第15話 3人デート

 真里亜のファッションショーはそこからも続いた。だが、剛史はなかなか帰ってこない。トイレにしては明らかに長いが、それについて真里亜は何も言ってこなかった。


「これとか、健人好きじゃない?」


「そうかもな」


「着てみるね」


 そう言って、また試着室に入っていく。俺が好きなのを選んでどうするんだよ、そう思ったが嬉しくなって何も言えなかった。


「どう……かな?」


 真里亜が今着ているのは白いワンピース。まるで可憐な草原の少女を思わせるような服だ。今日、俺は何回目になるか分からないが、真里亜にまた見とれてしまっていた。


「ほうほう、今までで一番食いつきいいねえ」


 真里亜がニヤニヤして言う。


「ま、まあな。似合ってるよ」


「ニヒヒ、そっかそっか。健人はこういうのが好きなんだ。じゃあ、これ買おうかな」


「……俺が好きなのを買ってどうするんだよ」


「いいのいいの、剛史はいつも適当にしか答えてくれないから。健人の反応、楽しくていいなあ、こういうのがデートだよねえ」


「剛史はいつもこうなのか」


「うん。なんか、おざなりなんだよね。私のことほんとに好きなのかな、って思っちゃう」


 そういうことを言うなら、俺は真里亜のことを好きって事になってしまうけどな。


「よーし、買うか! あ……」


 真里亜の動きが止まった。


「どうした?」


「値段見てなかった……」


 それは高校生が買う服にしてはちょっと高めだった。


「ど、どうしよう……お金無い」


「そうか……」


 せっかくいいのが見つかったのにな。しかも、俺好みで決めてくれた服なのに買えないとは……よし。


「いくら足りないんだ?」


「4000円ぐらい」


「わかった。じゃあ、俺が出すよ」


「え? な、何言ってるの。悪いって」


「いいよ、真里亜にはお世話になってるし」


「ダメ。そういうのはホントだめだよ。でも……ちょっと借りていいかな」


「返さなくてもいいけどな」


「ダメだから。出来るだけ早く返すからね」


「わかったわかった」


 ようやく真里亜は服を買うことが出来た。俺は剛史に連絡する。剛史はしばらくして店にやってきた。


「剛史、どこいってたのよ、まったく」


「悪い悪い。服は買えたか?」


「うん」


「よし、行くか」


 剛史は店の外に歩いて行く。どんな服を買ったかとか関心は無いようだ。真里亜が俺のそばに来て耳打ちする。


「いつもこんな感じなんだよね」


「そうか」


「なんか一緒にいて疲れるの分かるでしょ」


 確かにそうかもな。


◇◇◇


 しばらく歩くとゲームセンターがあった。


「よし、ここ入ろうぜ」


 剛史が言う。


「またー?」


「いいだろ、ときどきは格闘ゲームしないと腕がなまるからな」


「もう……まあ、いいけど」


 真里亜は渋々入っていった。


 剛史はお目当ての格闘ゲームを見つけるとすぐに始める。しばらくは俺たちも見ていたが、真里亜は次第に飽きてきたようだ。


「剛史、私、クレーンゲームやってるから」


「ん? ナンパには気を付けろよ」


「健人が居るから大丈夫」


「そうだったな。健人、頼んだぞ」


「わかった」


 俺は真里亜についていき、クレーンゲームのところに行く。


「うーん、どれが取れそうかな……あ、コレ取れそう!」


 そう言って選んだのはかなり大きなうさぎのぬいぐるみだ。しかし、取り出し口のすぐ近くにあるから確かに取れそうにも見える。


「よーし、やるぞう!」


 真里亜はすぐにお金を入れようとしたがそこで気がつく。


「健人、お金が……」


「わかったわかった。貸してやるから」


 俺はあるだけの小銭を真里亜に渡す。


「ありがと! すぐ返すからね」


 そう言ってゲームを始めた。


「健人、これぐらいでいいかな」


「もう少し奥じゃないかな」


「そう? これぐらい」


「うん、いい感じ」


「よし、いけー!」


 アームがぬいぐるみをつかんで持ち上げる。


「やった!」


 しかし途中で落ちてしまった。


「あー!」

「惜しい!」


 俺も思わず声が出た。


「惜しかったよね?」


「ああ、惜しかったと思うぞ」


「よし、じゃあもう一回!」


 そうやって、真里亜は何回も挑戦するがなかなか取れない。


「うぅ……もうやめた方がいいかな」


「真里亜の気が済むまでやれば?」


「そ、そうだよね。よし、もう一回!」


 さらに真里亜は挑戦したが、結局取ることが出来なかった。


「うぅ……さすがにもうやめるよ」


「そうか。でも頑張ったな」


 俺は真里亜の頭を思わずぽんと叩いてしまった。


「うん……あ、今のなんか嬉しかった」


「え?」


「頭なでてくれたやつ」


「そ、そうか」


「うん。ありがとう」


「どういたしまして」


「それに……文句一つ言わずずっと見ていてくれたのも嬉しかったな」


「そうか? 普通だろ」


「普通じゃ無いよ。剛史はすぐ文句言い出して、もうやめろってうるさいから。健人は応援してくれて、嬉しかった」


「そ、そうか」


「うん。これがデートって感じする」


「お前なあ、俺じゃ無くて剛史とデートしてるんだからな」


「そうだけど……」


「そういえば、剛史はどうしてるだろう。戻るか」


「そうだね……」


 行ってみると剛史はボコボコにされて負けていた。


「クソッ、なんだよ、こいつ。もう一回!」


 かなりお金を使っているようだ。だが、次のゲームでもボコボコにされていた。


「あ-、もうやめやめ。誰がやるかこんなくそゲーム」


 そう言って立ち上がった。


「剛史……」


「おう、真里亜。クレーンゲームは何か取れたのか?」


「ううん、ダメだった」


「なんだよ、情けねえなあ。じゃあ行くぞ」


「う、うん……」


 結局お互いに違うゲームをしただけで終わってしまった。



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