第七話

「……ある程度は納得した。キマリスの言う通りだ………………だからこそ、俺はヴィーナの騎士団に入ることに反対する」


 頬杖をつきながら彼は言う。


「はぁ?どういうことよ」


 ヴィーナ殿もたまらず反発した。


「ベイルの魔法ついてはお前が見ていた方がいい。固有魔法だろうが何だろうが魔法について俺はからっきしだからな。そういうのは専門家に任せる。だがキマリスの言ってた護身の件はどうする。体術はおろか得物もろくに扱えないお前が教えられるか?」


「そ、それは……」


 狼狽えた表情を浮かべた。魔法の能力、技術ともにトップクラスの彼女だが、近接戦闘は苦手としている。元より鳥人は戦闘に不向きな種、この場に立つことはおろか、騎士団に入ること自体、相当珍しい例なのだ。

 

「無理だろ?素じゃあ模擬戦でも勝ったことないもんな」

「うるさいわねぇ、余計なお世話よ!……まあ、事実だから何も言い返せないけど」

「だから反対する。異論あるか?」

「……いいえ、こればっかりは正しいわ」


 ……珍しくヴィーナ殿が折れた。しかしこれでまた振り出しに戻ってしまう。その後もどこにベイル殿を入れるか話し合いを続けるも結局は白紙に返すだけだった。時間だけが過ぎていった。なぜこんなにも泥沼と化しているのか私にはわかる。皆、均衡を崩したくないのだ。騎士団の戦力が一方に集まるのを危惧しているのだ。だけど誰もこの場では言わない。先を考えれば今後起きうる戦争の戦力を確保したい。だが手に入ればパワーバランスが壊れて目をつけられる。互いが互いに監視し合っている仕組みが設けられているからこそ、こんな状態が起きてしまう。


 その間、議論し続けているのはヴィーナ殿とハルバード殿と私だけ。マルバス殿は魔王様のそばに立ったまま微動だにしない。私がこの座に就いて数十年経つが彼女が意見を口にする事はほとんどないので平常運転である。元々細目なので眠っているのかもしれない。御老体なので長時間こう言った会議を行うのは辛いことなのだろう。致し方ないことだと我々は認識している。だが……。

 


「なあ、マルバス様よぉ、何か意見ないか?昔っからそうだがずっと黙ってるとこっちまで気ぃ使うから嫌なんだわ」


 ハルバード殿がぶっ込む。内心ため息をつきたくなった。

 

「……そうさねぇ。なら、嬢ちゃんに任せるよ」


 片目を見開き、お嬢様を指さす。


「え、私?」

「マルバス殿……それはいったいどのような意図が……」

「少しはまともなこと言ってくれるさ。そんなに心配せんでええ」


 私と目が合う。体から冷や汗が出るのを感じた。これはもう、マルバス殿の言うように聞くしかあるまい。


「で……ではお嬢様?何か意見などありますか?」


 いくらお嬢様といえど、まだ十になったばかり。ここまでわたしの想像を超えるほどの長丁場。話についてきているかも怪しい。

 

「話を聞いてて……ないと言ったら嘘になるのだけれど……」


 と、思ってもいない言葉が出てきた。


「でもいいの?喋っても……」


「ええ、遠慮なさらず、お好きにおっしゃってください」


「そう?なら、ベイルを四つある騎士団のうちどちらかに入るんじゃなくて、いっそのこと全ての籍だけ入れておくってのはどうかしら」


 籍だけ……?

 

「お嬢、それはどういうことだ?」


「……ベイルちゃんは特定の騎士団に入らないってことだね。だけど時と条件によってはそれぞれの騎士団を名乗ることができる……という感じかな?」

「うん、そんな感じ。補足ありがとう」

「いいえ〜このぐらいすぐ分かりますから問題ないですよ〜」


 と、さっきの仕返しと言わんばかりに嫌味ったらしく言葉を並べる。ハルバード殿もそれに気づいては舌打ちする。


「でも、なんか……ちょっとなぁ」

「ヴィーナ、何か問題あるの?」

「なんて言ったらいいんだろう。その……バエルちゃんが言ってることすごいよくわかるんだけど、これって前例ないじゃん?案が通ったとしていますぐ変えるってわけにはいかないでしょ?」

「普通ならそうね」

「だよね。その案を新しく作るってなったらきっと時間がかかると思うのよ。私たちが決めていい問題じゃないし。あと、私が言うのもなんだけどさ、人族と殺り合っちゃったし、近々報復で攻められる気がする。だからそんなに悠長してる暇なんてないはずだよ。殺しちゃったんでしょ?人族の指揮官を」



 それはそうだ。今後の我々の活動や枠組みに影響が出る可能性は十分にある。ヴィーナ殿が心配するのは当たり前。ですが……それについてはすでに手を打ってあります。


「ヴィーナ殿、それについてなんですが……」

「ん?なにキマリス、なにかあるの?」

「しばらくは攻めてこないですよ。私が保証します。『契約』しましたので」

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