


「エッ!?ヒメ、オキテル!」

「ダッソウだ!シラセナキャ!」


 慌てる双子の魔族に姫はニッコリと笑いかける。


「それは困りますわ。…でも、このまま魔王城にいるのも困りますの………ハァッ!」


 姫がクルリとターンする。ブワッと膨らんだドレスが落ち着くと、双子の魔族は気絶していた。

 冷めた眼で魔族が気絶したことを確認した姫は冷静に考える。


「……やはり拐われたからには、数日、いえ数ヶ月以上はこの城に閉じ込められるのでしょう。でも、それでは、それでは……ッ!」


 肩を震わせ、宝石と呼ばれた紫がかった青色の瞳を伏せた姫は、叫ぶ。





「それでは今日のオヤツに用意して貰った『朝採れ卵の特製プリン~季節の果物を添えて~』が食べられないじゃないッ!」




 誰もいない(気絶した魔族以外)空間に姫の悲痛(?)な悲鳴が響いた。


「って、そもそも今は何時なの!?もしも夜になっていたら…いえ、大丈夫よ。そうしたら夕食のデザートに追加して貰えば良いもの。だってそうよね。魔王城から帰るのだもの。追加くらいしてもらえるわよね」


 そうと決まれば一刻も早く国に帰らなくては、と思った姫だったが魔王城の間取りは知らない。初めて来たお家だから。


 迷って帰る時間が遅れても困る。キョロキョロした姫の視界にちょうど良く転がっている魔族がいた。


「……きて………おきて…………起きて!!」

「ハッ!ボクはナニを…」

「ヒメがダッソウして………」


 誰かの声で起こされた双子の魔族は痛む体を起こして気絶する直前の記憶を思い出す。


「「エッ、ヒメ?」」


 そうして起こしたヒトがヒメであることに気が付いた。

 ビックリしている双子の魔族に見つめられた姫は美しく微笑む。


「そうよ。私が姫よ。貴方達、私に負けたのだから私のお願いを1つ聞いてね?」

「ウン、ワカッタ。マゾクのオキテだから」

「ショウシャのノゾミはキクルールだから」


 魔族は実力が全てだ。その最たる掟の1つに勝者は敗者に何でも1つ望めるというものがある。勝者に望まれたら敗者は必ず守らなければいけない。

 例え、自分の命を望まれようとも。


 そんな掟に基づいて素直に頷いた双子の魔族に姫は満足そうに頷くと望みを伝えた。


「うんうん。そうよね。私のお願いはね今すぐに私が住んでいたお城に帰りたいの、何か良い方法を知らない?」

「「ウーン」」


 お願いを伝えると双子の魔族は相談を始めた。


「……アルヨ!」

「イイ方法!」


 その言葉を信じて姫は牢屋の外に出た。



 ◇◇◇



 ロズンド王国の王城の、とある貴人の部屋の窓が吹き飛んだ。


「姫様ぁ!」


 それはロズンド王国国王の唯一の娘にして、ダイヤモンドプリンセスの異名を持つ姫の部屋だった。

 侍女の悲痛な声が響く中、空中に浮いた魔族が高笑いする。


「ハハハッ!ロズンド王国の至宝たる姫は我、魔王の手中にある!王に伝えよ!姫を返してほしくば『勇者』の首を持ってこいと!」


 魔王の目の前には魔法で浮いた姫が眠っていた。

 眠っていても分かる程に美しい顔立ちの姫は、異名の由来の1つであるプラチナブロンドがキラキラと光を反射している。今は閉じられて見えないが瞼の下には紫がかった青色の、これまた宝石のように美しい瞳がある。

