3章 2話
城というよりは神殿のようだ。
小高い丘の上に見える影に、ハクトは目を細めた。
第二の王都で遠目に見た城よりも、随分と規模も小さいように見える。
城までは石造の道が蛇行しながら伸びており、第二の王都と打って変わって静謐な空気に満たされていた。
「……あ」
小さく声を漏らす。
ハクトはこの景色を知っていた。
守護者と名乗ったあの神官が、夢の中で見せてくれた景色だ。
そんなはずがないと思うと同時に、そうであると確信してしまう。
「どうした、ハクト?」
立ち尽くしたハクトに、ルジームが訝るように声を掛ける。
何も言えずに黙って首を横に振れば、あっさりとそれで引き下がってくれた。
城の方へ目を凝らす。
遠く、まだ何も見ることはできないが、きっとそこにはあの大木が根を張っているのだろうと直感する。
まるで何かに誘導されているようだ。
「……ここはいつ作られたの?」
「城のことか? さてな、わからん」
ルジームはハクトの視線を追うように城を見遣って、それから笑い混じりに答えた。
「神殿の歴史を信じるのであれば、ゆうに三千年の歴史があることになる。クリュソの建国は、今の暦ができる千四百余年も前と言われているからな」
「実際のところは?」
「不明だ。だがクリュソという国が今の形になったのはせいぜいここ千年程度の話だからな。その間の歴史すらまともに記録されていないのでは、三千もの見えない時間を信じる方が難しい」
「……そうなんだ」
タッカラと名乗ったあの神官は三千年前から生きていると言っていた。
信じるわけではないが、信じれば辻褄は合っている。
「歴史に興味が?」
ルジームが尋ねる。
ハクトは質問の意図を探ろうと青灰色の目を覗いたが、案外何も作為的なものは感じ取れなかった。
純粋な興味だろうか。
ハクトが答えに迷っていると、不意にルジームは困ったように笑った。
「そういちいち警戒することもないだろう。意図のないことだってある、そんなに気を張っていると潰れるぞ」
「警戒して悪いことはない」
「これからずっとそうしているつもりか?」
「……その発言には意図があるように思うけど」
挑むように言えば、ルジームは笑みをいつもの自信に満ちたものに変えて、さすがだなと笑った。
「そろそろはっきりさせておくべきかと思ってな」
「オレがどうするかって?」
「そうだ。考える時間はあっただろう」
どちらともなく、視線を合わせ向き直る。
「君はロベッタに帰るのか?」
もう何度も考えてきたことだった。
しかし言葉にするのは初めてだ。
口に出したら戻れない。
そうわかってなお、ハクトは迷わずに答えた。
「いや、クリュソに残る」
何が自分をそうさせるのか。
理屈じゃないのだと、ハクトはいつかの言葉を胸中で繰り返した。
今ロベッタに戻ればきっと、自分を安寧に満たしてくれるものがあるはずだ。
それを選ぶのが賢い選択というものだろう。
何よりそれは、自分が勝ち取った権利だ。
だがそれを覆ってしまうだけの衝動がある。
自分の根源を知りたい。
そして何者かになりたい。
ロベッタを出た時と同じようでまるで違う、利己的な好奇心だけがそこにあった。
「アンタの兵士として、もうしばらく生きてやる」
「……そうか。なら決まりだな」
トン、と肩を叩かれる。
「女王陛下に謁見といこう。君の命、しばらく私に預けてくれ」
ハクトは黙って頷いた。
ここから先は、この男を信用するしかないのだ。
────────────────────────
クリュソの王城には門がなかった。
不用心なことだとハクトは眉を顰める。
門どころか、防衛に必要なものは城壁も堀も作られていない。
無防備なそれの入り口として、歩道の最奥には石造りのアーチがあり、その隣にいつか夢で見た巨樹がそびえていた。
「……やっぱりここなんだな」
誰にも聞かれぬ声で呟く。
その言葉を肯定するように、強い風がふっと木の葉をざわめかせた。
