第9話 ダンジョンデビュー

準備に2日をかけた。

この世界に来て大いに困ったことがある、東西南北という概念が通用しないのだ。磁石で測るにしてもクルクル回るだけで極点が判然としない。やはり地球では無いのかもしれない。そうなると見えている太陽も怪しいものだ。実感としてほぼ24時間に近い気がするが自転速度と公転速度が分からないので位置情報としての太陽もあまり当てにならない、それは星にも言えることだ。見慣れた星座と全く違う。ただ星はほぼ定位置に存在していて天測航法が使えそうだ、実際右近が簡易六分儀を作ったのでそれを使うつもり、正確な時間計測も同時に必要だがこれは補正を施したタブレットで管理することにした。

そして最大の謎はこの世界には月が2つある!大きいものと小さいものだけど大きいのは赤く、小さい方は青く輝く。多分地質による反射のせいかも知れないが見事に違う色に見える。また月はこの世界に対して公転しているが、地球における月のように規則正しくない、多分軌道が複雑なのだと思う。

GPSに慣れた俺たちにとって位置情報は重要。ヘタすると拠点に戻ることすら出来なくなってしまう。

そんな地道な下準備を行って、いよいよ出発朝を迎えた。

行程は往復で4日、探索に3日の7日を予定している。


オーエンギルド長からもらった地図は案外正確でかなり助かった、街道筋をたどる行きは魔獣との遭遇も無く、いたって順調に推移した。

岩山の目印を確認して街道を逸れて一路ダンジョンに向かう。

シュラルに聞いた話しによると、この世界のダンジョンはどちらかというと「鉱山」に近い、宝物やレアアイテムが眠っているというより、貴重な鉱物資源が豊富にある場所ということだ。しかし一方そうした場所はマナの濃度が高く魔物の出現率も高いそうだ、ただダンジョンの中にはごく希に古代遺跡が存在していて、そうした場所には宝物や古代の魔道具などが有ると言うことらしい。


俺たちは岩山の麓までたどり着いた、ここがダンジョンの場所らしい。

周囲1キロほどの岩山がポツンと草原に佇んでいる、周囲を見ても同じようなものはまったく無い。俺たちは時間をかけて岩山の周囲を回った、凹凸を繰り返している岩肌の一ヶ所に切れ目があった。かなり狭いがなんとか人が通れるくらいだ。よくこんなところを見つけたものだ。

オーエンギルド長の話しによると、この場所は薬草取りに来た農夫が見つけたとのこと。その農夫は少し中を覗いたが魔物の気配があってすぐに引き返したらしい。ダンジョンのありかはギルドに報告すると報奨金がもらえるとあって、その農夫は危険なダンジョン漁りよりそちらを選んだのだろう。


俺たち8人はダンジョンの中に入った、入口は狭かったが中は案外広い。しかし完全な闇だ。

今回は光魔法の使い手である優美が先頭に立った、彼女はヒーラーなので光魔法と親和性が高い。本来ヒーラーは後方支援職なのだけれど優美の戦闘力は侮れないものがあって先頭を任せて問題は無い。

優美は右近が作った拡散反射板に光源を生成して前方を照らしている。ダンジョンを少し進むとムッと獣臭い匂いが漂ってきた、マナの揺らぎも感じる、多分魔物だ。一行はお互い頷き合って再確認し先へ進むことにした。帰り道が分かりやすいように蓄光石の欠片を等間隔で落している。ダンジョンは下りにさしかかった、両側はゴツゴツとした岩肌になっていて足元も不安定だ。

少し進むとかなり大きな空間に出た、岩肌にはたくさんの穴が空いていてそこかしこからうなり声が聞こえる、と突然その穴から50体を超えるコボルトが襲いかかってきた。手に手に棍棒を持って殺到してくる。

「氷弾を使え!」

火炎系の魔法だと燃焼によって空気を消費してしまうし、なにより匂いがたまらない。

各人の鋭利な氷弾によってコボルトは一掃された。魔石は小さいのでこいつらは放置。先に進む。

あたりの景色が変わってきた、そこはまるで鍾乳洞のように見える。空間が開けてきて天井からは鍾乳石が無数に垂れ下がり足元は石筍だらけだ。どこからかドドドと激しい水流の音が聞こえる。

