俺様の剣は最強と言っても良いだろうな

リクトとライリは西に掛かって歩いていた。


リクトは前の異世界で、馬に乗るのは時間の短縮になると言われて練習したことがあった。


だが法術士の二人はかなりのスパルタだった。

あれはきっと楽しんでいたのだと今でも思っている。

それでも乗れるようになったのだから感謝しかない。


だがライリはどうか。

ライリは馬に乗れない。

更には勇者が供の後ろに乗るなど、格好悪くて嫌だと反対したため歩きとなったのだ。

自分で乗ろうという気はないようであった。


リクトは西に向かう馬車でも来ないかと探す。

街からの乗合馬車はなさそうなので、取り敢えず出発してから見つけたなら乗せて貰えないかと交渉しようかと思っていた。


暫くすると後ろから三台で連なった馬車がやってきた。

何かの商隊のようであり方向はもちろん西である。

端に避けて、近くに来たなら手を振って速度を落とさせた。


「あんちゃんたち、どうかしたのかい?」


併走しながら歩く二人に御者が尋ねる。

幌付きの荷台からは、男たちが鋭い目付きで見据えていた。


「途中までなんですけど、乗せて貰えないですか?」


リクトが頼むと御者は眉を顰めた。

だが目付きの鋭い者たちの後ろから、恰幅の良い男が顔を出した。

リクトとライリを凝視する。ややあって口を開いた。


「狩猟人組合の人たちですか。――何処まで行くのですか? ここら辺も盗賊が出ないとは限らないですし、危険なんですがね?」


商隊のリーダーだと思われた。

探るように見てくるのは、遠回しにだが今言った通り盗賊ではないかと疑っているようであった。

馬車内での不意打ちを警戒しているのだろう。

狩猟人組合の組合員だと確認しても、安心は出来ないのだと思われる。


「俺様は魔王を討伐する勇者だぞ! 乗せてくれたって良いだろうが?」


「勇者……ですか?」


ライリが突然の強行に及んだ。

国王からの言伝は、討伐を終えるまでは表沙汰にはしないと言うものだった。

また司教から貰った支度金は、他では支援を受けられないと言う意味にも解釈できるのだ。


だが口に出してしまえば取り消すことは出来ない。

特に疑われている状態では、下手に隠し事をすれば疑念を深めてしまいかねない。


「ええ、そうですね。――本当は国王陛下の言葉通りに、内密にしておいた方が良かったのですがね」


「えっ、そうなのか?」


そんな話しは聞いていないとばかりにライリが目を見開いて驚く。

それは商人も同じであった。

特に国王陛下からの言葉と言うのは大きかったようだ。


「我々一般人の知らない所でそのようなことが……。分かりました。国王陛下との言葉を出して悪巧みをすれば、死罪なのは自明の理。あなたは下手に隠そうとせずに信用できそうだ。使用人の何人かは腕に覚えがありますが、護衛として手助けをしてくれるなら乗って頂いて構いませんよ」


