第十五話
「こうして二人きりになるのはいつぶりかな」
シルヴァが部屋に入ると、庭園の見える窓を覗きながらランバートに問いかける。
「つい最近なったばかりだろ」
「いやいや、それは緊急な会議が終わったすぐの話でしょ。それに廊下でちょっと話しただけでちゃんとした場じゃなかったじゃん」
「まあ、それもそうだな」
今思えば、訓練生の時からよく二人で話し込んでいたのを思い出す。環境は悪かったが、コイツがいれば乗り越えられるとずっと思っていた。まさか怪我で去ってしまうとは思いもしなかったが。
「ところでランバート、本題へ入る前に聞きたいことがあるんだけど、君はアルヴァ君に伝えたよね?」
「何を?」
突然、質問を投げかけられる。何の意図があるのか理解できない。
「エリナとの関係だよ。なんかアルヴァ君、あまりピンときてなさそうだったじゃん」
「エリナとアルヴァの……」
少しばかり考える。何か伝え忘れた事は……。
「あ。それか」
「今気づいたの?てことはもしかして……」
「すまん、すっかり忘れてた」
「はぁぁ!?」
成人男性二人の個室にシルヴァの声が響くが、アルヴァとエクス、エリナに聞こえることはなかった。
◆
俺と兄さんで話し合ったおもてなしのプランその一。
・まずは庭園でお茶会を開く。そして緊張をほぐしてもらおう!
うちの強みである勇者関連の観光スポットに俺たちが責任持って案内していこう、というのが俺たちの全体を通したおもてなしプランだ。でもまずは、食後のティータイムを通して長旅の疲れを癒してもらってもらう。いきなり来たばっかで疲れているはずなのに外に連れ出してしまうのも悪いし、初めて話すから、こちらも緊張してテンパってしまうのを防ぎたい。そう言った裏事情を抱えている。執事たちには事前に伝え、庭園の一角にお茶を楽しむための休憩所を用意してもらった。
「エリナ様、お足元にご注意を」
兄さんが先頭に立ち、目的の場所へと案内してくれる。俺はエリナ様と隣に並んでいる。
「見事な庭園ですわね。クロズリー家の皆様はお花がお好きなのですの?」
「いえ、どちらかというと母上が好んでいました。今咲いている植物のほとんどは全て母上自ら植えられたもので、使用人らが手入れを行っています。エリナ様、何かお好きな花はございますか?」
「特にこれといったものはございませんが、そうですわね……やはり赤色の薔薇をよく愛でますわ」
「赤い薔薇ですか。でしたらこちらにいくつか咲いているものがございますよ。案内いたしましょう」
「ぜひ、よろしくお願いいたしますわ」
兄さんが完璧な返答をする。彼女は軽く微笑んでくれている。少しは喜んでくれるだろうか。
少し奥へ進んだところで、薔薇が植えられている場所に辿り着いた。まだ時期が早く開花している本数は少ないが、それでも見応えがある。赤いだけでなく、オレンジっぽい色やピンク、黄色いものまである。
「……綺麗だ」
思わず声を漏らす。今思えば、割いている花をまじまじと見る機会なんてなかった。俺の中でこの庭園は兄さんと遊ぶ場に過ぎなかった。今思えば、なんでこんな素敵なものを見ようとしなかったのか。
「ええ、とても美しく咲いておりますわ。しっかりと手入れなさっているのですね」
薔薇に触れながら話すエリナ様。よく見ると、彼女の手のひらに傷ついてできたような痕がある……。棘に触れて傷ついてしまったのではないかと思ったけど、そんなものでこんな傷にはならない。どちらかというと、硬いもので何度も擦り続けたような……。それは、俺もよく見ている。そう、俺の手にある痕と同じ。であれば、考えられるのは1つしかなかった。
「もしかして、エリナ様は剣を習ってらっしゃいますか?」
「そうですが、どうしてそんなことをお聞きになるのです?これでも、剣で有名な家系でしてよ?」
「大変失礼いたしました。ですが、まさか手のひらにそのような傷があると思わず……」
「そうでしたの。確かに、これはお稽古中にできたものですわ。名誉ある勲章ですのよ」
彼女は手のマメに当たる部分を撫でながらそう話す。
「名誉ある……勲章」
思わず復唱してしまった。
「なんてったって、あの第一師団団長のルーク様が直接指南してくださるんですもの」
第一師団長ルーク・レミントン……確か兄さんもたまに稽古をつけてもらうことがあるといったあの人か。
「エリナ様はルーク団長に師事されているのですか?!」
当然、この話に食いついてくる兄さん。落ち着いた顔立ちだが、その声は興奮を抑えきれていない。
「ルーク様は私と同じヘイデン領の出身ですのよ。休暇に入ればいつも私に剣を教えてくださいますの」
「あのルーク団長が……そんな一面もあるんだ」
「ところで、アルヴァ様?これに気づくということは、貴方も剣を習っているのでしょう?」
先程まで慈愛に満ちた笑顔を振りまいていた彼女の視線が、鋭利にとがれた刃のように鋭く睨む。
「そ、それなりには……」
その気迫に負けて弱気に返事をしてしまった。
「なら、ぜひ手合わせ願いたいですわ」
……はい?
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