 姫は顔立ちだけではない。身体だって出るところは出て、引っ込むところは引っ込んだ理想的な身体をしている。その身体に誰もが憧れ、国中の女性が姫を目標としているのだ。

 勉学も国の姫として優秀な成績を修めている。何れは他国へ嫁ぐ可能性も考えて語学は堪能だ。

 だが、そんな姫様は今魔王が張った音も魔法効果も弾く結界に覆われている。


 今、起きることはないだろう。


「そんな………姫様………」


 そんなことを荒れ狂う暴風が吹き付けるバルコニーで思った侍女は絶望的な顔をして泣き崩れた。


 魔王は少し片眉を上げたが、横から飛んできた城の魔法使いが放った魔法を防ぐ。お返しに放った魔法は城の塔の1つに飛び、激しく爆発して崩れた。

 その爆発した塔から人影が飛び出ると魔王の前まで飛んで来る。


「…流石、魔族最強たる魔王ですのぉ。じゃが退くわけにはいかない…姫様を返して貰おう」

「おや、先ほど城全体に聞こえるように言った筈だが?『勇者』の首を持ってこい。姫を返すのはそれからだ」

「そうか。………今ならまだ間に合う!今すぐ姫様を取り戻せ!」

「…虫がウジャウジャと………邪魔だ!!」


 老魔法使いが叫ぶと各所から兵士が現れる。あっという間に囲まれた魔王は不快感を露にして叫ぶと魔力の波動を放った。

 通常なら威圧感を与える程度の波動は、魔王の暴力的な量の魔力によって物理的な破壊をもたらした。

 老魔法使いも兵士もバルコニーにいた侍女も吹き飛ばされる。


「…姫、さまぁッ!どうか、どうか………」


 泣いて祈る侍女は言葉を言い切る前に気絶した。他の者も殆どが気絶している。辛うじて意識がある者が数名いる程度だ。


「…約束を違えたら姫は永遠に戻らないと思え」


 倒れる人々を傲慢に見下した魔王は一言告げると忽然と姿を消した。




「…か………陛下?如何なさいましたか?」

「イヤ、少しヒメを拐った時を思い出していただけだ」

「左様でございますか」


 魔王城、王の間にて玉座に座った魔族は傍らに立つ魔族と会話をしていた。


「だが流石、参謀が立てた作戦だ。奴らは今頃可愛い姫の為に、人類の希望を殺そうとしているだろう」

「イエイエ、魔王様のみが扱える転移魔法があってこその作戦でございます」


 極寒である北の大地、その更に奥地に魔王城はある。大昔に犯した大罪への罰として魔族はこの場で暮らすことを決められている。だがこんな場所に追いやった程度で諦めはしない。

 玉座に座る魔族、魔王は冷酷に笑った。


「姫を溺愛する王家が勇者の首を届けてくれるのが楽しみだ」

「それまで姫はあの牢屋に監禁しておきますか?」

「そうだな。誰にも手出し無用と言っておけ。…まぁ我々の姿を見たら手出しせずとも姫は泣き叫ぶだろうが」

「そうですなぁ。………ム?何だか騒がしいですね?」

「…そうだな」


 城が騒がしくなっていることに気が付いた。バタバタと足音がしたかと思えば扉が開かれ、息切れした兵士が声を上げた。


「シッ!シツレイシマス!ホウコクデス!」

「落ち着け。深呼吸して端的に伝えるんだ」

「ハ、ハイ!………報告シマス!拐った姫ガ脱走!王城内ヲ暴れ回ってイマス!」

「「・・・・・」」


 魔王と参謀は訳がわからなくて声もあげられなかった。



 ◇◇◇



「ギャアアァァァァ!」

「ウワァァァァ!!」


 悲鳴が木霊し、爆発が絶えず焦げ臭い通路で王城で働く多くの人々が逃げ惑っていた。


「イ、イイカ!少しデモ時間を稼ぐんだ!必ず幹部がキテ何とかして下さる!」

『「「「「ハイ!」」」」』


 決死の覚悟で己と部下を鼓舞した小隊長は武器を振り上げ、雄叫びを上げて恐怖を誤魔化しながら奥から現れた敵へ突撃した。


「覚悟シロ!ヒメー!グハァ!?」


 小隊長の決死の特攻は姫の腕の一振りによってあっさりと終わり、小隊長は壁にめり込む。

 呆然と立ち尽くす小隊長の部下を無視した姫は道案内人の双子の魔族へ振り向いた。


「…本当にこの方向であっているの?」

「モチロン!」

「コッチがイチバンチカミチ!」


 元気よく答えた双子の魔族は姫の片手をそれぞれ握ると引っ張って道案内を再開した。


「なら良いんだけど…」


 何かドンドン魔族が出て来る上に強い者が増えている気がするが、広い城で単独行動をして迷ってプリンを逃すのも嫌なので双子の魔族を信じることにして大人しく引っ張られた。


 ◇◇◇


「ココからサキはワナタクサン!」

「ヨケラレナイヤツはジャクシャ!!」


 階段を上がって直ぐに双子の魔族は振り返ると通路を指差した。

 確かに言葉の通り、幾つか罠があるのがわかる。私がわからない罠も沢山あるのだろう。


「ドレスが夜会用の物でしたらボロボロになっていたことでしょうね」


 軽く準備運動をして駆け出す。


 カチッと音が鳴り、足下の床が抜けて鋭い槍が敷き詰められた地面が見えるが既に跳んだ後だ。着地すると無数の矢が飛び、炎が吹き出し、毒が充満しても踊るようにヒラヒラと動き前へ進む。