「歩きにくいねここ」

桜はしたたる水で滑りそうな足元が気になるようだ。

「この世界じゃトレッキングシューズとか無いものね」

博人はアハハと笑った。

周囲を警戒している雄気「あれ以来魔物も出てこないな」

「そうね、少し物足りない?」芽久は身軽にヒョイヒョイと石筍を避けて行く。

「そんなこと言ってるとヤバいのが出てくるぞ、フラグだしそれ。」

太一の言葉は当たっていた。

先頭の優美が足を止めた。「何か来る!」

右近も拡散反射板を展開させて前方にあてた。

光に浮かび上がったのは巨大な軟体動物だった。ヌメヌメとした体表、どうやら光の無いところに生息している魔物らしく目は無い、体中に触手のようなものをまとい、かなり気持ち悪い形状をしている。その巨体ゆえどうやって仕留めるかしばし考え込んでしまった。

「一筋縄ではいきそうも無いな」

太一がポンと手を打った。

「ほら、あの天井を見てよ、大きな鍾乳石があるだろ?あの真下におびき寄せて、冷却魔法を浴びせ動きを緩めてから爆砕魔法で鍾乳石の根元を粉砕して串刺しにするというのはどうだろうか?」

「イケそうだな、それ」

「で、おびき寄せる役は誰が???」

「あの触手を突いて誘導するってこと?」

「それなら私がやる。」

まぁ適任かもね。芽久はヒュッと石筍を蹴ってその魔物の前に出た。ダガーを起用に扱ってうねうね動く触手に斬りつける、魔物の遅いが着実に誘導が始まった。

「今だ!」

芽久が飛び退く、俺たちは爆砕魔法を発動させて鍾乳石の根元を狙っだ。

ドドーン!

鍾乳石の根元は粉砕され落下を始めた、そしてその魔物の背中にズブリを突き立った、魔物は動きを止めた。

「こいつって魔石も大きいんだろうね。」

「解体が面倒だよ。」

「それ、帰りに考えよう。」

俺たちは先に進むことにした。


暫く進むと鍾乳洞は終わり、乾いた洞窟になってきた。と、突然視界が開けた。

暗闇でよく認識できないが、光を照らしてみるとそこはどうやら巨大な球形の空間で直径1キロメートルはあるかもしれない、その丁度中間の位置にトンネルの出口がある。球状空間の下部から基礎が立ち上がり正面には同じような小ぶりの球体が存在している、大きさは直径100メートルほどか。トンネルの出口からその球体の中心に向けて一直線にスカイウォークが繋がっている。どう見ても完全な人工物だ。

その圧倒的なスケールに一同は声を失った。しかしここがどうやらこのダンジョン中心部ということは理解できた。進むしかない。

渡りきると大きな扉に遮られた。

「もしここが未踏破のダンジョンということなら、ここはおそらくボス部屋で、ボスは健在だ。普通の攻略なら一度下見をして相手の戦力を測った上で再度攻略を試みるんだけど・・・ね。」

「8人のパーティーだし何とかなりそうな気もするけど」と太一。

「中に入った後もう一度扉が開くとかの保証も無いし、覗いただけでは分からないかも知れない。」

「それもそうだな。」

「優美と桜、博人を後ろに下げて、残りの5人でアタックするか。」

「そうしよう。」

「準備は良いか?よし行くぞ!」


前衛5人で大扉を押し開けた。

中に足を踏み入れると周囲ぐるりと光が走って空間が明るくなった。丁度中央に黒い影がうずくまっている。

ゆっくりと影が動き出した。2本の足で立ち上がると背中の翼を開く、その先には鉤爪が付いている、漆黒の身体、目は赤くギラギラとこちらを射貫くように。軽く開いた口からは歯というより並んだ牙とおぼしきモノが見える。

両手をゆっくり上げると指は長く爪も鋭利に尖っている。魔獣では無く悪魔そのものだったのだ。

開いた両手に魔方陣が展開した。

「来るぞ!範囲攻撃だ!!」

悪魔は俺たちに向かって広範囲な火炎攻撃を加えてきた、防御魔法を展開したが、圧倒的な火力で全てを吹っ飛ばす。

俺は咄嗟に鑑定をかけた。

【名 前】 ブシュマ

【年 齢】 547

【レベル】 100

【体 力】 3541

【知 力】 2570

【攻撃力】 3987

【防御力】 3069

【俊敏性】 3596

【魔 力】 3585

【スキル】 火属性魔法 黒魔法

【職 業】 ※※※※※

【種 族】 エルダー・デーモン


圧倒的な能力に愕然とした。8人がかりでも全滅はまぬがれないほどの。

俺たちは防戦一方となっている。俊敏は動きで空中を飛び回り、次々と火炎を撃ちまくってくる。芽久が火炎を食らって大扉の前まで吹っ飛ばされた、慌てて優美が駆け寄りヒールをかけている。雄気がロングソードで立ち向かうが動きの速さについて行けない。太一と右近も吹き飛ばされて桜と博人の治療を受けている、こちらの戦力は激減している。この状態はかなりマズい。優美のヒールで少し回復した芽久と雄気が俺のそばに来た、肩で激しく息をしている。