「ええ、それで構いません。街まで行かずに途中で降りますが、それまで宜しくお願いします」


リクトは頭を下げるがライリは何故か不貞腐れている。

頭を押して下げさせ再び礼を言った。


乗った馬車は快適に進む。

国王陛下の内密との言葉で余計なことを聞いてくる者はいない。

途中で降りるのも、何か特別な用件があってのことだと捉えられていた。


だがどの位の強さがあるかは別である。

内密で魔王討伐に行くのなら、最強の強さを持っているはず。

腕に覚えがある者たちは護衛の手助けを名目として興味津々で質問してきたのだ。


先ずはどの程度の魔術が使えるかだった。

ライリは自慢げに話し、リクトの使える魔術も暴露する。

歳の割に二属性を二番目までも、一属性だけだが特殊な魔術もかと囃し立てられた。


攻撃系の者と回復系の者で、組み合わせの良いパーティーだと言われれば俺様は怪我しないから無用だがなと言って、一瞬だが場を静まり返させる。


「けっ、剣の腕前は如何なんだ? さぞかし凄いんだろう?」


場の空気を変えようと一人が切り出す。

ライリは空気などお構いなしにご機嫌のままだった。


「ああ勿論だ。剣だけでも俺様に勝てる者は少ないだろうが、魔術と組み合わせた俺様の剣は最強と言っても良いだろうな!」


「それは凄いな! ――リクトさんは如何なんだ?」


使用人が振り返ってリクトに聞く。

だがリクトが口を開こうとすると、ライリが口を挟んだ。


「ああ、……最初は俺に剣を教えていたんだけど、今では俺の方が上になってしまってな。あまり聞かないでやってくれ。おっ、――兎がいるな。晩飯の足しに狩ってくるか」


ゆっくり進んでいてくれと言いながら馬車から飛び降りると風属性の二番目の魔術を放った。


脚に当たり動きが鈍ったところで抜剣して走り出す。

するともう一羽いたのか飛び出してきて逃げた。


ライリはそれに直ぐさま二発目を放つ。

逸れて当たらなかったが、兎が進路を変えたのでその先へと走り込んだ。


剣を下から振るう。

だが届かないと思ったのか片手を離して振り抜いた。


辛うじて切っ先が届いて兎が転がる。

体勢を整えたライリが滑り込むと、仕留めることに成功したのだ。


最初の一羽も仕留めて戻ってくると、馬車からは喝采をもって迎えられた。


調子に乗るライリ。

リーダー気取りでいるのも良いが、これでは他のメンバーを入れては危うさが満点であった。


如何したものかとリクトは考え込む。

どのくらい考え込んでいたのか馬車が止まると、暗くなってきたので野営準備に入るとのことだった。


ライリに言われて乾燥野菜を取り出す。

何時の間にか同じ鍋で食事をすることになっていた。

兎の解体もライリはしたことがないと言うのでリクトが行った。


就寝時に見張りは必要である。

肉食獣が出ないとは限らないのと、盗賊の襲撃に備えるためであった。

リクトとライリが加わったので三班での交替制ですることになった。


最初の見張りとなると、テントを張ってから焚き火を囲む。

だがライリは火に当たると早々に横たわって眠ってしまった。


説明を聞いていたのか見張りの意味を理解しているのか疑問に思うが、起こそうとすると煩そうなのでそのまま放置した。


「ヴィゴール。……勇者の願いを叶えるのは難しいぞ? そもそも流されているだけで、ライリに願いなんかあるのか?」


虚空に向かって呟く。

だがヴィゴールからの念話はこなかった。


護衛も兼ねる使用人が交替となって起きてくると、ライリを起こしてテントに入る。

愚図ったライリだったが引きずってテントに放り込む。

リクトも横になると眠りについたのだった。



「盗賊だ! 起きろ!」


リクトの危険に対する意識は非常に高く、瞬時に反応すると立ち上がった。

既に完全覚醒して何時でも戦闘態勢に入れる状態だった。

テントは薄らと明るくなっており、今は夜明け直後だと思われた。


横を見るとライリが寝ている。

