第3話 恋愛相談
昼休み。俺と翔太は屋上に来て真里亜の相談を聞いていた。
「私が本屋に行きたいって言うのに剛史がどうしてもゲーセン行きたいって言い出しちゃって。それでもう口聞かないぐらいの喧嘩になっちゃって……どうしよう……」
「はぁ……」
翔太がため息をついて言う。
「しょうもな」
「何よ! こっちは真剣なんだから!」
真里亜は怒っているが、俺も翔太と同意見だな。
「どっちも行けば良かっただけじゃないのか?」
「そうだけど……でも本屋でゆっくり見たかったし。ゲーセンに剛史と二人で行ってもあんまり面白くないって言うか。剛史が一人で格闘ゲームするの見てるだけなんだもん」
「あいつはそれしかやらないしな」
「そうそう。みんなで行ったときはいろいろやるんだけどね」
「……じゃあ、久しぶりにみんなで行くか?」
俺の言葉に真里亜はパーっと明るい笑顔になった。
「うん、行く! 今日行こう!」
「今日? 俺、部活あるし……」
翔太が嫌がるが真里亜はあきらめない。
「部活休んでいこうよ。ね、翔太」
甘い言葉を掛けながら真里亜は翔太の手を握った。振られた相手なのに翔太は真里亜の攻撃にめっぽう弱い。
「わ、わかったよ……」
「やった!」
真里亜は飛び跳ねた。スカートが揺れる。俺と翔太は思わず目が釘付けになってしまった。
「ん? 見えた?」
「い、いや、見えてない」
「そっか。まあ、今更だけどね」
そう言ってニヤっと笑う。こいつはガードが緩い。中学の時にはたまに見えてたな。それで注意したっけ。高校生になって多少はガードが堅くなったから、最近は見ていなかったけど。
「なんで、翔太の顔赤いのよ、見えてなかったんでしょ?」
そう言って真里亜が翔太の腕を叩く。
「ご、ごめん。前見たのを思い出しちゃって……」
「それは忘れて! 中学の時でしょ」
「忘れられないなあ。死ぬまで覚えてると思う」
「もう、そういうこと言うから私に振られるんだよ!」
「お前それ言うなって!」
「アハハ、ごめんごめん」
真里亜が笑った。やはり真里亜は笑顔が似合うな。
◇◇◇
放課後、今日は久々に四人で学校を出て歩いて繁華街のゲームセンターへ向かう。
「何やろうかなー、クレーンゲームは当然として、レースのやつも久しぶりにやりたい!」
「真里亜が絶対負けるやつな」
「翔太、ひどーい! まあ、そうだけどさ。じゃあ、エアホッケー!」
「それも同じじゃ無いか」
「そんなこと無いもん! 成長した姿を見せるから!」
真里亜のテンションは高く、翔太と並んで先を進む。真里亜の彼氏のはずの剛史の横に居るのは俺だ。剛史はずっと不機嫌な顔で何も話さない。
仕方ない。俺から聞いてみるか。
「また真里亜と喧嘩したのか?」
「まあな」
「真里亜のことはお前に任せたんだからな。分かってるよな?」
「分かってるさ。真里亜は俺たちの大事な姫だからな。その栄えあるお世話係に任命されたのが俺ってわけだ」
真里亜と付き合いだしてからは剛史はいつもこう言う。確かに真里亜は俺たちの姫だ。みんなが真里亜を大事に思っている。中学時代は全てが真里亜を中心にまわっていた。
だが、真里亜と剛史が付き合いだしてから、学校の外での真里亜はほぼ剛史に任せっぱなしだ。翔太は部活があるし、俺は一人で帰るか凪川と帰るか、そんなところだ。
中学時代だって俺たち3人は真里亜の機嫌を取るのに一苦労だった。それを考えると一人で真里亜の機嫌を取っている剛史はほんとに偉い。けど……
「一応、言っておくと俺たちだって真里亜と一緒に遊びたいって気持ちはあるんだからな。それなのに――」
「だからわかってるよ。俺がその独占権を得た以上、俺が頑張るしか無い」
こいつの苦労は分かってはいるつもりだ。中学時代には剛史もバスケ部だった。だが、高校では真里亜を一人で帰すわけにはいかないと言ってバスケ部に入らずにいる。きっと剛史の生活は真里亜中心でまわっているのだろう。だから、俺が何か言える権利なんて本当は無いんだ。
ゲームセンターに着くと、真里亜が言った。
「うーん、やっぱりエアホッケーやろう!」
「またかよ」
「もう四人でやったの結構前だよ」
「そういえばそうか。まだ入学前だったな」
ゲームセンターでのエアホッケーは俺たちのど定番。もう飽きるほどやっている。だけど、放課後に四人で帰ること自体久しぶりだし、考えてみたらエアホッケーも長い間やっていなかった。
早速、じゃんけんで組み合わせを決める。俺たちのエアホッケーの戦い方はもう決まっている。4人だけど2人組じゃない。個人戦だ。1対1で戦い、勝った方が決勝を行う。負けた方は最下位決定戦を行って、最下位はみんなにジュースをおごるのだ。
俺は一回戦で剛史と当たり、あっさりと負けた。こいつは体育会系。運動神経が違う。ホッケーで俺が勝ったことは無い。
第二試合が始まり、翔太と真里亜が試合をしている。早速、真里亜に点が入った。
「うわ!」
「やりー! 見えなかったでしょ」
真里亜が喜んでいる。その近くのベンチに俺と剛史は座っていた。
「それにしてもなんでそんなにゲーセン行きたかったんだ?」
俺は剛史に小声で聞いてみる。
「ゲーセンは何かと疲れるからな」
「ん?」
疲れることの何がいいんだろう。
「その後、休憩とかしたくなるだろ」
休憩。まさか……休憩にお金がかかるアレか。
「お前達、そんなところに行ってるのかよ」
「行ってないよ。行きたかったんだよ、俺が」
「そういうことかよ、まったく……」
裏の目的があったって訳か。それにしても……
「お前たちってさ、そういうこともしてるんだな」
もう彼氏と彼女になって半年以上経つ。あの可愛らしい真里亜が経験済みだなんてちょっと考えられなかったけど、そういうことをしてもおかしくない年齢だ。
「いや、してないぞ」
「は?」
「してないから行きたかったんだよ」
「そういうことかよ……」
「何もやらせてくれないんだよな」
剛史が遠い目をして言う。
「あいつ、ほんとに俺のこと好きなのかな」
「好きなんじゃねえの? お前の告白を受け入れたんだし」
「そうだけさ……」
「真里亜なんだし、そういうことをするにはまだ早いって考えだろ。あいつ、真面目だから」
「まあ、そうだけどな」
そういうことは当然剛史は俺よりよく知っているはずだ。俺の知らない真里亜も知っているはずだし。俺が偉そうに言うことじゃないけど。
「よし! 勝った!」
「負けたー! えーん!」
試合は翔太が勝ったようだ。
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