それならば新種の魔人か邪神と言った方が
魔人に気付かれないようその場を離れたリクトは、村へと戻る途中で考え込んでいた。
魔人は何故、人間にだけ害をなすのか。
テオ村でもそうだしワイズ村に行く途中の夫妻もそうだったが、マユとルウに対する行動は酷いものだった。
森には沢山の獣が生息する。
だが無残な状態で放置された動物は見たことがなかった。
村での物を使った遊びや川での遊びの観察、それを真似た行動。
それらのことから一つの推測が導き出された。
前にヴィゴールが言っていた。
魔人が魔王に語っていると。
人間を甚振るのは単なる遊びで、他に楽しいことを知らないからではないのか。
魔王が命令して、聞いて楽しんでいるのだ。
思いつくと他の遊びも見せて、どのような反応を示すのか観察してみようかと思い至った。
テオ村に戻ると将棋崩しは大人たちに取って変わられていた。
「ねえ、ドキドキするよね? もしかしたら、崩しちゃうんじゃないかって!」
「ドキ、ドキ!」
ミアとコリンは、取ろうとしているコマと同じ目の高さになって瞳を輝かせていた。
タクトはその近くでオロオロとしている。
ミアの言葉で更にプレッシャーを掛けられた者の手は震えていたが、ミアは気付かずに食い入るように見ていた。
チアとハルは誰が崩すのかを見て楽しんでいる。
セリナは近くで肘を突きながら石を弾き、カインは一人竹馬で曲芸に挑戦していた。
片足だけで器用に跳ねている。
「みんな! 違う新しい遊びをしないか?」
リクトが誘った瞬間に子供たちの目が輝いた。
いや子供から遊び道具を接収していた大人たちの目の色も変わっていた。
だが大人は混じれないどころか、遊んでいたら恥ずかしいだろう遊びである。
追いかけっこは普通にしていたらしい。
それに少し縛りを付けた、“だるまさんが転んだ”のルールを教えて行った。
もちろん魔人が見ているだろう崖上から見えやすい中央広場である。
東屋で視界を遮らない位置だった。
本当に見ているかは分からない。
気付いていると思わせないためにも上を見るわけにはいかないのである。
暫くすると“馬跳び”のルールを教えた。
今回は子供たちが飽きないで何時も遊んで貰えるよう沢山教えるのが目的なのと、魔人が興味を失わないように複数を見せるのが目的である。
体験学習ならぬ体験遊びを経験して貰うのだ。
だが女の子からは不評だった。
カインだけが喜んでいると言うことは、少し乱暴な遊びだったのかもしれない。
直ぐに、缶蹴りならぬ“薪蹴り”へと変えた。
蹴ったときに痛くないように中をある程度
カインは馬跳びが良いと言っていたが、熱心に見てくる大人にでも後ほど相手をして貰えれば良いかと思う。
そんな中、村の入り口がある方向から喧噪が聞こえてきたのだ。
何かを言い争っている声が、途切れ途切れだが微かに聞こえてくる。
魔人の興味がそちらに向いては観察が台無しになってしまう。
休憩中なのか眺めていた大人に子供達を頼むと、様子を見に行くことにした。
怪しい一人の老人が村に入っていた。
薄汚れた汚い格好をしている。
白っぽい生地のようだが、長年の垢がこびりついたような襤褸布を纏っていた。
村人が何用なのかと身体を張って侵入を阻み、確認をしていた。
「じゃから儂は、この村におる者に用があると、さっきから言うておろうが!」
「此方こそ誰に用事なのか、さっきから聞いてるだろうが? 誰に何の用なのか、まずは先に説明をしろ!」
「それとも何か? 村に入って、村人に言えない何かをするつもりなのか!」
村人と言っても兵士である。
老人と二人の兵士が一触即発の事態となっていた。
だが老人の声や話し方には覚えがあった。
「儂の方こそ、お主らには関係なかろうと、さっきから言っておるじゃろうが? それとも何か、お主等が責任を取ってくれるのかのう? ああぁぁぁんん!」
「何だとおぉぉ!」
「やっぱりヴィゴールか。お主って言うのは、お前くらいしかいないからなぁ」
暫く見ていたリクトだったが、言葉の節々から来ると言っていたのを思い出した。
リクトが言葉を挟んだことで、言い争っていた者たちの視線が向いた。
「おお? おおお! おった! リクトがおったぞぉ!」
目を丸くし感極まった表情をする爺だが、本当に友情を育みに来たなどとは微塵も思っていない。
