第六話
「ベイルちゃん、改めて言うわ。私たちのアミナ騎士団に入ってくれない?」
この発言に、ハルバード殿は大きなため息をついた。
「入ってくれって……どうせ研究したいだけなんだろ?」
「ええ、そうよ。
「え、私の為……ですか?」
「……その魔法で苦労したこと、あるんじゃない?」
「苦労……ですか。は、はい。確かにした……と思います」
彼女の表情が少しずつ重くなるのを見て思わず目を見張った。まだ魔法の正体を知らない以上どんな苦労があったのかこちらからは何も言えない。と言うより、聞かない方が彼女の為な気がする。まだ成人にもなっていない少女にあのような辛い顔をされると心にくるものがある。
「私がそれを治してあげる。治すってのはちょっと語弊があるけど……そうね。これ以上そんな思いをしなくて済むようにしてあげるわ。私の研究を放棄してでもね」
「はあぁ?何言ってんだ、お前。正気か?」
「それぐらいの価値があるってことよ。あ、そうそう。先に言っておくけど、断っても良いのよ。そもそもベイルちゃんが騎士団に入りたいって思ってないかも知れないし。それを無理にお願いするのも悪いからね。まあ私としては入って欲しいんだけど……」
「私、私は……その」
「ベイル……」
私はお嬢様が小声で呟いているのを聞き逃さなかった。
「そんなことはどうでも良い。それよりさっさと教えてくれよ……その魔法の正体ってやつをよぉ」
ハルバード殿は完全に呆れている。倒れている椅子を元に戻し、足を組んで座った。
「全くもう……いいわ。ごめんね、ベイルちゃん、後で聞かせてね」
「は、はい!」
ヴィーナ殿は微笑む。そしてハルバード殿を睨んだ。
「……で、本題に移るわ。ベイルちゃんはね、毒を操れるみたい。それも即効性の高い強力なヤツ。どう、合ってるかな?」
「……その通りです。すでにお嬢様にお伝えしておりましたが、私は毒を操ることができます。この他にもできる事はありますが、まだ未熟なもので……お見せできるのはここまでです」
「これでまだ未熟なの……恐ろしいわね」
「恐ろしい?最高じゃないか!この魔法さえあれば仮に人族の奴らと交戦しても問題ないよな?」
心なしかハルバード殿の口元が緩んでいる。
「はぁ……だからアンタは私に脳みそ筋肉なんて言われんのよ」
「なんだと?」
「確かにベイルちゃんの魔法があれば争いが起きたってほとんどの場合解決できる。だけど問題はそこじゃない」
「じゃあなんだって言うんだよ」
毒……そしてレイジングブルの様子から考えると……なるほど。
「……我々にも被害が及ぶ可能性ですよね?ヴィーナ殿」
「ええ。おそらく……魔法を使用すると、周りに毒が霧散しているんじゃないかしら。ベイルちゃんが魔法を使った時、霧のようにベールがかったようなものが見えなかった?」
その言葉を聞いた時、あのモヤを思い出す。
「あれですか、確かに何かあるなと感じていましたが……」
「それのことよ。範囲は……広めに見積もって四メートルぐらいかしら」
「思ったより広いな」
「これはまだ予想の範囲よ。実際にはわからない」
「それに、ベイルちゃんに近づくほど毒の濃度も上がってる。これを見て」
私たちはレイジングブルを囲った。ヴィーナ殿の指示を仰ぎながら体毛をかき分けると、皮膚が火傷を負ったように赤くなっているのが確認できる。特に酷いのが頭部付近。軽く触っただけで毛が抜け落ちてしまう。
「かなり爛れているわ。吸い込んだことで死んだんでしょうけど、触れるだけでもここまでの状態。後ちょっと前にいたら今頃この子みたいになるところだったわね……」
「凄い……私の魔法を短時間でここまで理解するなんて……」
「ふふ〜ん、当然でしょう。伊達に研究やってないんだから。もっと褒めても良いのよ〜」
「でもよ、戦力になることは間違い無いだろ?」
「いえ、必ずしもそうとも限らないでしょう」
「どういうことだ?キマリス」
「戦力になる……それ自体は間違っていません。ですが、それは彼女の魔法制御がほぼ完璧な状態かつその力以外で身を守る術を持っていて初めて成立するものです。現状、彼女はそのような
「……ほう?珍しい。白狼と呼ばれるお前が人族に対してそこまで言うとは。なんだ、怖気付いたか?」
白狼……この名で呼ばれるのは好みでないですが……。
「……そう捉えられるのも致し方ないですが、現に彼らはあのような場でアミナ騎士団の兵士と互角以上に戦う姿をこの目で見ています。優秀な指揮官がいたのは確かですが、個々の連携が
実際、死亡した兵士の体を調べても致命傷になり得るものを除けば多くのかすり傷や打撲のあるが、そこまでの深傷を負っていなかった。人族は我々より体格が劣っている。だから始め、援軍を求められた時は心底驚いた。地の利もこちらにある。ではなぜ死者が多いのか。それこそ固有魔法の使い手がいることも視野に入れるぐらいだった。だが、私の予想は大きく外れ、ただ敵の戦略にハマっている。それだけだった。
「指揮官か……どんなやつだったか?強かったか?」
指揮官……ああ、あの老人の。
「そうですね……ハルバード殿には遠く及ばないですがなかなかのモノでしたよ。ですが……久しぶりに血が騒ぎましたねぇ。昔を思い出します」
「お、おう……そうか」
「……話を戻しますが、このまま騎士団に起用して前線にするのはあまり得策ではないでしょう。固有魔法の特性を活かす戦術も考案しなくてはいけません。それに仮にもお嬢様のメイド。もしものことがあれば私はお嬢様に顔向けできません。理解いただけましたか?」
「……ある程度は納得した。キマリスの言う通りだ………………だからこそ、俺はヴィーナの騎士団に入ることに反対する」
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