 最後の罠も避けて着地する。顔を上げると双子の魔族が拍手をしていた。



 ◇◇◇



「イマ3カイ!」

「モウちょっと!」


 もう少しの言葉に気合いを入れ直す。急に飛び出して来た魔族を殴り飛ばしたくらいはあったがそれ以上の問題はない。


 因みに急に飛び出して来た魔族は通路のも上も横もギリギリのデカイ魔族だった。


『我は魔王様の右腕にして軍隊長のグハァ!』


 だからなのか単純に強い魔族だったのか、蹴っても思ったより飛ばなくて通路の先、ちょうど曲がるところに転がってしまい邪魔だった。

 双子の魔族も邪魔だと思ったらしく、踏みつけて先に進んだ。


 それから通路の邪魔にならないように先回りして倒した。やはり魔王城と言うべきか、通路の邪魔と同じく固い者が3名程いた。


 きっと出て来てから倒したら通路の邪魔の再来になっていただろう…。


「ツイタヨ!」

「モクテキチ!」


 そう思いながら走っていたら遂に目的地に着いたようだ。

 ちゃんと案内しているのかと不安になっていたが着いたことに安心する。


「ありがとう案内してくれて。このお礼は必ずするわ」

「ウン!ヒメからのお礼タノシミ!」

「ボク達キラキラ好き!」

「ふふっ、ならキラキラをお礼に持ってこなくちゃね」


 短い冒険を共にした仲間に姫は笑いかけると重厚でいて禍々しい扉を開ける。


「「ヒメ!キヲツケテねぇ!」」


 扉が閉まる直前、双子の魔族の声援が聞こえた。




「…ほぅ。まさか本当にここまで来てしまうとはな」


 中はまるで王の間のようだった。贅を尽くしたきらびやかな部屋の1番奥は高くなっており、玉座のような椅子に座る魔族と傍らに立つ魔族がいた。


「私は今すぐ帰りたいのです。ここに行けば帰れると聞いたのですが………」

「それを魔王たる我が許す訳もなかろう!」

「エッ、マオウ?」

「そうだ!誰に聞いたか知らないが、態々我のいる場所に案内してくれるとは…忠義の高い者もいたものよ」

「ッ!?」


 バッ!と焦ったように振り向いた姫に魔王は満足気な表情をする。


「…では、姫よ。牢屋に帰って貰おう。今度は逃げられないように拘束させて貰うがな」


 そのまま拘束の魔法を姫に向かって使用した魔王だったがその魔法は空を切った。


「ナッ!?」

「………そうですか。帰して貰えませんか。へぇ、そうですか。なるほどなるほど」


 驚いた魔王へ顔を上げて微笑んだ姫に何故か悪寒が走る。


「ッ!ワ我を倒せるのは勇者だけだ!そういう掟ダ!お前に我はタオセナイ!」


 まるで竜の逆鱗に触れてしまったような。そんな不安に襲われる。


「倒す必要はありません。……要は私を帰したくさせれば良いだけなのですから。ええ。簡単なことです。ふふっ」


 可憐に笑う姫から距離を取りたいと思うが動いたら殺されるとも感じて結局玉座に座ったまま、魔王は動けなかった。

 一瞬でも目を離してはいけないとヒメを凝視していたが姿が消え、目の前に現れる。


「さぁ、しっかり歯を食い縛れよ」


 細められた姫の瞳は美しく輝いていた。


 数分間、魔王の悲鳴が魔王城に響き渡った。


「ヒメ~?終わったぁ?」

「ヒメ~?どうかしたのぉ?」


 魔王の間の扉を開くと双子の魔族といつの間に来ていたのか、気絶している数十名の魔族がいた。


「ええ終わったわ。それで1つ聞きたいのだけど…」

「「ナァニ?」」

「貴方達はどうして私を魔王の元まで連れてきたのかしら?」


 気絶している魔族の上から降りて来た双子の魔族に訪ねると首を傾げて顔を見合わせる。


「ンー、ヒメのクニ遠い」

「帰るのタイヘン」

「「デモ魔王様ならイッシュン!」」


 説明は端的だったが、双子の魔族は姫のお願いを真剣に考えた結界、魔王が適任だと考えただけなのだとわかった。


「なるほど、私のことを考えてくれていたのね。ありがとう」

「エヘヘ、偉い?」

「エヘヘ、凄い?」


 褒めると喜んでいる双子の魔族。その姿に姫は少しの罪悪感を抱く。


