第11話 残念会

「おーい、大丈夫かあ」


 寝ている俺をつついてきたのは翔太だ。


「ん……」


「朝から机で寝てるなんて珍しいな。何かあったか?」


「まあ、な……」


「ひでー顔だな。こりゃ相当なことがあったっぽい。宮原舞か」


 俺はビクッっと体が震えてしまった。


「やっぱりなあ」


 そこに凪川が来た。


「あら、新田君。結果は聞くまでも無いみたいね」


「ああ、撃沈だよ」


「だよね。これでちゃんとけじめつけたってことね」


「まあな」


「はい、ノート返す。ありがとね」


 凪川は去って行った。


「撃沈したのか?」


 翔太も聞いてきた。


「ああ」


「そうか。よし、今日は残念会開いてやる。久しぶりに派手に行くか」


「お前、部活は?」


「馬鹿野郎。親友が振られたってのにバスケなんてやってられるかよ」


「まったく……いい友人だぜ」


「だろ?」


 そこに真里亜が来た。


「おはよう! あれ? 健人、どうしたの?」


「そんなに一目で分かるぐらい俺、ひどい顔か?」


「うん。やばいよ。で、どうしたの?」


「なんでもないよ」


 だが、翔太が口を挟んでくる。


「ごまかすなよ。真里亜、今日放課後に残念会するから。剛史も一緒に行くぞ」


「残念会?」


「うん。健人が振られたって」


「ああ、宮原さんか」


「うん。だから派手に行くぞ」


「了解! 四人で楽しもうね!」


 真里亜もハイテンションになった。人の気も知らないで……


◇◇◇


 何も考えられないまま、あっという間に放課後になった。真里亜と翔太が俺の席の近くに来て、しばらくすると剛史も教室に来た。


「ようし、行くか!」


「うん! こういうときは美味しいものを食べるのがいいよ!」


「だな、たこ焼きとか」


「私はスイーツ!」


「俺はハンバーガーだな」


 こいつら、自分たちが食いたいだけじゃないのか。俺たちはバスセンター地下のフードコートに行き、そこでそれぞれが食べたいものを買った。俺は何も買っていないが、みんなが分けてくれるそうだ。


「はい、ワッフル1つあげるね」


 真里亜が俺にワッフルをくれた。


「俺はポテトに飲み物な」


 剛史が分けてくれる。


「たこ焼き、半分ずつ食おうぜ」


 翔太はたこ焼きだ。


「ありがとな」


 俺は死んだ目で食べ始める。しかし翔太は派手に行くと言っていたが、こんな感じか。おごってもらって贅沢は言えないが。


「それにしても、こういう健人は見たことねえな」


 剛史が言った。


「健人って真面目だし、恋愛の話とかなかったよね」


 真里亜が言う。


「そうだよなあ。だから振られて落ち込んでいるのは初めて見たよ」


 翔太が俺を哀れみの目で見る。なんかむかついた。


「お前が振られたところは見たけどな」


 俺は翔太に言い返す。もちろん、それは真里亜に告白して振られた日だ。


「あの日はお前がこうやっておごってくれたんだったよな」


 翔太が言った。


「そうなの?」


 真里亜は当然そのことを知らない。


「ああ。翔太が死んだ目をしていたからな。元気づけようと思って」


「今日はお前が死んだ目だぞ」


「分かってるよ」


 俺は今日何度目か分からないため息をついた。


「健人、そんなに宮原さんが好きだったんだ」


 真里亜が言う。


「そりゃ、告白するぐらいにはな」


「そうやって好かれるのってなんかうらやましいなあ」


 真里亜がぽつんと言った。


「いや、俺だって告白しただろ」


 剛史が言う。


「ああ、そうだったねえ。でも、私も好きだったし」


「それは嬉しいけど告白ぐらい覚えとけよ」


「ごめんごめん。だって――」


「おいおい、俺たち失恋者の前で何見せつけてるんだよ。それに、真里亜、俺も告白したんだからな」


 翔太が真里亜に言う。


「あー、そうだったね。アハハ、忘れてた」


「忘れるな! 人生最大の勇気出したのに……」


「ごめんごめん、翔太にはずっと好き好きオーラ出されてたからさ、びっくりもしなかったし」


「え、俺、そんなに分かりやすかった?」


「うん!」


「とっくに気がつかれてたのか……」


「さすがにわかるよ」


「真里亜ってそういうのは気がつかないやつだって思ってた」


「気がつかない振りしてるだけだよ。女子はみんな分かってるって」


 みんな分かってる、か。確かに宮原さんも俺の好意に気がついてたな。だとしたら、昔、俺が真里亜に出会った頃に持っていた好意にも気がつかれてたんだろうか。


「俺はあのときの健人には借りがあるからな。だから、その借りは今日返すぜ」


 翔太が言う。


「そっか。翔太を健人が慰めたんだね。剛史は慰めなかったの?」


「俺は翌日まで知らなかったな。呼んでくれたら良かったのに」


「呼ぶわけないだろ。真里亜が好きなのは剛史だって俺たちの間では結論出てたし」


「そうなのか?」


「ああ。だから寂しく男子二人で傷の舐めあいよ」


「傷の舐め合いって翔太だけだろ、そのとき傷あるのは」


「まあそうだけど。でも、健人だって、できれば真里亜と付き合いたいとは思ってただろうし」


「え!?」


 真里亜が驚いて俺を見た。


「違うからな」


 俺は慌てて言う。翔太のやつ、なんてこと言うんだ。


「だって、そうじゃなけりゃ、昔の真里亜に似てた宮原舞に告白しないだろうし」


「そうじゃないし……」


「別にいいだろ。昔の話だし。あの頃とは真里亜も全然変わったし。今はもうそういうのじゃないんだからさ」


「まあそうだけど……」


「だから、俺と健人で剛史がうらやましいなあって残念会やってたわけさ」


「そ、そうだったんだ……」


 そう言って真里亜は俺を見た。はあ、俺が真里亜をそういう目で見ていたことは知られたくなかったな。


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