ここまで進んで来たのはハクトとルジームの他にはロルフだけだ。
その他の兵は丘の麓で待機ということになっている。
神域だからなとルジームは微笑んでいたが、この防衛の脆弱さが本当の理由だろうとハクトは既に確信していた。
神秘の国のようで、なかなか上手に神の威を使っているものだ。
アーチの下には警備と思われる兵が二人と、もう一人、黒の長衣に身を包んだ少年がいた。
歳はハクトと同じくらいだろうか。長い銀色の髪に、それと対照的な光る金色の瞳をしている。
その瞳を見て、ハクトは反射のように眉を顰めた。
嫌な感覚だ。
少年はちらとハクトを見遣ったが、何も言わずにルジームに向かって頭を下げた。
「ルジーム様、お久しぶりです」
「ジラーグか。わざわざ君を出迎えに寄越すとは、身に余る高待遇だな」
「ご冗談を」
少しも笑わず、ジラーグと呼ばれた少年は神経質に目を瞬かせる。
「陛下がお待ちです。慣例通り、全ての武器はここで門兵に預けてください」
ルジームは何やら困ったような笑みを浮かべたが、特に何も言うことなく腰の剣を外した。
ハクトにも促すように頷いてみせる。
黙って長剣を渡し先に進もうとすると、ジラーグが刺すような鋭さで口を開いた。
「君は短剣を持っているだろう」
「……どうして?」
「君がどういう人物であるのかは把握している。つまらないことをするな」
「諦めろ、ハクト」
ルジームに言われ、ハクトは溜め息とともに背嚢から二本の短剣を取り出した。
「ほら、これで良いんだろ」
「初めからそうしろ」
「オレがどういう人間か知っているなら、武器を取り上げることに意味はないと思うけどね」
皮肉のつもりだったが、意外にもジラーグは笑うように口の端を持ち上げた。
「元々意味はないからな」
「……はぁ?」
ジラーグは顔を顰めるハクトに答えることはなく、くるりと振り向いて歩き出した。
「こちらへ」
行き先を見て、ルジームが不思議そうに首を傾げる。
「謁見室に行くのかと思っていたが?」
「政治の管轄ではありませんから」
「……なるほど、それで君が来たというわけか」
苦笑を浮かべるルジームを、ハクトは説明を求めて見上げる。
しかしルジームは緩く首を振るだけだった。
仕方なくロルフを振り返る。
「今のどういう意味?」
「俺に聞くな」
「じゃあ元々意味がないってのは?」
「黙って歩いてくれよ」
ロルフが溜息をつく。
ハクトは肩をすくめた。
連れてきた割に、何の説明もないまま事が運んでいく。全く、堪ったものではない。
そのまましばらく歩いただろうか。
道の先に聖堂が見え、ハクトはようやく理解した。
政治の管轄ではなく宗教の管轄というわけだ。
「……武器を持っている意味がないんだ」
ロルフが不意に口をひらく。
「ここには神に支える人間しかいない。キトに会ったなら、これでわかるだろう」
あぁ、とハクトは納得したように笑った。
「オレの同類がいるってことか」
────────────────────────
木製の重たい扉が音を立てながら開かれる。
聖堂に一歩踏み込んだ途端、ぱちぱちと周囲の空気に雷がはしるのをハクトは感じた。
意図したのではない、この場に誘発されたのだ。
神域というのもただの嘘ではないようだと、ハクトは警戒するように手のひらを擦り合わせた。
「私が促すまで口を開くなよ」
ルジームが低めた声で言う。
口調は冗談めかしていたが、それが本気であることは正面に据えられたままの目線が示していた。
ハクトは微かに頷く。
ルジームはこの状況を想定していなかった。政治ではなく宗教の管轄で審判されることがわかっていたのなら、狡猾なこの男のことだ、ハクトに事前に知識をつけさせてから挑ませていただろう。
つまり誰かしらがルジームの意図を阻むために手を打ったと言うことになる。
一つの国の中でもこんな面倒な機微があるのだ、途方もないなと目を伏せる。
生き残る術を学ばなくてはならない。