「…貴方達に謝らなくてはいけないことがあるの」

「アヤマル?」

「ドウシテ?」

「着いてきて、この中に入ったらわかるから」


 双子の魔族は首を傾げつつ、魔王の間に入った。


「………魔王をボコボコ、いえ説得していたのだけど、中々折れないからつい……やり過ぎちゃって」


 顔を赤くして告白したヒメの足下には見るも無残な肉塊、もとい魔王があった。ついでに隣に似たような肉塊、もとい参謀がいるが今回大事なのは魔王なので無視する。


「ジャア、ヒメ帰れない?」

「テンイ出来ない?」

「そうなのよね。それで相談したくて、魔王以外に転移魔法使える存在って…」

「イナイよ!」

「マオウだけ!」

「そっかー。だよねぇ…………困ったなぁ」


 自業自得でプリンを食べれる機会が遠退いた姫はガックリと項垂れる。


 このままでは間に合わない。もう夜ご飯の時間になってしまう!どうすればいい。魔王の土地は北の果て、私がいたロズンド王国からは2ヶ月はかかる距離だ。それなら急いでも1週間だろう全く間に合わない。

 いっそ空でも飛べたら良かったのだが私はそういう系統の魔法は才能がなく無理だ。


「………いや、行けるか?」

「ドウシタノ?」

「うんうん、きっと大丈夫」

「カンガエテルねぇ」


 ヒメの回りをクルクルしている双子の魔族だが、ヒメは反応しない。不思議そうに顔を覗きこんだ瞬間にヒメが顔を上げた。


「貴方達!教えて欲しいのだけど!」

「ナニをオシエレバいいの?」

「ナンデモコタエルよ!」


 魔族の掟では、まだお願いを叶えたとは言えない。双子の魔族は失敗を取り戻そうと張り切る。


「長距離を飛べるくらい頑丈で速い飛行魔物はいない?」

「「イルヨ!!」」


 双子の魔族は満面の笑みを浮かべて答えた。


 ◇◇◇


「ココだよ!」

「ヤマのウエにスンデルよ」


 双子の魔族が案内してくれた飛行魔物は魔王城を出て裏手に聳え立つ雪山の山頂にいるらしい。確かに即座に水が凍り付く環境に住んでいる魔物なら頑丈そうだ。

 速度も『ビューンってハヤサだよ!!』とのことなので大丈夫だ。


「もう時間がありませんし、さっさと登ってしまいましょう。貴方達、ちょっと」

「「ナァニ?」」


 双子の魔族を手招きして近寄ったところを抱き上げる。そのまま大地を踏みしめると高く跳躍した。


「はい。着いたよ」


 山頂が見えてきたので跳躍を止めて地面に降り立つ。


「ス、スゴイ!アッという間!」

「ピョンピョンピョーン!ってした!」


 人間にやったら絶叫必死の高速登山だが双子の魔族には好評だった。興奮している双子の魔族の手を繋いで山頂へ歩く。


 山頂に着くと雪で一面真っ白な景色の中に、1つだけ塗り潰したような黒がいた。


「ガハハッ!よくぞここまで辿り着いた!魔王すら超えし者よ!死の雪山を超えし者よ!その命、邪竜が喰らい、糧としてくれよう!」


 何か言っているが吹雪でよく聞こえないので双子の魔族に確認をとる。


「コレであってる?」

「アッテル!」

「ツヨクてハヤイ竜!」


 あっているようなのでさっさと倒そう。このままではプリンが危うい。


「チョッ!?邪竜を無視するナァ!?」


 身体全体が固そうな鱗に覆われている。間違いなく魔王よりも固いだろう。だが、お腹は柔らかそうだし関節も鱗は薄い。


「うるさいですわ。爬虫類」

「竜だ!それもいずれ神へと届くグハァ!」


 また失敗しないように手加減をしながら容赦なく爬虫類を殴って蹴る。


「………さて、これくらいやれば満足でしょう。さっさと私を背中に乗せて指示通りに飛びなさい」

「グッ!ダ、誰が貴様何かに………」

「また、鱗を採りましょうか?」

「ヒッ!イ、イエ、飛バサシテイタダキマス!」

「うんうん、宜しい」


 魔王も中々折れなかったように爬虫類も中々折れなかった。焦った私は苛立ち紛れに鱗を剥いだのだが、これが爬虫類の攻撃には良かったらしい。切られる痛み、殴られる痛みは慣れていても鱗を剥がれる痛みに慣れてなかったようだ。