直接干渉できない決まりと言っておいて、何をしに来たのか確認の必要があった。
だがその前に言うことがある。
「――にしても汚いなぁ。人に会おうとするなら、まずマナーは重要だぞ」
「まったくその通りだ! 食い詰めた盗賊のような格好をしやがって。リクトさんの世間体も考えろ」
「居もしない者に
この異世界を管理する神なのだが、この世界の人間からすれば疫病神のような扱いであった。
もっとも架空の女神エルデにその座を取られても、何も気にしていないので今更である。
リクトは曖昧に頷くだけだった。
「有象無象がうるさいわぁ! リクトよ! こうなったのも、全てはお主が余計なことをしたせいじゃろうがぁ! それを言うに事欠いて、何が詐欺だ何が気持ち悪いだぁぁあ? ――顔から落とされ、馬車にも乗れず、この痛み、許さん、絶対に落とし前を取らせてくれるわぁ」
リクトの知らない内容も盛り込まれていた。
だが異世界の勇者の召喚それに光属性など人々が知ってはいけないことは伏せているような印象がある。
勇者ライリの存在感を薄めたくないのかと理解し、リクトも調子を合わせることにした。
「何を言っているのか分からないが――。この前は感謝の表われって言ってなかったか? 心を結んだ盟友だとか親愛なる友だとか聞いたんだがなぁ?」
「はっ! 新しく生まれた魔王と盟友だの友だのと、ありえんわぁ! 泣いたって許さん! 神である儂に害をなすお主を、今この場で抹殺してくれるわぁ!」
魔王と言った瞬間に二人の顔色が変わったが、その後の神である儂と言ったことで緊張が解けていた。
だが内容には付いて行けず、置いてきぼりを食らっている二人の兵士が顔を見合わせる。
言い争いが続いているからか、他の村人の姿もちらほらと遠巻きに見え始めていた。
「会えなければ泣いてしまうと言ってたのは、ヴィゴールだろう? はっきり言って気持ち悪かったが。――それより、何でそんなもんを得てこっちに来てるんだ? 直接的な干渉は駄目だったんじゃないのか?」
「お主のせいじゃろうがぁ! 儂の返り咲きのためにも、魔王を討伐してこいやあぁぁぁ!」
肉体を得てと言うのは如何だろうかと思い、そんなもんと言ったがヴィゴールにはしっかりと伝わった。
伝わり過ぎて憤慨したためか、顔から落とされたと言った意味が分かった。
それが何を意味しているのかも。
だが討伐するのはヴィゴールの当初からの計画にある勇者ライリである。
「さっきは抹殺と言っておいて、今度は討伐してこいか? 最初からそうだが、随分と都合の良いことばかりを言うんだな、ヴィゴール。――魔王討伐は、勇者の仕事だろう?」
「うるさいわい! お主がやれ。お主がやれ。お主がやれ。――」
召喚されたときと同様に今回も一切の妥協もなく譲らない。
そればかりか話しにもならない。
この異世界に干渉せず、信仰対象が存在していなくても女神エルデとなっているのは幸運なことだろう。
崇拝も何もあったものではない。
だが絡まれるリクトからすれば流石に鬱陶しくなってきた。
以前ヴィゴールは自身のことを魔力体と言っていた。
至近距離で狂ったように同じ言葉を繰り返して飛沫を飛ばしてくるヴィゴールに、さりげなく近付くと両腕を掴んだ。
「レッツ・ドレイン」
魔力の吸収は、対象に触り自分に流れてくるイメージをすることで可能となる。
それを言葉にすることで、イメージを素早く明確にしてみた。
「ぎゃわわわわあぁぁぁ? ――はあ、はあ、はあ。……何じゃ、何をしたんじゃ?」
リクトは面食らうが、ヴィゴールも同じだった。
いや動揺はヴィゴールの方が大きいようだった。
「なぜ儂の授けた術が、儂に影響を与えるのだ? 何をしたのじゃ? ありえん。全くもってありえんわぁ」
息も絶え絶えに後退っていくヴィゴールが独り言を呟く。
だが視線がリクトの足を捉えると徐々に上げていき、胸の位置までくると止まった。
まさか、これ程の効果があるとはリクトも思っていなかった。
一般の魔術とは異なる別格な術とは言え、自身の授けた術で自身が不利な状況に陥るなど有り得ないことだろう。
術を貰ったときの言葉からも理解できる。
だが少し位なら効果はないかと試してみただけだったのだ。
「おっ、お主、まさか……。こっ、これを、狙っておったのかぁ?」
「…………」
意味の分からないリクトは何も言わない。