あいつにはそれができるのだろうかと、もう会うこともないだろう相手を思い浮かべて、できるだろうなと笑ってしまう。
ならば自分に、できないままでいる道はなかった。
しっかりと顔を上げ、聖堂の中を見渡す。
石材と木材を組み合わせるように造られたその広い室内は、神域の名に相応しいように黒と金を基調に飾り立てられていた。威厳ある空間のようで、差し込む陽光の穏やかさがどこか懐かしい質感を作り出している。
太陽光の他に光源はなく、入り口から均等に置かれた燭台にも、不思議なことに火が灯された痕跡はない。
また、ここには警備もいなかった。この場にいるのはハクトとルジーム、ロルフ、ジラーグの他にはあと三人だ。
一人はジラーグとよく似た黒衣を纏い、黒髪をゆるく結った長身の男で、彼に対するように、日に焼けた黒髪で軍人らしい顔に柔和な笑みを浮かべた男がいる。
そして中央、高台に設置された黒い御簾の奥には、石造りの椅子に腰を下ろしたもう一人の姿があった。
あれが女王かとハクトは形容し難い思いで見上げる。
感慨深さも畏怖も、ろくに王制と関わってこなかったハクトには生じない。しかし布の奥に顔を隠した神の子の姿に、あの黒い女神に抱いた嫌悪を抱くだろうとは思っていた。
全くの間違いだった。
彼女の姿には何も感じない、何の感覚もしない。
神にまつわるものに相対して、何も起こらないとは思わなかった。
何もないに越したことはないのだが。
違和感に戸惑うハクトは、ロルフに背を突かれて現実に引き戻された。
「呆けるな」
礼をするために身を屈めたロルフが抑えた声で鋭く言う。
礼儀作法など知りはしないのだから仕方ないだろうと胸の内で悪態を吐きつつ、二人に倣うようにハクトはぎこちなく礼の形をとった。
自尊心が傷つくことはなかったが、違和感は消えない。
最初に口を開いたのは黒衣の男だった。
「しばらくですね、ルジーム」
「ええ。ご無沙汰しておりました、大神官様」
大神官と呼ばれた男は、呆れたように笑いながら眉を寄せる。
「わざとらしい子ですね、全く。つまらない真似はよしなさい。陛下の御前ですよ」
「陛下の前だからこそ身分を重んじているのですがね」
ルジームの返答は、軽口のように交わされた言葉にしては、あまりに温度がなかった。
良い関係ではないのだろうなと察せられる。
神官と軍部では気が合わないのも当然だろうか。
言葉を返そうとした大神官を遮るように、女王と思しき影がスッと手を上げる。
「陛下」
「まどろっこしいのは好きじゃないわ、ルジーム。腹の探り合いの挨拶なんて省いて、単刀直入にいきましょう」
挑戦的な、まだ年若い少女の声だった。
「ロベッタの処遇についての独断専行と、命令外の砦での戦闘行為。私が納得できるような言い訳を用意しているのでしょうね」
叱責を受けている形ではあるが、それほど緊迫した状況でないことは女王の口ぶりからも、ルジームの表情からも察せられた。
処罰の問題というよりも今後をどう運ぶか、その主導権の攻防なのだろう。
ルジームは考え込むように、わざとらしく首を傾げた。
「そうですね……。申し開きのしようもない、かと」
どういうつもりかとハクトはルジームの横顔を見つめる。
「何も言い訳するつもりはないと?」
「はい。その場に応じ、適切な判断を下した結果ですから。強いて言うのであれば、砦の一件については、我々が向かわなければ壊滅では済まなかったとだけ申し上げましょう」
「魔獣が出たと聞いたわ」
女王が微かに椅子から身を乗り出す。
長い黒髪が揺れるのが、遠くからでも見てとれた。
「噂によれば人の顔をした火の鳥だと。事実?」
「残念ながら」
「死体回収の手筈は?」
「無論整えております。追って到着するかと」
「なら良いわ。砦については撃退の功績と貢献で帳消しとしましょう。むしろこの大きな功績が無に帰すほどの行為であることに自覚を持つよう、言い添えておくけれど」
女王の声が刃のような冷淡さを帯びる。
「今の貴方にその権限がないことをもう一度思い出しなさい」
「寛大な処置に感謝いたします、陛下」
ルジームは、初めからそうなることがわかっていたかのように、落ち着いた所作で頭を下げた。
彼は元宰相なのだとキトが以前言っていた。
今は権限がないのだとあのように言うのは、恐らく単に官を辞した訳ではなく、何かの事情、あるいは処罰の結果なのだろう。そう考えると、他の人間のルジームに対する不可解な態度も納得がいく。
その一方でルジームの意図が読めなくなってくるのだが。
降格し無位無冠の身になってなお、この男は何をしようというのだろうか。
「さて、問題はロベッタの一件ね」
他人事ではない話に、ハクトは目の前に集中を戻す。
女王は苛立つように口を開いた。
「落とし所くらいは用意しているのでしょうね」
「落とし所ですか」
「ロベッタは私たちの神域、神の土地よ。勝手に取引の材料に使うなど言語道断だわ」
ぴくりと、反射するように指が動いた。
意味もないようなその言葉に、自分の内心がこうも揺れることが不思議だった。
ハクトは怒りを込めて目線を上げる。
何重もの布の奥、確かに女王と目があったような気がした。
「ロベッタは自由都市だ」
驚くほど自然に、その言葉はハクトの口から発せられた。
しん、と空気が張り詰める。
ルジームが溜息を漏らす微かな音だけが聞こえた。
「神のものじゃない」
ハクトは淡々と、しかしはっきりと言い切る。
これは何の意味もない行為だ。
誇るほどロベッタを愛していたわけじゃない。自由都市だなんて言葉にも、アニエのように意味を見出してはいなかった。
何よりロベッタに、自由でいるための力はないのだ。
何の意味もない抵抗を、自分にとってすら何の意味もない抵抗を、ハクトは愚直に口にしただけだった。
「……お前がルジームの取引相手ね」
尋ねるような口調で確信的に言って、女王は椅子から立ち上がった。
靴底を鳴らして一歩ずつ目の前まで歩み寄ってくる。
御簾の外に出ても、彼女の顔は黒い面布で覆われていた。何も読み取れない、無機質な姿だ。
黒の女神を思い出すが、しかし確かにアレとは違うとわかる存在に、ハクトは眉ひとつ動かすことはなかった。
「名前は?」
「ハクト」
「ではハクト、お前は人の身で神を拒もうというの?」
「人間は自由なものだ。神だろうとなんだろうと、オレたちを従わせることはできない」
女王はしばらく考え込むように沈黙を守っていたが、やがて軽蔑したように鼻を鳴らした。
「ふん。さすがに非文明な土地の子ね。ルジーム、私の前に出すなら敬語くらい身につけさせなさい」
「これは失礼を」
「餓鬼と話してもどうにもならないわね。お前、この子供にロベッタをくれてやるほどの価値を見出したというの?」
「はい」
ルジームの答えは簡潔だった。ただ肯定し、それ以上は何も語らない。
女王はそれならば、と愉快そうに笑みを溢した。
「それならば、その価値私にも示して見せなさい」
「と仰られると?」
「魔術師なのでしょう。戦い方は心得ているわね。私の相手をなさい」
「陛下、それは……」
黒髪の男が驚いたように顔を上げる。
「構わないでしょう。お遊びの模擬戦よ。私に勝てないくらいならばその価値は認められないわ」
「お辞めください陛下、そのような軽挙が許されるご身分ではないのですよ。お怪我でもなさったらどうするのですか」
「私はこの目で見たもの以外は信用しません。クリュソの女王は代々戦士よ。怪我の一つがなんだというの」
なんて気の強い女だと、ハクトは半ば呆れてその様子を眺めていた。
模擬戦だろうとなんだろうとハクトは構いやしないが、ここまで好戦的な女は初めて見た。何よりハクトと同等以上に戦うつもりのある女など、これまでの人生では出会わなかった相手だ。
一国の女王ともなると面白い奴がいるものだと思う。
大人たちが困ったように視線を交わす。
やがて諦めたように黒髪の男がため息をついた。
「ではこうするのは如何ですか。ジラーグ、ここへ」
「はい」
先ほどの少年が、また無表情のまま陰から前に出る。
「陛下もご存知のように、ジラーグは兵士ではありませんが優秀な神術使いです。彼とハクト君で模擬戦をさせましょう」
「ジラーグが? お前、良いの?」
女王がジラーグに尋ねる。
ジラーグは無表情のまま深く頭を下げた。
「陛下のご命令でしたら、何なりと」
「あら、面白い見せ物になりそうね」
女王は納得したように頷く。
「良いでしょう。ジラーグであれば相手に不足はないわ。私の名代としてしっかり働いてちょうだい」
「はい、陛下」
丸切り自分を無視して進められる会話に、ハクトはぼやきを浮かべた。
「全く、オレの意見はどうでも良いって?」
「黙りなさい。ロベッタが欲しいなら選択権などお前にはないはずよ」
「まぁ構わないけど……。でもオレは手加減とかできる人間じゃないよ」
「いつまでその強気が続くか見物ね」
「それでは、こちらで準備をしましょう」
そう言ってもう一人の男がハクトに立ち上がるように促す。
「やあ、ハクト君。私は現宰相のシジムだ。君を修練場に案内するから着いて来たまえ」
「ご丁寧にどうも」
「クリュソに来て一番にやることが戦闘なんて申し訳ないね」
「オレにできることなんてそのくらいだからね」
シジムと名乗った彼は人の良さそうな顔に笑みを浮かべると、そうかと短く頷いた。
人好きのしそうな男だなと思う。どこか高圧的なこの国の連中と違って、ハクトと話すときにも気さくな雰囲気だった。
シジムの後に続いて城の内部を歩く。
時折侍女のような女性とすれ違う他にはほとんど誰もいない、風変わりで静謐な場所だった。白い石の道が真っ直ぐと続く。
やがてその片隅に辿り着くと、シジムは木の扉を押し開けて中に入って行った。ハクトも大人しくその後に続く。
「悪いな、修練中に。ちょっと場所を貸してくれ。模擬戦が行われることになってね」
中には数十人の兵士がおり、突然現れた宰相に動揺しているようであったが、それでも折り目正しく場所を開けてくれる。ちらほらと見慣れぬハクトに好奇の目線を向けてくる連中もいた。
「さ、ハクト君。ここに練習用の剣があるから使いやすいものを持って行ってくれ」
適当な一本を手に取ってみたが、剣先が丸くなっているようだった。とはいえ剣は剣。当たれば怪我はするだろう。
「……神官ってのは剣も使えるものなの?」
軽く剣を振りながら尋ねる。
シジムは曖昧な表情で困ったように答えた。
「神官ってのは武力からは隔絶された存在だからなぁ。だがみんな自分の力を正しく扱えるように訓練されてる。ま、詳細はわからんのだがね」
「わからない?」
「神秘の事柄は色々と秘匿されてるんだ。サハト様に……大神官様にでも聞かないとわからないよ」
「サハトってのはさっきの黒髪の?」
「そうだ」
国というのは色々と複雑なのだなと、頭の中で勝手に結論づける。
ここで生きていくのならば、これからはそういう複雑さにも慣れていかなければならない。全く厄介な話だった。
「ま、向こうの準備が整うまであっちで待っていてくれ」
扉の向こうを示され、開けてみればそこには土の試合場のようなものがあった。二階に観覧席が設けられており、そこそこの広さがある。壁には剣の傷が無数に残されていた。
その一隅に寄りかかって、ぼんやりと息を吐く。
なんだか面倒なことになってしまったが、仕方のないことだ。
ロベッタのために戦うなど柄ではないと思っていたが、なかなかどうして結果的にそういうことになってしまっている。
カロアンなら似合わないと言って笑うだろう。
リディはなんと言うだろうか。
こんなところで運命に巻き込まれている自分を、笑うだろうか、悲しむだろうか、それとも肯定してくれるだろうか。
緩慢な思考に、ハクトは遠くを見るように緑の目をどこかへと向けていた。
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