竜がいる村
染乃 遥
第1話
グオーングオーン
「ひぃぃ、村長どうしましょう?」
「むぅ」
竜が村の近くに住み着いて約2週間。
襲撃された回数は2回。幸いにも死亡者はいなかったものの軽傷者が数人と10戸の家の崩壊。
小さな村で人手が少ないため家の崩壊は痛い被害だ。
「そうだな、明日にでも誰かを街に送って冒険者に討伐を依頼しよう」
こういう竜などのモンスターから被害を受けた時は冒険者に討伐の依頼を出すのが一般的だ。
ただ、冒険者も仕事だ。リスクとリターンが釣り合わなければ受けてくれることはない。特に自分たちのように小さな村だと払える報酬は少なくなる。受けてもらえるかどうかは賭けだ。
しかし、何もしなければ竜に滅ぼされるのみ。できることはするべきだ。
明日村の者たちに説明して、冒険者に出すことにしその日は解散となった。
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「フンフフンフフーン、いい天気だねー」
思わず鼻歌を歌いながら私は雲一つない青空の下を飛んでいた。
私は旅人。自由気ままに世界を渡る者だ。
今はこの先にあるという天空都市に向かっている最中。徒歩や馬車で行こうとするとかなり時間がかかるため、魔法で飛んで移動している。魔法を使ってカーペットを飛ばすと横になりながら移動できるので非常に楽なのだ。
ご機嫌な気分で空の旅を楽しんでいると太陽が天辺に差し掛かる。
「お、ちょうどいい所に村みーっけ!」
お昼ご飯にしようとした所で村を見つけた。
大きな湖と湖を囲む森。その森がぽっかりと空いている場所に湖に面した村を見つける。
あの村から見る湖の景色はさぞ綺麗だろう。今日のお昼をあの村で食べることに決め、私は村に向かって下降していくのだった。
村に着くと私はすぐに異変を感じた。
長く旅を続けているせいか普通ではない国や街の状態に敏感になっているのだ。
村の雰囲気が暗い。村の人たちが何かに怯えるようにビクビクしている。
何かトラブルでもあったのだろうか?
とりあえず村の人に話を聞いてみることにする。
「すみません」
「は、はい。えっと、あなたは?」
「私は、旅人です。少し休ませてもらおうと思って立ち寄ったのですが・・・」
「あぁ、旅人さんね。なら村長の所に行けばいいわ。村長の家はあっちよ」
「ありがとうございます。ところで、村の雰囲気が暗いように感じるのですが何かあったのですか?」
「それが、実は・・・」
それから私は村の現状を知ることになった。
約2週間前に竜が現れたこと。既に2回村が襲撃されたこと。
「なるほど」
「つまり、旅人さんがこの村に来たタイミングは最悪ってことよ」
「そのようですねぇ」
要はいつここに竜が来てもおかしくない状態ということ。確かにそんな状況に出くわしたのなら普通の旅人は逃げ出すだろう。
普通の旅人なら。
「いろいろ教えてくれてありがとうございます」
「いえいえ、旅人さんも気をつけてね」
情報提供してくれた人にお礼を言って私は村長の家に向かった。これは路銀が稼げる予感。
「では、頼んだよ」
「はい、任せてください、村長」
昨日決めた通り、冒険者に依頼を出すため村で一番馬の扱いに長けた男に事情を説明して依頼書を託した。これで解決してくれればいいのだが。祈るような気持ちでその男を送り出そうとすると、
コンコン
家のドアが叩かれた。
村の誰かかと思いドアを開けるとそこには見たことのない少女が立っていた。
「こんにちは、あなたが村長ですか?」
「あ、あぁ、そうだが」
「私は旅人です。少し休もうと思って立ち寄りました」
「そうか。休んでもらうのは構わないんだが、実はな」
「村の実情は聞きました。竜が現れて困っているんですよね」
「そうだ。だから、早くこの村から逃げたほうがいい。危険だからな」
「対策はどうするつもりですか?」
「今日、街に行って冒険者に依頼を出す。数日後には解決できるはずだ」