「図星かぁ……。そりゃあ何も言えんじゃろうなぁ。お主の要求で授けたゴッドストレージだが、特性を理解し、儂に悪さをするため本来なら不可能なことを可能にするために、この術を要求したのじゃろうからなぁ」
詳しくは分からないがヴィゴールの言葉によって、前にカリンが言っていた言葉を思い出して腑に落ちた。
『リクトって、この世界の魔力とあたしらの世界の神通力を結合してるんでしょう? そこにいたら魔力もあたしに馴染んで、消滅しなくて済むんだよねぇ』
これは神通力もそうだが、ゴッドストレージが魔力で満たされていることを意味すると思われた。
魔力を吸収するにしても人の身では限度があるだろう。
ましてや神ともなれば量だけに限らず密度も高いのかもしれない。
だがゴッドストレージがあれば可能なのだと、ヴィゴールは言っているようなものだった。
だが――。
「ああ……。勘違いしているようだが、確かに早く終わらせたいのは一緒だろうと伝えて別格な術を貰ったが、ゴッドストレージはヴィゴールがブチ切れて、サービスだと最後に寄越したものだろう? 俺のせいにするのは――」
「うるさいと言うておろう! 全てお主が悪い。全部お主が悪い。お主がいなくなれば、全てが解決するんじゃぁぁぁ!」
叫んだかと思えば急に目の前に現れた。
血走った目は追い込まれた犯罪者のそれである。
身の危険を感じたリクトはヴィゴールが動き出す前にと、こめかみに両手を当ててがっちりと固定した。
「レッツ・ドレイン」
「あばばばばばぁぁぁ――」
何も学ばず話しも通じないヴィゴールに、リクトは全力で魔力を吸収しつくす。
これでは魔人の方がましのように思えてしまうのは、リクトの気のせいではないだろう。
少しすると、干からびはしなかったが魔人のように煙となって消え去っていった。
側にいる村人の二人は唖然としていた。
先ほど遠巻きに見ていた村人も、今はかなりの近くまで来ている。
その者たちも唖然としていた。
人間が消滅するなど、何が起こったのか分かるはずもないからである。
「みんな、すまなかった。前に絡んできた奴なんだけど、どうやら魔王をも越える新種の魔人か、魔王を作り出した邪神の類いだったようだ。――もしやと思ったんだけど、煙となって消えていったのがそれを証明していると思う」
皆が目を丸くする。
話しが大きくなりすぎて付いて行けないのだろう。
だが本当のことである。
現異世界が現状となっている根本的な原因は、ヴィゴールで間違いがないのだ。
「もっと、早くに判明していれば良かったん――」
「リクトさんのせいじゃないだろう? それに人間じゃなかったのは確かだしな」
「そうだな! 害をなすために来たのも明白だったし」
魔人は人間の言葉を話せない。
誰もが知る周知の事実である。
だからこそ人間だと思い込んでいた。
しかし人間が煙のように消えることはありえない。
それならば新種の魔人か邪神と言った方が、しっくりくると言うものであった。
近くにいた二人がリクトの言葉を遮る。
周囲にいた人々も集まってきて、それぞれに思ったことを語った。
「勇者パーティーにいたリクトさんだから、一人になったことで襲いに来たんじゃないかね?」
「そうそう、それね! ありえるわよねぇ」
最初に輜重隊が来たときに話したことが、公然たる事実となっているようだった。
婦人方にも伝わっていた。
「邪神かぁ。……普通じゃ気が付けない、そんなもんも討伐してくれたんだなぁ。――潜り込まれていたら、また危ないところだったって訳かぁ」
魔人を何匹も討伐したリクトであり、言葉に加えて場所柄もあってか説得力があり過ぎたようだった。
皆が共感して何度も頷き、肯定しながら次第に歓声へと変わっていったのだった。
翌朝になると、良い知らせを土産に出来そうだと輜重隊は旅立っていった。
良い知らせとは何か。
邪神や新種など悪い知らせではないかと思いながらも、見送ったリクトは自身の手を見ながら握ったり開いたりを繰り返している。
魔人からでもそうだったが、昨日から内包する力に納得感を得ていたのだ。
今のリクトは魔人から取り込んだ後より遙かに魔力が上回っており、別次元と思われる力が漲っていたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます