第16話 デート

 その後はマックで軽く食べて、俺たちは帰ることにした。と言っても降りる停留所は同じだから、途中まではみんな同じだ。


 だが、停留所に着いたら、俺は真里亜とは別方向になる。そして、剛史は真里亜を送っていく。


「じゃあな」

「健人、またね!」


「おう!」


 俺は一人で家路についた。さっきまでは三人だったから妙に寂しく感じるけど仕方ない。それにしても剛史と真里亜の二人だけの時間を最後には作れたな。そこで仲直りしてくれればいいが。剛史は真里亜の家に寄っていったりするんだろうか。そんなことを考えてしまった。


◇◇◇


 翌日は日曜日。今日はゆっくり出来る。はずだったが、また朝から真里亜の電話だ。


「健人、昨日はありがとね」


「おう、楽しかったか?」


「うん、すっごく」


「それはよかった」


「それでね、昨日のお金、返したいと思って」


 昨日のお金? そういえば、服を買うときとクレーンゲームで5000円ほど貸したんだった。


「別にそんなすぐじゃなくて良いのに」


「ダメだよ。すぐ返したい。でも、せっかくだからまた会って一緒に遊べないかなって思って」


 一緒にか。それなら剛史も来るだろうし、仲直りする機会にもなるだろう.昨日のでは十分とは言えなかったしな。


「わかった。どこ集合だ?」


「バスセンターに11時ね」


「了解」


◇◇◇


 俺は路面電車に乗ってバスセンターに行く。ようやくついたが、そこにはまだ真里亜しか来ていなかった。


「おーい、健人!」


「はいはい、お姫様」


 俺は真里亜のそばに行った。


「真里亜、その服って……」


「うん、昨日買った服だよ」


 俺が貸した金で買った白いワンピースだった。うん、すごく似合っている。


「健人の好みで買ったから早速見せたくて」


「あー、それはありがとな。でも俺じゃなくて剛史がこの服を見てどう思うかだからな」


「う、うん……そうだね」


「それにしても剛史はどこ行ったんだ?」


 一緒に来ているはずなのに近くに見当たらない。


「え? 今日は私と健人の二人だけだよ」


「は? 剛史は来ないのか?」


「うん、来ないよ。お金返すだけだし」


 マジかよ。ということは真里亜と二人きりかよ……。


「さ、行こうか」


 真里亜が歩き出す。俺は仕方なくバスセンターに入っていった。


◇◇◇


「健人、お願いがあるんだけど」


「なんだ?」


「また服を見てもいいかな。今日はお金持ってきてるし」


「ああ、いいぞ」


「やった! じゃあ、行こう!」


 それからはまた真里亜のファッションショーの始まりだった。俺はまた真里亜のいろんな姿に魅了された。なかでも――


「これ、どうかな?」


 カーテンが開くとそこに居るのは、間違いなく天使だった。それも、かなりきわどい天使。スカートは短いし、胸元も結構きわどい。


「い、いいけどさ……」


「いいけど?」


「ちょっと露出多めじゃないか」


「そうかな」


 そう言ってまわってみせる。すると、スカートが広がり見えそうになっていた。


「ま、真里亜……」


「あ、ちょっとやりすぎたか」


「お前なあ」


「ごめんごめん、健人の反応が面白すぎて。分かってる? 顔真っ赤だよ」


「誰のせいだよ」


「えへへ、私のせい!」


 そう言ってカーテンを閉めた。


 結局、真里亜はその服を買って満足したようだ。


「お腹空かない?」


「そうだな」


「オムライス食べようよ」


「いいな」


 俺たちは三階のオムライス屋に向かう。チェーン店だが、ここのオムライスは美味かった。


「美味しい!」


「だな」


「やっぱり健人とのデートは楽しいなあ」


「そうか? 剛史とも似たようなもんだろ」


「違うよ。剛史は服見てくれないし」


「それはそうだな」


「それにオムライスとか食べてくれないもん。いつもマックとかラーメンとかカレーとか」


「そうなのか」


「うん。自分が食べたいものばっかりだし。最近デート楽しくなかったからさあ。昨日思ったんだ。デートってこんなに楽しかったんだ!って」


「そ、そうか」


「うん。健人とのデート最高だよ」


 ニコニコ顔で真里亜が言う。そう言ってくれるのはいいけど、どう考えてもまずいよな。俺は真里亜の彼氏では無いんだ。


「お前なあ、彼氏は剛史なんだからな」


「分かってるよ、そんなこと……」


 口をとがらせて真里亜が言う。俺は少し不安になって聞いた。


「真里亜、今日のことなんだけど、剛史に言ってるのか?」


「え? 言ってないよ」


「マジかよ……」


「だって、健人と二人で会いたかったし。そんなこと言ったら剛史がまた怒るでしょ」


 そういうことか。つまり、これは浮気……なのだろうか。いや、俺と真里亜は昔からの親友だし、親友同士がただ遊んでるだけなんだ。浮気とまでは言えないのかも知れない。でも、剛史に内緒なんだよなあ。


「大丈夫だって。お金返すために会ったって言えば。はい、5000円」


 真里亜は俺にお金を返した。


「あ、ありがとう」


「お金は返しちゃったけど、もう少しデートには付き合って」


「わかった」


 それからは二人でゲーセンに行ってクレーンゲームをしたり、ホッケーをしたり、メダルゲームをしたりして、最後はカフェに行って帰る。


 そして、真里亜の家の前まで送った。


「今日はほんとに楽しかった。ありがとね」


「おう、こちらこそありがとな」


「……また、二人で会いたい。って言ったらどうする?」


 真里亜が上目遣いで俺を見てきた。


「さすがにまずいんじゃないか」


 今日はお金を返すという言い訳があったが、ただ会いたくて会っていたら本当に浮気になってしまう。


「でも元々親友同士なんだからさ」


「そうだけど……」


「大丈夫。剛史に内緒にしとけば」


 それがまずいんだけどなあ……


「じゃあね」


 真里亜は家に入っていった。


 確かに楽しかった。しかし、これは明らかにまずいよな。友達の彼女だし。どうしたものだろうか。


 でも、一番まずいのは真里亜と二人でデートしたことが俺にとってもどうしようもなく楽しかったことだ。俺は真里亜のことをどう思っているのか。そういうことは考えないようにしてきたのに。まずいことになった。


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