第14話 何じゃこりゃあァァ

「な、な……、何じゃこりゃあァァ!」


 バルバトは目の前の信じられない光景を見て叫んだ。

 星屑ダストの一般の兵達は、“魔纏まてん”で強化していた分、転倒した時に地面に強く叩きつけられた衝撃が大きく、大勢が息絶えてしまった。

 生きている者も軒並み意識を失い、死体と区別がつかない。

 星屑ダストよりも屈強な肉体と、魔力耐性を持っている衛星サテラ級でさえも、転倒したまま硬直し、意識を失っているものもいる。


「あがッ、ぐゥ……で、殿下、ご無事ですか!」


 地面に倒れ伏しているネフティスがバルバトに声を掛ける。


「チッ! 一体何が起きたァ! 説明しろネフティィィス!」


 不甲斐ない配下の姿を見て怒りを抑えられないバルバトは、魔力を垂れ流しながらネフティスを怒鳴りつける。


「す、ステラ級による"威圧"を、う、受けたものと思われます!」


 ネフティスは体は硬直しており、苦しそうな表情で答えた。

 発する言葉はたどたどしく、そのことがバルバトの苛立ちを更に募らせる。


「ハァ?!これが"威圧"だとォ!?」

「……はっ、この、硬直は"威圧"で間違い、ないかと」


 確かに、結果から見れば貴族が"威圧"を行ったときの現象に似ている。

 ネフティスは敵対貴族による"威圧"と断定するが、バルバトは頑なに信じることは出来なかった。


「いやァあり得ねェ! 俺は確かに”魔力感知”をしていたァ! 貴族の影なんてどこにも見当たらなかったァ! それに俺は兵どもに”魔纏まてん”を施していたんだぞォ! "威圧"程度で俺の"魔纏"が剥がされるわけがねェエエ!」


 バルバトは目の前で起こったことが信じられず、狂乱の声を張り上げた。

“魔纏”は身体能力を引き上げ、精神力を強靭にし、魔法耐性を上げる効果を他人に付与する魔法である。

 それゆえに”魔纏”は、魔力の波動を飛ばす”威圧”に対して相性が良い。

 バルバトからすれば、ネフティスの言っていることは、じゃんけんのグーに、チョキで勝つと言っているようなものだった。


「……し、しかし、実際、"魔纏"が解除されたと見る他、ありません。敵の位置すら、掴めていない今、ここにとどまるのは、下策中の、げ、下策、です」


 ネフティスは激しく取り乱すバルバトに助言する。

 そして一刻も早く"威圧"の痺れを取ろうと魔力を練り始める。

 貴族による"威圧"を受けて体に痺れがある時は、威圧の魔力を打ち消すだけの魔力を流せば良い。

 しかし先程の強烈な"威圧"で、体内の魔力生成器官である"扉"に鍵をかけられたような感覚がしてうまく魔力が練れず、ネフティスは困惑した。


「ならどうするんだこの状況はよォオオ!」


 バルバトの錯乱した叫び声とともに、無意識に"威圧"の魔力をてられ、ネフティスは勘弁してくれという気分になる。


「くっ、やむを得ません。動けるものだけで、バングウォール砦に引き、返しましょう!」

「貴様! 自分が何を行っているのか分かっているのかネフティィィイス! 今更引き返せるものかァ! ウルゴールの首を取らなければ俺は終わりなんだぞォォオ!」


 ネフティスの消極的な提案に激昂状態のバルバトは、右手でネフティスの髪の毛を掴み上げ、宙吊りにした。


「はっ……ぐぅう…………! し、しかし、我軍は、既に、壊滅的なダメージを受けています。こ、この惨劇を、起こした下手人が、ま、まだどこかに、潜んでいるかも知れません! て、撤退しましょう」


 ネフティスは、バルバトに硬直した体を強制的に動かされた痛みと、毛根へのダメージに悶え苦しみながらもバルバトに撤退を進言する。


「駄目だァネフティィィス! 今すぐ全体に指示を出せェ! 半刻以内にこのままロンシャント砦に向かうとォ! 立ち上がらなければ、全員、ここで見捨てていくとなァア!」

「グホッ……!」


 バルバトはネフティスの腹に手を押し当てて強引に魔力を流し込んだ。

 ネフティスは体の痺れが取れていくのを感じた。

 ステラ級の魔力が流されたことで"扉"の鍵が解除されたようだ。

 バルバトはネフティスの髪の毛を離し、不機嫌そうに何処かへ歩き去った。


「ハァ……くッ、説得できなかった」


 解放されたネフティスは、ハラハラと無惨に抜け落ちる自分の髪の毛を見つめながら、ため息を付く。

 あの様になったバルバトはもう誰がなんと言おうと聞く耳を持たない。

 こうなったら半刻以内に、部隊を再編成してロンシャント砦に向かうしかない。

 ただ不自然なことがいくつかある。


「下手人は一体なぜ、我々に追撃をしてこない? まさか逃げたのか? 殿下に恐れをなして? いやそんなはずは……」


 一万の軍隊を行動不能にしたのに、その後何も起きていないことはあまりに不自然だった。

 だから今も近くに潜んでいるであろう下手人を警戒せずにはいられない。


「そもそも何者なんだ? 何が目的だ?……いや、考える時間もないな。今はとにかく動ける仲間を確保しなければ」


 ネフティスは思考の渦に沈み込みそうになるのを切り上げ、意識のある武官たち一人ひとりに、魔力を流し込んでいった。

 下手人の正体が、弱冠十二歳の守り手であり、五十キロ以上先から狙撃されたなどとは、ネフティスの頭では考えつくはずもなかった。

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