第15話 アポイントメント作戦

 そういえば囮部隊として残してきた一万の兵はどうなっただろうか、とネフティスは南方に視線を向けた。

 対峙するは、若干十二歳のうつけの長男が率いる五千のオルテノス軍。

 おそらくはまだビビって開戦に至っていないか、半人前のステラ級の突撃程度は耐えられているはずだ。


「出発まで時間はないぞ、武官を優先的に動ける状態まで回復させろ! 星屑ダストは五体満足なやつだけ叩き起こせ! 動けそうになければ放置しろ! 馬は何頭になった……?! 二百? それじゃ足らん! もっと数を増やせ!」


 ネフティスは一人孤軍奮闘しながら、部隊の再編を行っていた。

 思った以上に再編に時間がかかっている。

 その理由は、謎の"威圧"による痺れの解除に手間取ってしまったからだ。


「クソォ! 誰だか知らんがくだらん真似をしてくれる!」


 先程から姿が見えなくなっていたバルバトが戻ってきた。


「殿下! 一体どこへ行っていらしたのですか」

「あぁ?決まってんだろどこかに潜んでるオルテノスのステラ級を探していたんだよォ」

「なッ! 危険です! 単独で行動するなどおやめください」


 バルバトの危機感のなさにネフティスは頭を抱えた。


「フンッ、下手人はおそらくは俺の感知が発動する間隔を狙って急速接近し、全力の"威圧"を発動させ、すぐに離脱したってとこだろうなァ」

「しかし、"威圧"では"魔纏"を解除することは出来ないのでは?」

「いやァ、オルテノスのことだ、何か汚ぇ真似をして"魔纏"を解除する方法を見つけたに違いねェ。……誰の仕業かは知らんが、必ず突き止めてなぶり殺しにしてやる!」


 バルバトはどうにかこの状況を自分の想定できる範疇はんちゅうに収めようと必死であった。

 バルバトの目線では、オルテノスのステラ級が近くにいることは確実。

 丘に残っているシャルカは当然候補から外していたため、居もしない下手人の存在を、バルバトは追いかけ続けていた。


「殿下、もうすぐ指定された時刻ですが、どうしますか?」

「すぐにでも”魔纏”を使用してロンシャント砦に向かう! さっさと準備させ……」

「伝令、伝令!」


 バルバトがネフティスに隊列を指揮させようとした時、一人のボロボロの武官が焦燥した表情で走ってきた。


「……何事だァ」


 自分の発言を邪魔されたバルバトは不機嫌そうに尋ねた。


「はっ、ここより南方、オルテノス軍への抑えとして駐留していた騎士ジェルナード率いるナイア軍一万ですが、ぜ、全滅しました!」

「全滅だとォ!? あ、ありえん! 貴様ァ! 一体どういうことだァア!」


 バルバトは報告にやってきた武官の胸ぐらを掴み、怒声を浴びせた。


「お、オルテノスの騎兵五百が一気に丘を駆け下り、まるで鬼神の如き速さで我が軍一万を蹂躙じゅうりんしました!」

「騎兵五百だとォ?! ありえん! そんなアホなことあるかァア!」


 バルバトはあまりに現実離れした内容に全く頭が追いついていかない。

 一体何が起こっているのか、バルバトは武官の続きを待った。


「はっ、我軍の騎士達はその突破力を前に成す術なく真正面から一人ずつ討ちとられ、市民兵達は散り散りに逃げました!」

「馬鹿な! はっ?! 騎兵そいつらは今どこに向かっている!?」


 バルバトは異常事態が起こっていることを悟ったと同時に、それほどの突破力のある騎兵が次にどこを標的とするのかを想像し、バルバトの体に悪寒が走る。


「……オルテノスの騎兵五百は現在、我が軍めがけて信じられないスピードで進軍中です」

「ッ!」


 バルバトは遠く、南の空に赤い魔力が立ち上っているのを見て、冷や汗が吹き出した。



 ◇◇◇◇



 時刻は少しさかのぼり、ペキオン村付近の丘の下。


 俺は今回の作戦を『アポイントメント作戦』と呼称した。

 威圧玉アポをとったナイア王国軍一万は後回しにして、空いた時間に五百の騎兵で丘の下の一万を蹴散らしてから、最後にバルバトを処理するという作戦。

 そして今、作戦の第一段階が完了しようとしていた。


「よいしょ」

「や、やめろ化け物ぉお!……ブちょへ!」


 俺は馬上から、自分の身長の二倍近くあるパイプで、敵の衛星サテラ級の最後の一人を撲殺した。

 敵の衛星サテラ級の脳天を叩いて爆散スプラッタさせ、パイプ振って、付着した血糊を落とす。

 先程から何度も繰り返している作業。

 残された市民兵は、皆散り散りになって逃げていった。


 客観的に見れば、齢十二の少年がココナッツを割るかのように衛星サテラ級を処理しているというのは筆舌に尽くしがたいものがあるのだが、少年であってもやはり貴族。

 この世界では畏れられる存在なのだと再認識させられる。


「……ふぅ、やはり騎兵突撃とは凄まじいものだな!」


 農作業の合間であるかのような爽やかさで額の汗を拭いながら、ゲトラードに話しかける。

 丘の下の一万の主力衛星サテラ級の殲滅せんめつが完了したので、武官たちにかけていた”魔纏”を一時的に解除した。


「グッ! ……ハァ……ハァ……いえ、御名代様みなしろさまの”魔纏”による強化の量が規格外なのですよ」


 ”魔纏”を解除した時に、ゲトラードの顔が一瞬、絶叫系の乗り物の強力なGで顔の肉が垂れ下がったようになった。


「……なぁ、本当に大丈夫なのかゲトラード。もう少し”魔纏”の出力を抑えたほうがいいだろうか?」

「ハァハァ……いえ、それには及びません。これほどの強化は皆、初めて体験するのでダウンが激しいのでしょう。こうやって慣らしておかねばなりません」


 振り返れば、魔纏”の反動なのか、武官たちは息も絶え絶えといった様子で馬を降り、地面に横たわっている。

 さっきまでヒャッハーしていた奴らがげっそりとして地面の一点を見つめている姿はさながら、新歓コンパで羽目を外しすぎたアホ大学生のようであった。

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