「なら、ちょうどいいですね」
「?」
「その依頼私が受けましょう。これでも私、冒険者なので」
そう言って私は冒険者の証のブレスレットを出した。そう、私は旅人でありながら冒険者でもあるのだ。私が冒険者である理由は旅の路銀を稼ぐため。
旅人が路銀を稼ぐ手段はいくつかあるが冒険者というのはその中でも旅人と相性がいいのだ。冒険者の証となるブレスレットは身分証にもなり、これを使えばほとんどの国に入ることができる。それに、モンスター関係のトラブルはどこに行ってもあることなので訪れた先で簡単にお金を稼ぐことができるのだ。
それこそ今回のように。
「冒険者だったのか。竜をなんとかしてくれるのか?」
「ええ、竜と戦うのは初めてじゃないので大丈夫ですよ。」
「それはありがたい。なんとお礼を言ったらいいか。正直、街で依頼を出しても受けてもらえるか不安でな」
「確かにこの金額だと受けてもらえるかは怪しいですね。ただ、私は旅人なのでその分食料と水を分けてもらえれば受けますよ。」
「それならお安いご用だ。では、頼んでもいいかな?」
「ええ、竜のことは全て私に任せてください」
こうして私は湖の近くの村に滞在することになった。
その夜。
「・・・と、竜の被害はこれくらいだ。」
「ふぁむふぁむ」
私は村長と夕ご飯を食べながら竜について聞いていた。村の人からも聞いたが、村長から竜の詳しい特徴や村の被害などを改めて聞きたかったのだ。
「これ美味しいですね」
「これは妻の得意料理でな。俺の大好物なんだ」
ちなみに、夕ご飯は湖の魚介をふんだんに使った料理だった。魚介は湖や海の近くでしか味わえないため久しぶりだった。村長の奥さんが料理上手なのあり夢中になって食べた。それでも、村長の話はしっかり聞いていた。料理に夢中になりすぎてほとんど聞き流していたなんてことはなかった。ないったらない。
「うーん、少しおかしいですね」
「おかしいか?」
「はい。竜が人間に対する行動って結構決まっていて極端なんですよ。人を襲うと決めたら必ず全滅させますし、襲わないと決めたら一切手を出して来ないんです」
「確かにおかしいな。村に被害は出ているが竜の被害にしては小さい」
「そうです。一応、被害は出ているの討伐はしちゃいます」
「よろしく頼む」
こうして村長との夕ご飯はお開きとなった。
村長から私用に用意された部屋でベッドによこになると、村長と話した竜の違和感について考えた。しかし、いくら考えても答えは出ず。結局明日に備えて、早めに目を閉じた。
次の日。
「この先ですか?」
「はい」
私は竜の棲家に案内されていた。
竜はどうやら村の近くの洞窟にいるらしい。
「ここからは私だけで行くのであなたは村に戻ってていいですよ」
「すみません。あとは頼みました」
そう言って私をここまで案内した人は来た道を戻って行った。
私がさらに洞窟に近づくと中から竜の寝息が聞こえてきた。確かにここに竜がいる。
「さてと、いっちょやりますか」
そう気合を入れ、杖を構えて洞窟の中に入った。中は意外にも広かったが光がほとんど通ってなかった。戦うなら外に引きずり出す必要がありそうだ。
さらに奥に進むと問題の竜がいた。青い鱗に一本角。村長の話通りだ。体長は30メートル程。今は眠っているらしい。
問題はここからだ。竜の全身を覆う鱗は非常に硬いため、鱗の上から致命傷を与えるのは難しい。そのため、竜を倒す時は目を狙うのが定石だ。しかし、今は瞼が閉じていてまあ狙えない。目を狙うためには起こさないといけないわけだが、竜は眠っている時に刺激を与えると大暴れするのだ。
つまり、すぐに離れないととっても危険。
眠っている竜に一発ぶちかまして洞窟の外に離脱、怒って出てきたところをズドン。
これでよし。
ある程度作戦が決まったので改めて杖を構え直す。出来るだけ洞窟の入り口に近いところに立ち、魔法で火球を放つ。それと同時に入り口に向かって全速力で飛んだ。ちょうど、入り口から出たところで
ドゴオォーーン!