 乗りやすいようになのか、ひれ伏してくれている親切な爬虫類の背中に乗る。ちょっと落ち着きがなかったので剥いだ鱗を割って背中の鱗に突き刺す。


「ギィヤアアァァァ!」

「コッチにこうして、ここに刺して、いやここよりもアッチが………」


 鱗を刺して抜いてを繰り返していると爬虫類がうるさかったが黙々と作業して満足のいく出来になった。


「よし!完成!」

「ヒメ~?カエル?」

「ヒメ~?バイバイ?」


 下で待つ双子の魔族が寂しそうに言うのを見て苦笑する。


「ううん。一緒に行きましょう?貴方達のお礼のキラキラを渡さなくちゃならないもの」

「ワァイ!イクー!」

「ヒメとイッショー!」


 さっきまでとは一転して嬉しそうに爬虫類の背中に乗った双子の魔族は私お手製の爬虫類の鱗で作った椅子に座る。


「さぁ!ロズンド王国へ出発よ!」


 姫の掛け声と共に爬虫類の姿は消え、遠い空の雲に穴が空いた。



 ◇◇◇



「姫様がお戻りになられたぞ!」


 それは姫が魔王に拐われてから数時間後、寝る前のちょっと小腹が空いたなぁってなる時間に響いた。


「姫様が!?」


 城中の者が報告を聞いて中庭に集まる。その中には姫が拐われた際に側にいた侍女もいた。


「あら!ただいま!」

「姫様ッ!大丈夫ですか?お怪我は………」

「してないわ。私がするわけないでしょう?」


 駆け寄った侍女は直ぐに怪我の有無を確かめる。そうして姫の後ろを見て目を見開いた。


「ひっ。ひひひ姫様ッ!」

「え?ああ、あの子達は私をここまで案内してくれた双子の魔族で、あの爬虫類は運んでくれたの」


 カタカタと震える侍女に双子の魔族は自分たちの見目を思い出して少し眉尻を下げる。


「コワイ?」

「オソロシイ?」


 やはりヒメと他のヒトは違うのか…とヒメのドレスを掴んで訪ねた双子の魔族に侍女は近付く。


「ナァニ?」

「ドウシタノ?」


 目の前まで来た侍女は双子の魔族の肩をガシッと掴むと悲痛そうな顔をして言った。


「貴方達、姫様に、姫様に………ッ!何かされていませんか!?」

「「……エッ?」」


 予想外のことに固まる双子の魔族を余所に、侍女はぐったりしている爬虫類を見て悲しげに睫毛を伏せる。


「あぁ、あちらの方なんてボロボロに………背中に変なオブジェまで作られて可哀想に………」


 姫が試行錯誤して作り上げた椅子を変なオブジェ呼ばわりした侍女はホロリと涙を流す。


「まぁ!酷いわ!私は拐われて必要に迫られてやったのよ!」

「ですが、幼子の誘拐と生き物の虐待は許されざる行為でございます!このことは国王陛下、妃陛下に報せます」

「お父様とお母様に!?それはやめて!」


 そんな酷い侍女に意義を申し立てた姫だが、国王陛下と妃殿下に報せると言われて顔を青ざめる。尚も厳しい侍女は更に告げる。


「それと、私個人からの罰として1週間のオヤツ抜きでございます」

「そんなぁ!それじゃあ今日のオヤツの『朝採れ卵の特製プリン~季節の果物を添えて~』は!?」

「ナシ、でございます」


 容赦無き侍女の罰に姫は崩れ落ちた。


「ヒメ~?カナシイ?」

「ヒメ~?ゼツボウ?」


 魔王城でも、邪竜の前ですら見せたことのないヒメの姿に戸惑う双子の魔族。


「うっうっう…もう終わりだわ………」

「さぁ、お二人とも、お腹は空いていませんか?王城のシェフ特製の夕食を振る舞いましょう。デザートにはとっても美味しいプリンが付きますよ?」

「プリン!キニナル!」

「ヒメのコウブツ!タノシミ!」

「では行きましょう」


 泣き崩れる姫を置いて、侍女は双子の魔族を連れて行った。


「「プリンオイシイ!」」


 姫が食べる筈だった『朝採れ卵の特製プリン~季節の果物を添えて~』を双子の魔族が美味しそうに食べる様子を対面で見せられた姫は、食べれず悔しいような、褒められて嬉しいような複雑な気持ちを味わった。



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魔王に拐われた姫は自力で帰る 小春凪なな @koharunagi72

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