第10話 けじめ

 凪川伊織、宮原舞と一緒に電車に乗ったが、結局この二人が話をしてばかりで俺は蚊帳の外だった。そのまま、宮原舞は降りていった。


 凪川は二人になると、俺に話しかけてきた。


「新田君、舞はちょっと厳しいんじゃないかな」


「そうかな」


「うん。脈無いと思うよ」


「そうか……」


「でも、好きなの?」


「まあ、それは……」


「ふうん。そんなに真里亜と似てるんだ」


「だから違うって」


「ああいう子がタイプなんだねえ、私がああいう格好してあげてもいいけど?」


 長い黒髪の伊織がボブにまとめて眼鏡を掛けている姿を想像する。


「なんか違うな」


「失礼ね、まったく……確かに人によって似合う格好ってあるけど。舞はハマってるわよね。全然おしゃれしてないのに私も可愛いって思うもん」


「そうなんだ」


「うん。昔の真里亜もそんな感じだったんだろうな」


 そうかもしれない。全くおしゃれに気を使っていない感じなのに、逆にそれが妙に可愛かった。今の真里亜はかなりおしゃれにも気を使っている。彼氏が出来て変わったのだ。だから、そうなる前の真里亜の感じを俺は宮原舞に求めてしまっているのかも知れない。


「新田君、舞に本気なの?」


「かもしれない」


「ふうん。だったら、告れば?」


「……今告っても絶対振られるだろ」


「そうかもしれないけど、長い時間掛けたら変わるって思う?」


「変わるかも知れないだろ」


「そうかなあ。一目惚れって訳じゃ無いけど、最初に好感がある程度無いと厳しいと思うけど」


「だったらなんで告白させようとするんだよ」


「けじめよ。さっさと振られて次の恋に進んだ方がいいって」


 そうかもしれない。このままだと宮原舞につきまとって、迷惑を掛けてしまうことは間違いなかった。それに深入りすればするほど俺の傷も大きくなるはずだ。


「……わかった。告白するから、手伝ってくれるか?」


「仕方ないわね。じゃあ、ちょっと英語のノート貸してくれるかな」


「……わかったよ」


◇◇◇


 そう凪川には言ったものの、まさか翌日の朝にセッティングしてくるとは思わなかった。宮原舞に時間が取れないか聞いたところ、朝ならいいと言われたそうだ。


 俺はいつもより早く学校に行き、屋上に向かった。すると、屋上前の扉に宮原舞が居た。


「宮原さん」


「新田君、屋上寒いよ。ここでいいかな」


「う、うん」


 結局、屋上には出ずに、その手前の踊り場で告白することになってしまった。


「で、話って? だいたい予想は付くけど」


「そうか……宮原さん。俺、宮原さんのことが好きみたいだ。付き合って欲しい」


 俺は人生で初めての告白をした。


「……でしょうね。好意はずっと感じてたから」


「うん。どうかな?」


 俺はドキドキしながら返事を待つ。


「……無理ね。新田君は嫌いじゃ無いし、これからも帰り道に話しかけてもらって構わないけど、付き合うとかは無理」


「そうか……」


「うん。最初から何となく思ってたんだ。新田君は私を見てるんじゃ無くて、私を通して誰かを見てる。たぶん理想化した私なんだと思う。私は新田君が思ってるような子じゃないから」


「そんなこと……」


「無いって言える? 崎本真里亜に似ている、ってところから始まって、自分が好きだったころの理想の崎本真里亜を私に押しつけてるんだと思うよ」


「ち、違う……」


「そうなの? だったら、私の何が好きなの?」


「それは……雰囲気とか……」


「ほら、具体的なことは言えないでしょ。それでも、告白してくれたのは嬉しいから。見た目だけだとしても、私を好きになってくれたってことだし。それはありがとうね」


「……」


「振ったけど、これからも話してくれていいから。じゃあね」


 宮原舞は階段を降りていった。俺は力が抜けてその場にしゃがみ込む。やっぱり振られたか……


 それにしても理想の真里亜か。俺は確かに中学時代、まだ話していない真里亜に理想の彼女を見て、つい話しかけてしまった。だが、本物の真里亜は俺の理想とは当然違う。本物の真里亜を知るにつれ、俺の恋心は次第に薄れていったのかも知れない。今、残っているのは親友としての気持ちだけだと思う。友達の彼女だし。


 なんか疲れたな。俺はとぼとぼと自分の教室に行く。まだ人が少ない教室で机に突っ伏した。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る