という火球が炸裂する音と
ギャオォーーーーーーン!
という竜の叫び声が聞こえた。
ここまでは作戦通りあとは出てきたところで目を打つのみ。そう思い、何本もの氷柱を展開する。しかし、それらが放たれることはなかった。なぜなら、
「何するんだーーーーー!」
洞窟の中から流暢な人語が聞こえてきたからだ。
「え、え?人語?」
あまりの出来事に困惑する。竜の種の中には賢いのもいて人語も話すこともあるという話は聞いたことがあったが初めての出来事に驚く。
恐る恐る降りていくと洞窟の入り方のところに竜がいた。
「えっと、話せるんですか?」
「たくさん勉強したから話せるよ。あまり使う機会はないけど。いや、そんなことよりさっきは酷いじゃないか。眠ってるところをいきなり起こすなんて」
「ごめんなさい?」
怒られているのに竜に怒られるという状況が不思議すぎて頭にハテナマークが浮かぶ。おそらく竜に叱られた人間は私くらいだ。
「それでなんで僕の眠りを邪魔したの?」
「村の人たちから討伐依頼を受けたから」
「討伐!?僕が!なんで?」
「えーと、村を襲撃されたから・・・」
「襲撃?僕そんなことやってないよ」
「え?でも、湖の村に現れたのはあなただよね?」
「確かにあの村には行ったけど襲撃はしてないよ」
「?」
どうにも話が噛み合わない。竜は襲撃などしていないと言っているけど、村長の口から語られた襲撃した竜の特徴は一致している。
うーんうーんと考えていると昨日の違和感を思い出した。竜に襲撃されたにしては小さい村の被害。もしかしたら、本当に竜は襲撃しにあの村に現れたのではないかもしれない。
「あなた、なんであの村に行ったの?」
「そう、聞いてよ!僕がちょっとの間家を開けて帰ってきたら僕の家に村ができてたんだ」
「家?」
「あの湖の周りは僕の家なんだよ。特にあの寝床は気に入ってたのに。わ〜〜〜〜ん」
「えぇ・・・」
さっきまで私を叱っていたかと思えばいきなり泣き始める竜。しかもギャン泣きである。
子供かよ。しかしこのままでは埒が明かない。
「とりあえず落ち着いてください」
「ぐす」
「元々あそこはあなたの家であなたは帰ってきただけだったということですか?」
「そうだよ。だから、どいてもらおうと思って2回頼みに行ったんだけど、僕が行くとみんな慌てて逃げ出すから話し合いにならなかったんだ」
「あ〜〜」
どうやら真実はそういうことらしい。
確かにこの大きさの竜なら、離着陸の風圧だけで家なんて簡単に吹き飛ぶ。竜からしたらただ着地しただけ、けどそれを村の人たちは襲撃と認識したのだ。
「じゃあ、あなたは村の人たちを襲おうとは思ってないの?」
「そうだよ、人間とは出来るだけ仲良くするのが僕の考えだからね」
どうやら村に被害を出すのは彼も本意ではないらしい。
そのことに一安心だが、これは困った。
竜は自分の家に戻りたい、村の人たちはあの場所を守りたい。両者の要求が一致してしまっている。
「とりあえず村長と話し合ってみてください」
私は竜にそう言い、一度村に戻った。
そして村長に事情を説明して、なんとか竜と話し合いの場を設けることができた。
「ごめんなさい」
竜が村長と対面した時、始めに発した言葉がそれだった。家を壊したのは竜の方も悪いと思っているらしい。
「ほ、本当に喋った!?えーと、事情はある程度聞いた。幸い怪我人も少なく、そちらが配慮してくれたのは理解した」
「ありがとう」
「しかし、俺の記憶が正しければあの村は80年ほど前にできたはず。あなたはどのくらい出かけていたんだ?」
「いやいや、ちょっとだけだって。たった100年くらいだよ」
「ちょっと???」
「一応言っておくと、人間の感覚で100年はかなり長い時間ですよ」
「そうなの?一瞬なのに」
竜は長寿の生き物だ。中には5000年も生きる種もあるという。根本的な時間の感覚が違うのだ。
「あとはこの後どうするかだな。俺らがあの場所から引っ越すのはかなり難しい。場所のあてもないし、皆納得しないだろう」