完全に熟睡していた。


ライリを足でもって揺さぶる。

多少力が入ってしまったのは仕方がないことである。

それでもしぶとく寝ていたライリだが、ようやく目を覚ました。


「なんだよぅ、煩いなぁぁ。熟睡できねぇじゃねえかぁよう」


外がかなり騒がしくなっている状態でよく寝ていられる。

そもそもさっきまで熟睡していたではないかと思っても、早急に対応すべきことに意識を集中した。


「……盗賊の襲撃らしい。――魔王を討伐するためには魔人も討伐しなければならない。二足歩行の敵を相手にできる良い機会だし、加勢に行くぞ」


魔人は、人間とは比べものにならないくらい体力や腕力に敏捷それに、魔術の適性が高い。


火属性は火に触れる機会がないので使えないらしい。

土属性は魔王の元に残り、外に出てきているのは水属性と風属性を使う個体だけだと、最初にヴィゴールに説明して貰っていた。


「何してるんだ! 殺されたいのか? 早く起きろ!」


外からの切羽詰まった声が響くと、ライリのぼやけた思考もはっきりとし始める。

直ぐに剣を取ると立ち上がった。


リクトが外に出るとライリも続く。

外に出るとぱっと見、八人の柄の悪い男たちが馬車を半包囲していた。


「なんでぇぇ。勿体ぶるから、女かと思ったら野郎かよ? こりゃ皆殺し決定だなぁ」


「頭ぁぁ。女がいたら、如何してたんすかぁ?」


「んなもん決まってんだろう? 野郎共をぶちのめして目の前で楽しんだ後、皆殺しよぅ!」


「ギャハハ! どっちみち、お前等は死ぬ運命なんだとよぅ!」


リクトは軽く周囲を見て確認する。

商人や御者等の非戦闘員はいない。

馬車の中に隠れているのだと思う。

使用人の顔色は悪く、四対八では多勢に無勢だった。

更には伏兵も潜んでいる可能性もある。


ライリに小声で、使用人の手助けは当然するが、その前に使用人や盗賊の戦闘方法を良く見ておくようにと伝える。

二足歩行で魔術も使う魔人に対峙するには、更に強くなるために良い部分を取り入れ自分の悪かった部分を取り除く必要があるためだった。


「野郎共! 護衛をぶち殺して荷物を頂くぞ。もしかしたら女が隠れているかもしれねえ。馬車から誰も逃がさねえように注意しとけよ。――おらぁ、掛かれぇぇ!」


「おお!」


盗賊が一斉に襲い掛かってきた。


「分かった。加勢に入るタイミングは言ってくれ」


目を見開いて驚いていたライリだったが、リクトの言葉に少し考え込むと頷く。

リクトは軽く返事をすると、隠れられそうな周囲を経験による感覚と違和感で気配を探っていった。


争いは馬車を狙って二方向から仕掛けられた。

だが前後と言うわけではなく、斜め右からと斜め左からで比較的守りやすくはあった。

四人が展開して応戦している。


ライリは忙しなく二箇所に視線を送る。

少し離れた位置にいることもあってか素人だと思われ、何時でも始末できると無視されているようであった。


違和感のあった一つの場所に少しの異変があった。

リクトは気配を隠して死角から回り込む。

すると二本の木に身を隠しながら様子を伺う、弓を持った二人組がいた。

他の違和感は全て消えていた。


気配を出さないように忍び寄っていく。

一足飛びに一人を始末できる位置に近付くと、瞬時に飛び出して抜剣し頸椎を断ち切った。


「うわぁぁぁぁ! 頭ぁぁ、見つかっちまったぁ! まっ、待ってくれ。助けてくれ。俺は何もやってねえぇぇ」


「ライリぃぃ! 全ての盗賊を、始末して良いぞぉぉ!」


命乞いする盗賊に接近しながら叫ぶ。

弓を振り回してくるが、片手で掴んで捻って奪い取ると、後方に捨てて剣を真横に薙いだ。


盗賊の首が飛んだ。

それと同時に馬車の方から悲鳴が聞こえてきた。


「ぐおぉぉぉぉ! 何してるんだぁぁ? 早く殺せぇ!」


「そうは言ってもぉ! ぎゃあぁぁぁ?」


ライリは何時もの戦い方である、風の刃を放った直後に駆け出した。


