Your Song

Mostazin

Your Song

 君の為に書いた曲が鬼バズり、動画サイトでミリオンを達成した。


 この流れに乗ったのか、短い動画でもこの僕の曲は感動系の動画の背景曲として多くの人に使われた。


 その流行りのおかげか、全くの無名だったただのフリータの僕に音楽番組の出演依頼が届いた。


 学生時代は目立つタイプではなかったので、最初は顔出しするのが怖かったけど、君の「出てみたらいいじゃん。私は君が作った曲、好きだし」という言葉に励まされ、出演を決定。


 そして、実際にTV番組で歌うと今まで以上の反響があり、ただのフリーターだった僕に出演依頼が殺到した。


 当然、アルバイトを続けることも出来なくなり、毎日のようにTV番組、動画サイトでの有名人とのコラボをしていった。


 そして、その忙しさに比例するかのようにお金と連絡が増えていった。


「本当にかっこいいですね」

「曲感動しました! サイン下さい」

「お前凄いな! 久々に飲みに行こうぜ」


 そういう温かい言葉を今まで受けとったことがなかったから、嬉しくてしょうがなかった。


 感覚としては、まるで主人公になったような気がしていた。


 だが、こういう状況でも、僕の曲の良さをわからないバカがいて、好き勝手SNSに酷評する奴もいた。


「一発屋に違いない」

「たまたま売れた陰キャが調子に乗って、肥えてきてるw」

「ちゃんと聞いてみるとコイツの声震えてて、マジで草生える」


 彼らはただ僕の事をひがんでいるだけだ。僕はそんなバカな奴とは違って、大人だからな。

 僕はそう考え、そんな奴らのことは無視しようとしたが、そう考えれば考えるほど、僕は日に日にSNSから目が離せなくなってしまった。


 悪意ある言葉を書いているアカウントをブロックしてもブロックしても現れてくる。

 だから、僕はより一層、その悪口に対抗する為に、スマホからより手を離さないようにした。


 でも、その影響で毎日毎日届く悪意の言葉が日に日に僕を締め付け、どんどん外に出れなくなっていった。


 加えて、前までよく来ていた友達からの連絡も減っていき、以前のフリーターの時と同じような生活になった。


 いや、それ以上にひどい有様だと言えるだろう。(仕事もしていないし……)

 でも、SNSの通知音だけは減ることはなかった。


 そんなある日の朝、突然、玄関の方から音が聞こえた。




 …………………ピンポーン…………………




 いつもスマホから聞こえてくるあの嫌な通知音とは違う音が鼓膜に響いた。

 毎日のように聞いている音と違い、不思議とその音は心地よかった。

 そのおかげか、体は考えるよりも先に玄関に近づき、自然と扉を開けていた。


 すると、そこには君がいた。


「随分と酷い顔してるね。酒臭いし……。ちょっと失礼するよ」


 君はそう言い、いつものようにずかずかと僕の部屋に入っていった。

 

 そして、何も言わずにぐちゃぐちゃになっている1Kの小さい部屋の掃除を始めた。


 そういえば、随分と君のこういう姿見てなかったな。

 そんなことを考えながらキッチンの前で棒立ちする僕を横目に掃除を進めていく君。


「何か僕も……」

「何もしなくていいよ。私がしたいだけだから。あ……」


 彼女は僕のベットの上にあったスマホを手に取り、画面をスライドして電源を切った。


「な……何を勝手に……」


 僕がそう言いながら、君に近づくと、君は指を口にあてて「静かにして」のポーズをした。


 僕は彼女のその目に声が引き込まれてしまったかのように口を閉じ、なぜか、目も閉じてしまった。




 …………………………………………………………………………


 …………………ビュン…………………ビュン…………………


 タタタタタタ………


 ……ブーン…………………ブーン…………………


 ウィーン…………………




 自分の頭の中に今まで全く気にも止めていなかった音が鼓膜を気持ちよく揺らした。


 その時に口元に何か柔らかい感触を感じた。

 僕はその正体が知りたく前を見ると、そこに君がいた。


「自分で言うと恥ずかしいけど、あの曲って私の為でしょ……。三年記念日の……」


 君は少し顔を赤くしながらそう言った。


 そうだ、あの曲は元々、君と付き合って三年の記念日を祝う為の曲だった。


「う……うん」

「なら、これからも私の為に曲を書いてくれるんだよね? じゃないと、その……嫌だから」

「え?」

「そんなに驚かないでよ。私だって恥ずかしいんだよ」


 君は赤くなっていた顔を下に向けてそう言った。


 僕はそんな君に見惚れてしまい、つい髪を撫でた。(というか、髪を撫でる以外の選択肢を僕は持っていなかった)

 

 その僕の手に呼応するかのように君は僕に近づき、頭を僕の胸に預けてこう言った。


「前に言ったでしょ。私は君の全ての曲が好きだって。6ヶ月、1年記念日に作ってくれた曲も全て同じ位に全部好きだって……」


 僕はその言葉を聞き、彼女を強く抱きしめた。


 そして、自然と頬に涙が流れるのを感じた。


 僕は泣いた。彼女を抱きしめながら長い時間泣いた。

 今まで受け取ってきた言葉を全て洗い流すように僕は泣いた。





☆☆☆☆☆☆☆




「またもオリコンチャート一位おめでとうございます!」

「ありがとうございます」

「今回の曲も大きな反響を得ていて、五年連続の紅白出場も確定したと言われていますがどうでしょうか? 私も会社へ向かう途中で何度も聞いてます」

「紅白はまだ時期が遠いのでわかりませんが、皆さんが今回の曲も好きになってくれたのは本当によかったです」

「あの五年前の曲から、動画サイトでもミリオンを連発していますが、何か作曲の秘訣みたいなことがあるのでしょうか?」

「秘訣……ですか。ありますね」

「もしよろしければ、それを教えていただけると……」

「まあ、他の歌手の方も同じかと思うのですが、誰かの為に作曲すること……ですかね」



☆☆☆☆☆☆☆



「カッコつけちゃって。あの時大泣きしてたのはどこの誰なのだか……」

「それは言わない約束でしょ」

「でも、今回は特にいい曲だね」

「そうだね。まあ、理由は……ね?」


 僕はそう言い、隣に座っている君のお腹を優しく摩った。

 少し膨らんだお腹を静かに摩った。


 外には、気持ちいい風が吹いている様だった。

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