第3話 場違いだらけの「お料理合コン」

 ノープランで婚活パーティーを選んではいけない。面白そうだから、で蓋を開けては痛い目に遭う。

 前回の「猫カフェ合コン」の顛末を受けてそう学んだ。更に言えば、お相手の時間も無駄にしてはいけない。同じ轍は踏まないに限る。

 気持ちをあらたにして私が叩いた次の扉は「お料理合コン」なるものだった。

 どんな相手と出逢いたいか。女子会でそう問われた私は、ある程度自立していて、一人の時間も確保できる相手がいればと答えた。毎週末予定を空けたり、毎日意味もなく電話がかかってくることに疲労を感じるのを自覚したからだった。……まぁ、これが婚活、ひいては結婚に向いているのかという話はひとまず置いておくとして。

 それで、料理ができる男子に照準を定めることにした。


 お洒落なアイランドキッチンの鎮座するスタジオでその会は始まり、開始と共に、私はまた出遅れたことを悟る。

 戦闘用(合コン用)のワンピースを購入。しっかりと身を包んだまでは良かろう。エプロンなど持ち合わせていない私は会場貸し出しのそれを装着し、辺りを見回した時点で敗北を確信した。女子たちは、一様に自前のふりふりしたファンシーなエプロンを身に着けており、会場貸し出しのエプロンは一部の男子しか借りていないのだった。


「桃山霧子です、得意なメニューはロールキャベツです」

 私とペアを組まされた不幸な男子は言った。

「アウトドアスポーツが趣味です。料理はほとんどしません」

 ……あ、ここにも場違いが居た。そんなこんなで場違いペアは発進する。

 じゃんけんで決められたメニューは「イカとしめじの明太和え、三つ葉のせ」だった。酒には合うが渋いメニューだ。

 茹でたしめじを冷ましてる間に刺身用のイカを切り、包丁の背を使って明太子の身を薄皮から外し、それらを軽く絞ったしめじと和え、調味料で味を整えたら三つ葉を乗せる。他のペアはバーニャカウダとか鶏の照り焼きをキャッキャと嬉しそうに作っている。

 さて、と食材を前にした私にペアの男子は言った。

「イカ、キモくない?」

「は……そ、そうですかねー」

「明太子とか素手でなんて触れないよ、オレ無理」

 いや、申し訳ないけど言わせて欲しい。何で来た、この場に。

 場違いはともかく、指定された料理を完成させない事には他の参加者の皆様にご迷惑がかかってしまう。私は無言で食材に向き合うと、レシピの通りに調理を終わらせた。横で「うわ」とか「キモ」とか「いや無理」とか言ってる男子はもう知らん。ユーは何しにココへ。むしろミーは何しにココへ。

 その後、それぞれの作成した料理を配膳し、談笑しながら実食。参加者同士で全体的に連絡先を交換し、その場はお開きとなった。


 後日、私に三通のメールが届く。

 まず、ペアになった場違い男子。

「この前はおつかれさま。あの料理、家でも作った?」

 お義理でもメールをくれたんですね、ありがとうございます。しかしながらお相手の時間を無駄にもし兼ねないので、このメールは見なかったことに。えぇ、私は何も見なかった。……こういう決断もきっと大事だ。

 次に、自己紹介でやたらと「病院に勤務しています」を主張していた男子。会場でまともにお話した記憶はないものの、メールの書き出しが「病院勤務の〇〇です」で開始されていたので記憶の蓋が開く。確か彼は、慣れた手つきで照り焼きを作っていたような。

 三通目。当日欠席の女子がいて、その余波でお料理の先生とペアになってガチお料理教室をしていた男子。顔も思い出せないけれど、料理の手際に問題もなかったはず。


 婚活らしくなってきた。そう実感しながら返信メールを送信する晩。冬はもうすぐそこまで来ている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る