「場所の当てがないのは、僕も同じだよ。あれだけの立地はなかなか見つからないんだ」
「困ったな。何かいい手はないものか」
村長と竜が話し合っている間、私は蚊帳の外に置かれていた。
まぁ、この先は竜と村長次第だし私が出来ることはほとんどない。お礼の食料、何もらおうかな〜とか報酬のことを考えていた。
「もう一つ湖の周りに空き地があればいいんだが」
「あ、その手があったか」
「しかし、俺らには新しく土地を拓くほどの人手はない。君なら出来るか?」
「いや僕も無理だね。体が大きすぎて、木を折ることはできても根っこが取れないんだ」
「なら手詰まりか」
「いや、そうでもないよ。ちょうどここに適任があるじゃん」
そう言うと竜は私の方を見てきた。
「え?」
私の役目は終わりかーと思って完全にぼーっとしていた私は完全に反応が遅れてしまった。状況について行けず、竜の方を見ると人とは全く違うはずの顔がニヤリと笑っているように見えた。
「な、なんで、わたし、が、こんな、ことを」
数日後、私は魔法で木を引っこ抜いていた。
あの後私は新たな空き地の制作を任されたのだ。 新たな空き地に村の人たちが引っ越し、竜が元の空き地を使うことになった。
なぜ私がそこまでしないとなのかと抗議したが竜のことは全て任せてくれと言ったよなと反論され、泣く泣くやることになった。
「旅人さん、捗ってるかい?」
「ある程度は。暇なら手伝ってくれてもいいんですよ?」
「すまんな、まだ仕事が残ってるんだ」
「なら、こっちに来なくていいです。仕事しててください」
「はっはっはっ、頼んだぞ」
最悪なのはこの作業を私一人でやっているということだ。村は人手不足、竜は降りられる場所がないということで私一人でやることになったのだ。チクショー。
いくら魔法で楽が出来るとはいえ、村の人たちが引っ越せるほどの空き地を作るには数日はかかる。流石に逃げようかとも思ったが、悪いことばかりではなく追加報酬として竜が爪をくれることになった。竜の爪は高く売れるので逃す手はない。
時々来る村の人たちに応援されながら私は1週間かけて空き地を完成させた。木を引き抜き地面をなだらかにした。これで引っ越しができるだろう。
次の日。
竜がいる洞窟の前で村の人たちがはしゃいでいた。引っ越しはまだ済んでいないがこれからよろしくということで村の人たちは竜とお祭りをすることにしたらしい。竜も喜んでいるようで村の人たちとの会話を楽しんでいた。
「いやぁ〜、旅人さんありがとう」
「謝礼はいいので報酬の方を」
私はというと今回の件の報酬を受け取っていた。数日過ごしてみて分かったがこの村長は油断ならない。また、仕事を追加されたらたまったもんじゃない。
「確かに受け取りました」
「旅人さんは明日出ていくのか?」
「えぇ」
「それは残念だ。引っ越しの手伝いも頼もうかと思ったのだが」
「明日出て行きます」
「はっはっはっ」
本当に油断できない。
「だが、感謝してるのは本当だ。君のおかげで村は助かった」
「その気持ちは受け取っておきます」
「僕の分もね」
私と村長が話していると竜が会話に混ざってきた。
「他の冒険者だったらもっと問題が大きくなっていたかもしれない。ここに来たのが君でよかったよ。」
ここまで感謝されれば私も悪い気はしない。
いろいろあったがこの村に来てよかったと思い祭りを楽しむのだった。
翌朝。
私は村を出た。だから、その後村と竜がどうなったのか、詳しくは知らない。
風の噂では、その後村と竜は仲良く共存することになったらしい。さらに、喋れる竜と触れ合えるということで訪れる人が増えたらしい。
今では、あの地方で人気の観光地になったらしい。
そして、いつしか人々はあの村をこう呼ぶことになった。
竜がいる村、と。
竜がいる村 染乃 遥 @serine10509
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