第12話
「案内するのはいいとして、具体的に行きたい場所はあるのか?」
「むむむっ、それは悩んじゃうね」
「悩んじゃうほど多く行きたい場所があると?」
「そうだよー。ワタシにとってはこの廊下だって珍しいんダカラ」
廊下? なんで廊下?
この何の変哲もない一直線の通路にどんな魅力があるのか。
「不思議そうな顔してる」
「正直なところ、リーナが何を珍しがってるのか分からん」
「ふふふっ、和頼が北欧に学校に来たら違いにビックリするんだろうね」
「そんなに違う?」
「全然違うよ~。たとえば……廊下にロッカーが無い!」
「ロッカーって……物をしまうロッカーだよな?」
「いえす! 故郷の学校はみーんな廊下にロッカーがあるんだよ。外国のドラマや映画で学校のシーンを観たことない? あんな感じ!」
言われて映画の記憶を掘り起こしてみる。
そういえば確かに若者が登場する映画には、ロッカーがある廊下が映っていたような気がする。観てた時には全く気にならなかったが、もしアレが日本の廊下と比べてみればどうかと問われれば『違う』と応えるはずだ。
「なんで廊下にロッカーがあるんだ?」
「教室にロッカーがないからだよ」
「教室と廊下のどっちにもロッカーあるんじゃなくて?」
「そもそもの前提が違うんだヨ和頼。北欧の学校はね、日本でいうところの自分に割り当てられた教室がないの」
「自分の教室が……ない?」
「えーとっ、どの授業も決められた場所で行なうようにって言えば伝わる?」
「要は、オレ達でいうところの移動教室がメインって事か? 決められた自分の教室がないからロッカーもない。だから廊下に設置してると」
「そうそう!」
なるほどなー。そりゃあ廊下の光景すら珍しくも感じるか。
「廊下ひとつで珍しく映るなら、いっそ学校中をぐるっと案内した方がいいか」
「そうしてくれると嬉しいだ♪」
「OK。したら近場から順番に行ってみよう」
「ひゃっはー、日本の聖地巡礼の始まりだよー♪♪」
「聖地?」
「日本の学校は、アニメにも頻繁に登場する場所だから!」
「ああー、聖地ってそういう意味合いの? でも、この学校自体がモデルになったなんて話は聞かないが」
「それはそれコレはコレ! 確かに、作品の舞台として使われたトコなら超嬉しいけど贅沢は言わないよ。日本の学校ってだけでワタシには聖地なの!」
「さよか」
もしこの学校に魂が宿っているのなら、こんなにはしゃぐ留学生の登場はさぞお喜びになっているかもしれないな。
そんな妄想をしながら、リーナを連れて案内を進めていく。
基本的な教室は自分達のクラスと大差がないため、リーナが気になって足を止めない限りは軽くスルーでいいか――なんて考えていても各教室にいる同級生達の日常的な学校生活はリーナの目を惹くようで、しばしば足を止めては幾らかの質問をされた。
「和頼! さっきの教室もそうでしたが、下校していい時間になっても多少の生徒が自分の教室に残っていたりするね! 何か理由があるの?」
「……自分の教室なら別段とやかく言われないから、かな?」
「他の教室ではとやかく言われるの?」
「『なんで居るんだ?』ぐらいには思われるだろうな。今はクラスメイトの顔と名前をしっかり把握出来てないから、他クラスの生徒がいても分からないだろうけど」
「特に入ってマズイわけではない?」
「マズくはないが、多少は気まずくなる可能性がある。自分のクラスという集団に、別の集団の生徒が入ってくるわけだから」
「ぉぉぅ、そういうものなんダ……。クラスという集団に別の集団の人が来ると違和感が強いわけだね。じゃあ他クラスの人と友達になるのは難しさアップダヨ」
「そんなにたくさん友達が欲しいのか?」
「え? だって日本の言葉で『友達百人出来るかな!』ってあるじゃない。アレってたくさん友達作ろうねーって推奨する意味だよね」
「言われてみれば……そうかも」
そもそもは古い歌か何かだったっけ?