魔術が手前の盗賊に向かうと、間一髪身を捻って躱した。

だがその先にいた頭目の顔を掠めたのだ。

激怒する頭目に気を取られて隙を作る。

それをライリは見逃さず、剣が胸部を斬り裂いたのだ。


剣で打ち合い、力で押しているときに違う敵が斬り掛かってきたなら、剣をそのままに身体を捻って躱すしかない。

敵が敵の影から攻撃してくるなら、敵で隠して攻撃すれば良い。

盗賊の戦い方を見て学んでいた。


直ぐに頭目の死角に入り込み接近する。

慌てて顔を向けた頭目だったが既に遅く、剣が腹を通過していった。


残りの盗賊が、護衛も唖然として動きが止まる。


ライリがそこに再び風の刃を放つ。

そして今度は一人で複数人を相手にしていた使用人を模して、集団へと斬り込んでいった。


リクトが戻ってくると全てが終わっていた。

全ての盗賊が骸となって横たわり、怪我一つない使用人が信じられないとばかりにライリを見ていた。


ライリは呆然と自身が持つ剣を見ていた。

だがリクトが近付くとボソッと呟きを発した。


「風を感じたんだ。……動くときや、剣を振るうときに」


リクトは来たばかりのこの異世界のことに詳しいわけではない。

でも思い当たることがあった。

魔術を使うことで魔力が上がるわけではなく、自然の属性に触れ続けることで魔力が上がり、新しい魔術が使用可能となる。


この異世界で術を使う力は極端に上がりづらいと思っていた。

だがライリは特別性で、適性が高いのではなく、とてつもなく高かったのだ。


「すっ、凄えぇ……」


「うおぉぉぉぉ! 助かったぁぁ」

「つえぇぇぇ! 強すぎるぅぅ」

「流石は、勇者様だぁぁ!」


護衛の一人が喝采すると、その興奮は次々と伝わっていく。

静まり返り、そして興奮状態の仲間の声が響き渡ると、馬車から商人を始めとして非戦闘員が顔を出した。


目の前に広がるのは盗賊の成れの果て。

使用人は四人とも健在で、赤い染みを付けながらも絶叫していた。

そしてキョトンとする勇者に仲間のリクト。

全てが終わったと理解すると次々と降りてきた。


「そう言えばリクトさん。もしかして、盗賊の仲間が隠れていたのか?」


一人の使用人が思い出したように言えば皆から注目を浴びる。

リクトは首肯した。


「そうだな。弓を持った二人組が様子を伺っていたから、始末した」


「おお! リクトさんも凄えぇ!」

「マジかぁぁ! 助けられたぁぁ」

「俺なんか、全然気が付かなかったぞぉぉ!」

「流石は、リクト様だぁぁ!」


再びの喝采が始まった。

乗りが良すぎるのかテンションが爆上がりなのか、お祭り騒ぎとなっている。

だが近くにきた商人がやんわりと止めた。


「ライリ様にリクト様。この度はありがとうございます。お二人がいらっしゃらなければ、殺されていたことでしょう。おかげ様で助かりました」


「いえいえ。私どもは護衛を兼ねる約束で乗せて頂いたのですから、気になさらないで下さい」


商人が頭を下げると皆が揃って頭を下げる。

リクトとしては乗せて貰う条件だったので、頼んで頭を上げて貰った。


「それでも助かりました。ありがとうございます」「ありがとうぅ、ございまぁぁぁす」


商人の再びの礼に、他の者たちの声も続いた。

苦笑いが零れるリクトだったが、盗賊の処理は如何するのかと気になった。

だが腐乱して周囲に被害が出ないように土属性の一番目の魔術で土葬すると言うので、任せることにした。


「……俺、風属性の三番目の魔術が、使えるようになったかも?」


「えっ、何? 何か言った?」


呟くような言葉がライリから聞こえたので聞き返す。

すると表情を輝かせたライリがいきなりの暴挙に出た。


「いけ! “勢いのままに吹き飛ぶ風の力”」


急に発生した突風が木々を薙ぎ倒していく。

それを見た誰もが、言葉にならない声を発したのだった。

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