「10秒保たせてくれ、アスタリスク・ブーストを使う!」

俺はそう芽久と雄気に伝えた。

二人は頷くとエルダー・デーモンに向かってダッシュした。

俺はステータスを展開、アスタリスク100倍をタップして魔法に振り分けた。

そして渾身の火球をエルダー・デーモンに放った。

体力が瞬時に奪われていく、気が遠くなってきた。

(これで決まらなければ全滅だ・・・・)

【魔力】 瞬間最大32,800が発動し、エルダー・デーモンの火炎を飲み込み悪魔の全身を焼き尽くした。

俺は気を失った。


どれくらい時間が経ったのか、なんか動けない、うっすら目を開けるとみんなの顔が俺をのぞき込んでいるのが分かった。

「生きてる!」芽久が目に涙を浮かべてつぶやいた。

(あ~俺は生きてるんだ・・・)

更に時間が経ったのか、やっとしっかり目を開けることが出来た。

「どうなった?」

「やったよ」

太一が右に視線を動かし、その視線を追うと床にたたきつけられた姿のエルダー・デーモンが見えた。

「あ~、やったんだ」

右近が俺の手を取った。

「あんな時の本番でいきなりブーストを使うなんて、命知らずだぞお前は。」

「あ~、そうだな、成功するかどうかも分からなかった代物だものな。」

「仁も動けないみたいだから、今日はここで野営しよう、魔物は入ってこないだろうから。」と雄気。

「そうだね、何か食べ物を用意する、仁はスープか何か口に入れて」

桜はストレージから調理道具やブランケットなどを出している。

改めてみんなを見回したが結構ボロボロ状態。全員の無事を確認した俺はまた気が遠くなった。


どれくらい眠っていたのだろうか、体力は少し回復しているようだ。

右近の仮説だが、アスタリスク・ブーストを使うと瞬間的に体力を奪われるらしい。まぁ100倍の負荷が係るのだから当たり前と言えば当たり前。実際1秒以下しか持たないのかも知れない。従って魔法は1つしか使えないことになる。

右近の研究で分散出来るようになれば状況は変わるかも知れないけれど、今は使いどころが難しい。


みんなも負った傷が癒えてきたのか、立ち上がったり屈伸をしたりしている。

俺もゆっくり立ち上がって、ボス部屋を探索することにした。

見る限り何もなさそうなんだけど、隠し扉とかもあるかも知れない。部屋の周囲をぐるりと巡ってみるが特に何もなかった。床はどうだろう。

確かここは球体だったはずで、この床は平らだ、つまりあと半球がこの下にあるということになる。

床の中央に小さく紋章が刻まれていた。見た限りクルッと廻るようになっているらしい。俺はそれを廻してみた、みんなも何事かという感じで集まってきた。

カチンと手応えがあって紋章の中心部から丸く床が消失し始めた、俺たちはその拡大する大きさを避けて後ずさる。暗い空間と階段が見えてきた。

拡散反射板を手にしてその階段を降りると大きな居室だった。そして、その中央に金色に光る大量のインゴットが積まれていた。

「金塊?」

芽久が見上げながらそう聞いてきた。

俺はその一つを手にしてみた、それは信じられないほど軽かった。

金色の光はそのもの自体から発しているようにも見える。

「鑑定」

それは大量のオリハルコン・インゴットだった、ある意味金塊より高価な伝説級の代物だ。過去の遺物でもあるオリハルコン・インゴット、この扱いにくい金属をどうやってインゴット状にしたのか手法は不明だが、とんでもないお宝であることは疑いようが無かった。

「コレは全部持ち帰ろう、オーエンギルド長に相談だが、多分国家的な取り扱いになると思う。」

この世界でのオリハルコンの位置づけが分からないのでなんとも言えないが。

一度フェネマ魔法士団長にこの国における希少金属の位置づけを聞いておかなくては・・・


みんなの消耗も激しかったこともあり、俺たちはダンジョンを脱出することにした。エルダー・デーモンの死体とオリハルコン・インゴットをストレージに保管し、例の巨大軟体魔物の魔石核は雄気が苦労しながら取り出した、それは両手で抱えなければならないほど大きかった。(あまり気持ちの良い作業では無かったけど)

馬車に乗って2日、俺たちは拠点に戻ってきた。とても長い時間の経過に感じられた。

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異世界は寮生活で乗りきろう 徳田新之介 @tokudashinnosuke

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