帰ったら母さんに聞いてみた方がハッキリ分かるかもしれん。
「和頼は友達百人います?」
「数えたことないから分かんないな。案外いるかもしれないが、オレは大人数でつるむ機会はそこまで多くないし」
「ええ!? 和頼ってば多人数でつるむ機会が少しでもあるの??」
「え、そんなに驚くとこか?」
むしろ普通じゃね? 大人数でつるむ機会なんて、そもそも交友関係が普通以上に広くないと無いだろ。
「さすが裏でHENTAI文化が開花し続ける国だね。そっかぁ、和頼ってばそんなに女友達ととっかえひっかえ……破廉恥!!」
「だれが破廉恥か!」
「だって! だってだってだって、つるむってそういう意味じゃない!?」
高速で自分のスマホを操作したリーナが、表示した画面をオレに見せつける。
そこは日本語の言葉について解説している辞書のようなサイトであり――。
『つるむ』
/意:交尾する、つがう
初めに出てきたのがコレだった。
とんでもない誤解である。
「全然違うわ!? 何を想像してんだお前は!!」
「わっつ!?」
「オレが口にした『つるむ』ってのは、そういう意味じゃない。一緒に行動するとかそういう意味だ」
「え……じゃあ、この例文は……?」
/一例:夜の歓楽街をつるんで歩く
「合ってない! ……いや、本来の意味的には合ってるかもしれんがっ、少なくとも学生が使うことはほぼ無い」
「じゃあ和頼は、夜の歓楽街を友達とつるんで歩かない?」
「ないよ」
少なくとも今は。
「ホッ、良かったよー。日本の学生はそんなに爛れてるのが一般的なのかと……」
「そんな一般常識は知らん」
日本の皆、オレはたった今この瞬間に北欧美少女のとんでもねえ誤解を解いてやったぞ。褒めてくれ、これで間違った常識が北欧に届くことはない。
「やれやれ、リーナは日本の文化が好きって割には変なところでポンコツってるよな。常識的に考えておかしいとは思わないか?」
「思わないわけじゃないけど、日本アニメには一人の主人公に対してたくさんの異性が関係を持つハーレム物が割とあるでしょ。だから本当なのかなーって」
「マジで?」
「いえす。界隈によっては大流行してるよ」
マジで?(二度目)
道晃のヤツに今度確認してみるか……。
「それはさておき、そういうのはフィクションだフィクション。皆無とまでは言わないが、そこかしこに転がってる状況じゃないぞ」
「そ、そうなんだ…………。たくさんの女の子に囲まれてあたふたしてるラッキースケベの現場は一度見てみたかったダ」
お前の興味が向いてる方向が分からんくなったよオレ。
外国から来たオタクは皆こんなだったりするのか?
「そんなハーレム状態の男が好きなのか?」
「ノー。むしろ可愛い女の子の方が好き」
「ほう、ツンデレとかそういうヤツ?」
「ツンデレ! アレはいいものだよー、誰もかれもが可愛くてギャップ萌えがすごくて……推せるね!!」
しまった、オレが推しの概念に着火してどうすんだよ。
このあとリーナのツンデレ好きトークが続いたのだが、オレはその半分も分かる事ができなかった。
「さて、音楽室、家庭科室、理科実験室に多目的フロアと回ってみたが、次は一旦外に出るか」
「いよいよ屋上かな!?」
「なんだ、そんなに屋上に興味があるのか?」
「あるある! すっごいあるよ!! だって屋上と言えば、イベント発生ポイントの王道でしょ!!」
力強く言い切るリーナ。
その気持ちをオタクじゃないオレは共有しにくいのだが、彼女がそこまで言うからにはそういうもんなんだろう。
「ガッカリさせそうで悪いが、ウチの屋上は基本的に立ち入り禁止だぞ」
「なじぇ!?」
「危ないから、だったかな? というか余程屋上を有効活用しようとしてる学校でもなければ屋上は入れない学校の方が多いだろ」
「オーノゥ……」
がっかりしてる、すんごいがっかりしてる。
「ただ」
「ん」
「それは表向きの話で、入る方法が無いわけでもない」
「え!? 教えて和頼! どうやったら入れるの!!」
今度は食いつきっぷりが半端ない。忙しいヤツである。
「ひとつは怒られるの覚悟で、こっそり入る。屋上に続く扉の横には窓があって、そこは鍵がかかってるわけじゃないからな。やろうと思えばいける」
「アウトローな話だねぇ」
「もうひとつは、ちと手間がかかるけど屋上の鍵を借りて堂々と入る」
「なんだー、借りれるなら難しくないでしょ」
「その借りる先に上手く話しをつけないとダメなんだ。今日は無理だけど、そんなに入りたいなら今度なんとか出来ないか試してみるのも――」
「やったあ♪ ありがとだよ和頼ッ」
リーナがぴょんぴょんと飛び跳ねる。
その度に世界クラスの胸がポインポイン揺れてしまう。
こいつは危険だ危険すぎる。うかつにジャンプもさせられない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます