第50話 プロポーズ
「……急にどうした?」
エルミアの独白に少し俺は驚く。
奇遇にも俺も同じことを考えていたからだ。
「六年前、お兄様が私を置いていったあの日、分かったのよ。きっとお兄様はこのまま放っておいたら私の手の届かないところに行ってしまうって」
あの日か。
少し大事な仕事ができてしまい、どうしてもエルミアの傍を離れなければならなくなった。
一人城を飛び出す直前に、エルミアに呼び止められたのだったか。
事細かに説明している暇はなかったので、エルミアの魔力の扉を一時的に麻痺させて強引に行動不能にしたのを覚えている。
「あの時は仕方なかったんだ。ああでもしないとエルミアはついてきただろう」
「ほらやっぱり。私、あの日ほど自分の無力さを感じたことはないわ。それで、本気で考えたの、どうしたらお兄様を私の元にずっと置いておけるかって」
少し猟奇的に感じるが、俺は好ましく思う。
何なら同じことを考えていたかも知れない。
「待てエルミア、それなら俺も考えたことがある。俺がオルテノ……」
「だめ! 私に言わせて……?」
エルミアは俺の口に指を当てて、発言を遮った。
俺はしつけの行き届いた飼い犬のように押し黙る。
ここで強引に押し切らないのは俺の悪い癖かもしれないな。
「――お兄様、いえシャルカ、私はオルテノス侯爵家の当主になるわ。そして誰もが認めるような当主になった暁に―――あなたを私の婿に迎え入れます」
「……」
ある程度予想はできていたが、やはりエルミアからの逆プロポーズだった。
あれだけのやり取りを交わせばどちらが言い出すかの問題だった。
(……先に言われてしまったか)
貴族家当主になるという決断をするには、なまじ前世も含めたこれまでの知識や経験がある分、その抵抗感から及び腰になってしまった。
俺が当主になった方が物事は効率良く事を進められるだろう。
しかしエルミアの決意を否定してまで強引に推し進めるべきだとは思えない。
「異論はあるかしら、私のシャルカ?」
「ないな、これっぽっちも」
それに俺は今の天真爛漫で若干空回り気味なエルミアが好きだ。
このバイタリティを俺個人の判断で奪ってしまうのはためらわれる。
「んふぅっ、そういうことだからこれから当主に足るだけの功績を積み上げないといけないわね。お父様を更迭しなければいけないし、これから忙しくなるわ」
「更迭って、容赦なさすぎじゃない?」
「物の例えよ。私はオルテノスの白姫と呼ばれるくらい権威があるもの、お父様にお願いすればすぐに退いてくれるわ」
父は確かに今の地位に頓着しない方だと思うが、エルミアのようにほとんど私利私欲で動く少女に家督を譲るかどうかは
それに自分自身に婚約者がいる事をわかっているのだろうか。
「ジルガはどうするつもり?」
「ラーネッキごと手を切るわ。今のままだとオルテノスは傀儡のまま絞り尽くされてしまうもの。オルテノスは私の代で真に自立した貴族家にならなければいけないわ」
ラーネッキが聞いたら悲鳴が上がりそうだな。
自派閥と思っていた娘がまさか、縁切りを希望しているなんて。
これが主筋の怖いところなのだが、エルミアの考えには俺も概ね同意できる。
オルテノス侯爵家の成立時には多くの譲歩を強いられた。
そうした
「エルミアもちゃんと考えているんだな」
「当然よ。シャルカと学院に行けることにもなったし、帝都でラーネッキの不当性を訴えればきっと今の体制を変えられるわ。それに学院にいる間に、私とシャルカがごにょごにょ……れば……」
エルミアの最後の言葉は聞こえなかったが、どうやら外交的にラーネッキとの問題を解消することを考えているらしい。
エルミアにしては少し迂遠な考えだ。
力ずくでラーネッキをひれ伏させようと考える俺が言えたことではないが。
「ん、なんだって?」
「……いえ、なんでもないわ。一緒に学院にいけるのが楽しみね」
エルミアは何かをごまかすように笑みを浮かべた。
しかし、学院に行く話も少しきな臭いものがある。
俺の推測が正しければ、父の考えというよりは皇家や他家の意向が反映された結果である可能性が高い。
貴族の子女を安全保障上の観点から学院に送るだけならば、本来、俺という守り手一人で済む問題だ。
そこをあえて次期当主であるエルミアも学院に通わせるというのはやはり外部からの圧力があったからにほかならないように思えるのだ。
「エルミア、色々考えているのは分かったが、やっぱり兄としては少し心配だ。俺自身、今回の初陣では予想外のことが色々と起こったし、反省すべき点は多かった」
「そうね」
「今後のことは楽観的に考えるよりは慎重に進めるべきだろう。石橋を叩いて渡るくらいがちょうどいい」
少し、考えの足りなそうなエルミアに小言を一つ。
「石橋を叩いて渡るって面白い表現ね。なんだかシャルカを表しているみたいだわ」
「ああ、だから何かする前には必ず俺に相談してくれ、俺はいつでもエルミアの力になるからな」
そう言って俺はエルミアの頭を撫でた。
エルミアは、にまぁっと顔を
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